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箱入り

「うああああ……っ!」


 闇の気配が一掃されていき、僕は残滓さえも残さないよう魔力を込めた。

 叫び声を上げ、僕を引き剥がそうとしたようだが、もう遅い。

 手には力が篭もっておらず、押し返すことさえできていない。

 必死に身を捩ろうにも、膝に僕が乗っているために上手くいかないようだ。

 僕は、肩を掴んで動きを封じ、尚も浄化の魔法をかけ続ける。


 やがて僕は、自分の胸元にあった印の疼きが引いて行くのを感じた。

 僕に刻まれた所有の印が、ついに消え去ったのだ。


 レイの身体から完全に力が抜けたところで、僕は膝から立ち上がって、今度はその両手首を握る。

 粘膜接触では取り除けなかった闇の気配を、すべて払拭する。

 そして、闇を根源とした魔力量まで一気に減らし、やがて消滅させた。


 すると、レイの髪が金色になり、顔の形まで変わっていく。

 血管が透けて見えるほどに肌が色白くなり、唇が紫色に変色した。


「……お、まえっ」

「まだ喋れるのか。しぶといですね」


 僕を見つめ返す瞳が緑色に変わり、愕然と見開かれた。

 僕の手を振りほどくことができないまま、姿が元に戻っていく。

 完全にレイから元の姿へと変わり、僕はその様子に終わりを確信した。


「ようやくお前らしくなりましたね、アルサイール」


 僕は、その瞳を見返して、笑いかけてやった。


「うっ……く……。いつ、から……」


 アルサイールは苦し気に顔を歪めて、呻くように声を出した。


「お前が書庫に現れた時からだ。レイは書庫の鍵を持っている。僕が開ける必要なんてない。それに、レイから感じる魔力が、お前からは一切感じられなかった」


 魔法を使えないにしても、聖剣に選ばれた勇者であるレイにもまた、魔力はある。

 ジェネウスもだが、魔力が一切見えないことが、却って不自然なのだ。

 だからこそ、僕は警戒して気脈を探った。


 扉の前にいるのがレイではなくアルサイールだとわかった時から、僕は頭の中で作戦を立てた。

 アルサイールがこれ以上何かしかけてくる前に、こちらから先制攻撃するしかない。

 僕は、今こそがその好機なのだと感じた。

 アルサイールの正体を見破っていることを、気付かれてはいけない。

 油断させたまま、その魔力を浄化してしまおうと思ったのだ。


 前々から、僕はある可能性について考えていた。

 僕の癒しの力は、闇の黒い穢れを払うことができる。

 もし、アルサイールに対して癒しの力を使えば、闇そのものである魔力を消滅させることができるかもしれないという仮説だ。僕は治癒くらいでは魔力を消耗せず、もちろん生命力を削がれることもない。

 全魔力を注ぎ込んだところで、何ら問題はない。アルサイールの闇の力がどれほど深いかはわからないが、時間さえあればできなくもないと見込んだ。

 

 ただ、アルサイールに真っ向勝負を挑んだところで、警戒されてしまうのは目に見えていた。

 一番効果的な方法は、粘膜接触による治癒だ。

 とはいえ、抵抗されずに粘膜接触をするには、アルサイールに警戒心を抱かせないようにしなければならない。そのためには、僕が騙されていると誤解させるしかない。


 だからこそ僕は、罠を仕掛けて待っていた。

 アルサイールが、僕に近付いて来ることは予測出来ていた。

 レイのふりをして現れたこの機会を、逃すわけにはいかなかった。


「はな、せ」

「放すわけがない」


 そうして睨み合っていると、いきなりアルサイールの身体の輪郭が溶けた。

 まさかまだ瞬間移動する力が残っていたのかと慌てたが、大きさが変わっただけだ。

 縮尺がいきなり変化したため、僕は自分が巨大化したかと思った。


 だが、違う。アルサイールの姿が縮んだのだ。

 見ている間に大きかった身体が半分ほどになり、手のひらサイズまで小さくなった。


 僕は、逃げ出されないよう、アルサイールの身体を鷲掴みにした。

 力を込めれば、握りつぶしてしまえそうだ。


「我に、何をする気だ!」


 叫んだ声は、今までの声とは違って酷く高い。

 まるで小鳥の囀りのようだ。


「私からは、これ以上何もするつもりはありませんよ」


 僕の役目は終わった。ここから先は、手に余る。

 アルサイールの言葉に応えてから、僕は周囲を見回した。

 何か手頃な物はないかと探ったところ、書状を入れていた木箱が目に留まった。

 あれなら、サイズ感も強度もちょうどいいだろう。


 僕は片手で木箱の蓋を開けて書状を取り出し、代わりにアルサイールを入れて、蓋を閉めようとした。


「やめてくれ! 何でもする!」


 必死に叫ぶ声は、普段の尊大な物言いとは違った。

 僕はフンと鼻で嗤った。

 所有の印を僕の胸に刻んだヤツになんて、同情する気も起きない。


「何でもすると言うのなら、そのまま大人しく箱に入っていてください」

「くそ……っ」


 僕はその箱の蓋を閉め、しっかりと紐で結わえた。

 これで、魔力のないアルサイールは箱から出て来られない。


 僕は箱を手に部屋の外に出ると、階段を降りていった。

 階下にはサイデンがいて、僕を見ると恭しく礼をして訊ねた。


「どちらへ?」

「ちょっとそこまで。急を要するんだ」


 できればすぐにでも、神殿に向かいたい。

 外出は禁止されているが、神殿に行くくらいは許されるはずだ。


 サイデンは、首を傾げてはいたが、僕を止めようとはしなかった。

 僕が早足で城の入り口まで行くと、そこにレイの姿を見つけた。

 今まさに、ノクサムンのところから帰ってきたところなのだろう。


 今度は、本物のレイだ。

 やはり偽物とはまるでオーラが違う。

 見ているだけで心が洗われるようだ。


「エスティン、どうしたんだ?」


 僕のただならぬ様子に驚いたようで、レイはさっと顔を強張らせた。


「いろいろあったんです」

「いろいろ? その箱は?」


 僕が箱を手にしていることに、違和感を覚えたのだろう。

 レイは指差して訊ねてきた。

 

「中にアルサイールを閉じ込めました」

「……は? なんだって?」


 驚くのも無理はない。

 でも、今はそのくだりを話している余裕はない。


「説明は後です。とにかく今は、この箱入り悪魔を連れて神殿に向かいます」


 レイは、僕の気迫に押されたように黙って頷いた。

 馬車を呼ぶよりも、今は走った方が早い。

 僕は、レイと共に神殿まで走って向かった。

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