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男同士のやり方

「本気で、言っているのか?」


 レイの声が、一段と低くなる。

 僕は、なぜそうも確認されるのか、不可解に思いながら肯定した。


「それしか方法がないのなら、仕方がないでしょう」

「仕方がない?」


 黒い双眸に剣呑な光が宿る。

 凄味を感じさせるほどの眼光に、僕は怯んだ。

 何か言葉を返さなくてはと思うのに、喉が引きつる。


「レイ、落ち着け。エスティン殿はわかっていないだけだ」

「君まで吞み込まれるな」


 ハロルドとフィランが、レイを宥めるように言う。

 すると、レイは椅子から立ち上がり、扉の方へ歩いていく。


「もう決めた。来いよ、エスティン」


 僕を振り返りもせずに、レイはそう言い置いて部屋を出る。

 僕は言われた通りに立ち上がって、レイの後を追った。


「空いている部屋を一つ」

「2階の角部屋の鍵です。どうぞ」


 ギルドの入り口でレイは鍵を借りて、廊下で繋がっている別棟へ向かう。

 入り口の狭さに比べて奥はやけに広く、2階の踊り場には休憩所があった。

 酔い潰れた客が何人か休んでいて、レイはそちらに目もくれずに突き当りへ歩いていった。


 奥の部屋の前のドアに立ち、レイは鍵を使って開けた。

 そして、戸口に立つ僕に入るよう促す。


「レイ! 待て!」

「誰も入ってくるな」


 ハロルドに言い、僕が中に入ったと同時に、レイは扉を閉める。

 中は殺風景な部屋で、一人用のベッドが一つだけ置かれていた。

 ドアの向こうのハロルドの声が聞こえ、一階の物音も丸聞こえだ。

 

 レイは、ドア付近にあるテーブルに鍵を放り、僕に向き直ると腕を組んだ。


「男女のまぐわい方は、わかると言っていたな」

「はい、それは……もちろん」


 子供を作る方法だ。

 前に講義で先生が話していたことがある。

 互いに服を脱いで、裸で抱き合うのだと。

 好きな相手同士だと、それで子供ができる。

 

 男同士の場合も、全裸になるのは同じなのだろうか。

 僕が黙って突っ立っているとレイが近付き、僕のシャツに触れてこようとした。さっき、みんなにはだけて見せたこともあり、脱ぐことには特に抵抗はない。

 でも、レイに脱がされるのは別だ。


「自分で、脱げます」


 自発的に脱ぐことはいいけれど、レイに脱がされるのは気恥ずかしい。

 でも、なぜだろう。側仕えに着替えを手伝ってもらっても、何も思わないのに。


 レイは僕の前に立ち、じっと見つめている。

 黒い双眸は揺らぐことなく、僕を射竦めている。

 きっとその瞳のせいだろう。


 どうしてか、レイに非難されているように感じる。

 まぐわってほしいと言うのは、あまりに不躾な頼みなのはわかる。

 でも、事情が事情だ。レイならわかってくれると思った。


 一度留めたボタンを外そうとするも、指先がもつれたように上手く動かない。ここまで強張っているのが不思議だ。もしかしたら緊張しているのかもしれない。

 この後、男同士でまぐわうかと思うと、未知のことへの恐れはある。

 でも、相手はレイだ。

 きっと僕が至らなくても、しっかり教えてくれるはずだ。

 シャツをすべて脱ぎ終わり、ようやく半裸になった。


「下もだ」


 わかっていることだけれど、今のレイに言われると居た堪れない。

 先を急かされて、脅されているようにも感じてしまう。

 目だけではない。僕に掛けてくる声も、普段の柔らかな響きはなく、刺々しくてぶっきらぼうだ。


 やはり、僕に対して腹を立てているのだろうか。

 でもあの時、他に思い浮かばなかった。

 まぐわうのであれば、相手はレイしかいない。そう思った。


 僕は、レイの言う通りに下もすべて脱ごうとした。

 ズボンを下ろし、下穿きの紐を解く。

 だが、僕がすべて脱ぐ前に、レイは僕の腕を引いて寝台へ連れて行った。

 シーツの上に座らされ、すぐに背中から押し倒される。

 僕の顔の両側に腕を突き、レイは真上から顔を覗き込んできた。

 いつになく真剣な表情に、僕の心臓が早鐘を打つ。


「男同士のまぐわい方を、知りたいと言っていたな」


 顔を寄せて言われて、僕は頷いた。

 すると、耳元に唇を寄せて囁かれる。


「尻の孔に入れるんだ」


 尻の、穴?

 とんでもない言葉を口にして、レイは僕の耳朶に唇を押し当てる。

 耳の下を吸われ、耳殻を甘噛みされて、ぞわりと鳥肌が立った。


「あとは、子作りと同じだ。入れる場所だけが違う」


 あとは同じと言われても、何がどう同じなのか。

 血の気が引き、声も出せない。


 でも、自分が今、間違いを犯したことはわかった。

 そんなひどいことを、レイに頼んだなんて。

 レイが怒るのも、無理はない。

 僕の尻の孔に触るなんて、嫌に決まっている。

 僕は、ぎゅっと拳を握り込み、詰めていた息を吐いてから言った。


「わかりました。それなら私は、魔王のものになります」

「──なんだって?」


 レイにさせられないからと言って、他の誰かに代わってもらいたいと思わない。

 そのくらい(おぞ)ましいことだと言うのなら、最初に決意した通り、僕は魔王に捧げられた方がいい。僕の価値なんて、たかが知れているけれども、生まれた時から決まっていたことだ。もう、逆らうのはここまでにしよう。


 レイは、僕の肩口に埋めていた顔を上げると、きつく眉根を寄せた。


「俺に抱かれるより、魔王の手に堕ちる方がマシってことか」


 違う。僕はそんなことを言っていない。


「あの魔王に、何をされるのかもわからないというのに」


 それでもだ。

 望まないことをレイに強いるよりも、魔王のもとに下った方がいい。

 だからこそ、僕はレイに言った。


「現状を打開するには、他に手はありません」


 すると、レイは身を震わせた。

 けれども、次の瞬間には目を閉じ、感情を押し殺したような声で言った。


「勇者である俺は、お前を魔王の好きにはさせない。守る義務がある」


 僕の頬に手で触れ、顎先を持ち上げた後、首筋に唇を押し当てた。


「……っん……は」


 痛みを感じるほどに肌を吸い上げ、次いで首筋を舌で辿る。

 レイが何をしているのか、何をしようとしているのか。

 はっきりとはわからなくても、恐怖に身体が竦んだ。

 肌の上に触れる唇の熱さ、ぬめる舌の感触。

 怖いと思うのに、下半身が熱くなる。

 いけないことをされている。

 本能が僕にそう訴え、身体がガクガクと震えてくる。


「……っやめて、くださ……」


 必死に言った声は、自分のものとは思えないほどにか細く、上擦っていた。

 レイは聞こえていないかのように、行為を続けている。

 唇がみぞおちを通り、手が腰骨の辺りを(まさぐ)ってくる。

 びくんと足先まで何かが走り、僕は戸惑いを覚えた。

 この感覚を、僕は知っている。

 でも、どうして今なんだ。


「お前でも、やっぱり感じるんだな」


 レイはぽつりと言うと、下穿きの上から股間に触れて来た。

 さっと血の気が引き、唇が戦慄く。

 そんなところ、僕が触れるのもダメなのに、他人が触れていいわけがない。

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