初めての夜
キスをしながら、レイは僕をベッドに押し倒した。
僕に覆い被さって、頬と頬をすり合わせ、しばらく動かない。
僕は、おずおずと背中に腕を回して、そっと抱き寄せた。
すると、顔を上げて間近から僕を見据えた。
漆黒の双眸が僕を捉えて離さない。
その熱い眼差しに蕩かされて、僕は声も出なかった。
「嫌だと思ったら、いつでも言ってくれ」
レイは、いつもより一段低い艶のある声でそう言った。
きっと、前にギルドで僕に触れた時のことを思い出しているんだろう。
──「レイなんて、嫌い……大嫌いっ。触らないで!」
僕はなんて自分勝手で、幼かったんだろう。
あの時の僕は、レイに裏切られたと思った。
大切にしてくれているという考えは、僕のただの思い違いなのだと。
でも今なら、そうじゃないとわかっている。
思いつめて、馬鹿なことをたくさん言って、レイを傷付けたのは僕の方だ。
レイは途中で止めて、僕の感情を優先して考えてくれていた。
今、僕はレイを見上げて、自分の心を曝け出した。
「レイだけではありません。私も、レイを欲しいと思っています」
僕を見つめる黒い双眸が、一瞬見開かれ、次いで嬉しそうに緩んだ。
気持ちが伝わったとホッとして、僕も微笑みかける。
レイは僕に触れて、身に着けていた服を丁寧に脱がせていく。
その長い指の動きを見ているうちに、恥ずかしさと共に嬉しさが込み上げた。
大切にしてもらっているのが、手つきからもわかる。
上着を脱がし、中のシャツのボタンを外し、下穿きを脱がす段になって、レイは手を止める。
「……ガーターだ」
レイはぽつりとそう言った。
シャツを留めるために下穿きの上につけるシャツガーターが、そんなに珍しいのだろうか。
「レイはしていないのですか?」
「ん? ああ、俺は身に着けていない」
お揃いの服なのに、僕にだけガーターをつけるなんて、側仕えの間違いだろうか。
「お前の兄は、良い趣味をしているな」
ニヤリと笑って言われたけれど、よく意味がわからない。
レイは、僕のガーターをしばらく眺めた後、結局外さなかった。
僕のシャツの前をはだけ、首筋や胸元にキスをする。
くすぐったくて身を捩りかけたが、シーツを掴んで何とか我慢する。
レイは、きつく肌を吸ったかと思うと、顔を上げて満足気に指先で辿った。
「あいつの所有の印を、上書きしてやる」
あいつというのは、アルサイールのことだろうけれど、所有の印は既にきれいさっぱり消えている。しかも、上書きというのはどういうことだろう。
僕が視線で問いかけても、レイは答えずにチュッと音を立てて、胸元へのキスを続ける。
そんなに吸ったら、口付けの痕が残ってしまう。
そこで僕は、さっきのレイの言葉の意味を把握した。
今は良くても、あとで側仕えの前で着替えたら、すぐに何の痕かバレるに違いない。
胸元を愛撫されているうちに、だんだんと身体が火照り出し、声が出てしまいそうになった。
「気持ちいいか?」
柔らかな声で訊ねられて、僕は肯定も否定もできなかった。
肯定するのは恥ずかしく、否定すれば嘘になってしまう。
レイは胸元から顔を上げて、再び唇にキスをしてきた。
「ルカーシュ、可愛いな」
幼名で呼ばれて、思わず目を開くと、レイはハッとしたように手を止めた。
「悪い、つい」
何を謝るのかと不思議に思ったところで、過去に自分が口走った言葉を思い出した。
──「その名で、呼ぶな……っ!」
混乱していたとはいえ、あんなことを言うつもりはなかった。
しかも、まだレイが覚えていて、気を遣わせていたことが居た堪れない。
「いいんです。呼んでください、レイ。あなたになら、呼ばれたい」
親しみを込めて幼名で呼ぶ人は限られている。
レイには、これからも呼んでほしいと思う。
だから、僕は微笑んだ。
レイは頷き返し、僕の頬に触れて呼んだ。
「ルカーシュ」
父母や兄たちが呼ぶのとは違う、レイの発音の仕方が僕は好きだ。
何が違うのだろうかと冷静に考えようとしたけれど、レイに触られて思考が奪われる。
ふと僕は、自分が裸同然で、レイが襟元さえ乱していないことに気が付いた。
「……レイも、脱いでください」
僕が言うと、レイは手を止めて僕の上から退いた。
そして、一枚一枚、着ていたものを脱いでいく。
露わになった厚い胸板や割れた腹筋に、僕は目を奪われる。
そっと手を伸ばして触れると、レイは僕の手を取った。
「今触られたら、まずいんだ」
レイは触るのに、僕は触ったらダメなのか。
ちょっと意味がわからずに視線で問うと、困ったように笑う。
「そのまま、俺に身を委ねてくれ」
僕は頷いて、抗いそうになる身体を落ち着けた。




