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討伐隊と

 5回目となったエレギラの遺跡内への立ち入りは、夜遅い時間から始まった。

 討伐隊に選ばれたのは、今回も10人だ。

 天幕の中で装備の点検をし出したところで、僕は告げた。

 

「私も参ります」


 後方支援としてエレギラ遺跡まで来たわけだけれど、今回も僕は天幕での待機を指示されていた。でも僕は、城を出る時から討伐隊に志願すると決めていた。

 誰もがそんなことを言い出すとは思っていなかったらしく、僕に視線が集中する。

 驚きを隠せない者、困惑する者、険しい眼差しで見つめてくる者。

 中でも一際厳しい顔つきとなったのは、レイだった。


 僕は、全体を見回した後、敢えて微笑みを浮かべた。


「勇者様が怪我を負う度にダンジョンから戻られる。そしてまた、入り口からやり直す。これでは効率が悪いでしょう」


 前々から思っていたことで、きっと同じ考えの者もいたはずだ。すると、やはりその場は静まり、意見を言えない雰囲気となった。賛同はしづらいが、否定もできない。そんな空気が漂っている。ハロルドやフィランでさえ、唇を引き結んで考え込んでいる。

 そこで口火を切ったのは、やはりレイだった。


「だが、お前は戦えない。その上、自分で回復もできない。そんな人間を、ダンジョンの中に連れて行くなんて無茶だ。見す見す死なせるようなものだ」


 僕は、胸元に入れていた小瓶を取り出し、レイを始めとした冒険者に見せる。


「回復薬を作りました。私はこれで自分を癒すことができます。ポーションではなく丸薬で、一粒飲めば全回復が可能です」


 中身を簡単に説明すると、ざわざわと話す声がそこかしこから聞こえた。

 レイにも彼らの言葉や同調する雰囲気が伝わったらしく、眉間に深い皺を刻む。


「第三王子のお前の命を危険に晒すことは、許されない行いだ」


 今度は立場について言及されて、僕は予想通りの展開だと頷いてから応える。


「私が討伐隊に入ることは、ドミートス様は織り込み済みでした。だからこそ、召喚の儀の場で私と勇者様について言及された。ドミートス様の意見に反対する者はいませんでした。それは、私の命が危険に晒されても、討伐参加を認めることに他ならない。よって、ご同行いたします」


 一人一人に語りかけるように視線を送り、最後にひたりとレイを見る。

 反論しようとしたのだろう。唇を開きかけたところで、隣のハロルドに止められる。


「それ以上言うな。全体の士気が下がる」

「──だがっ」

「ハロルドの言う通りです。ここはエスティン王子の言を取りましょう」


 フィランも僕の意見を後押しした。

 こうして僕は、討伐隊に加わってダンジョンの深部を目指すこととなった。

 装備を点検し、動きやすい服装に着替え、僕は討伐隊の列に加わる。

 ダンジョン前で整列すると、人数の少なさを肌で感じた。


 レイは、まっすぐ前を見たまま、僕を瞳に映そうともしない。

 話をしたいところだけれど、今はそんな場合じゃない。


 準備ができたところで、レイは手を上げて合図を出した。

 冒険者たちが次々とダンジョンの中に入って行き、レイは一人一人に声を掛けていた。

 僕の番になると唇を開きかけたが、何も言わずに前へ戻ろうとした。


「怒って、いるのですか?」


 その背中に問いかけると、レイは肩越しに振り返る。


「自分にな」


 僕にだけ聞こえるくらいの声量で言い、全体を見ながら前衛に加わった。

 掛ける言葉を失い、僕は黙々と足を動かしてついていく。


 ダンジョンの中は湿度が高く、少し歩いただけでジワリと汗を掻いた。

 急な坂道や地面の割れ目、膝丈まである水流と、道は険しくて足場が悪い。

 転んで怪我をしたら元も子もないと、僕は慎重に歩みを進めた。

 

 途中で魔物も出たが、前衛がすぐさま応戦したため事なきを得た。地面に転がって灰になる魔物を幾度も目にし、レイとハロルドの頼もしさを実感した。

 そうして、奥へ奥へと進んでいると、不意に前衛が足を止める。

 大きな魔物でも出たかと思いきや、地図を広げてぼそぼそと話していた。


「おかしい。これまで来たことのない道だ」

「そんなはずはない。地図通りに進んできたんだぞ」


 僕の隣を歩いていた魔法使いが、小さな声で詠唱し、魔法陣を切った。

 すると、魔力の痕跡なのか、青い線が壁に走っているのが窺えた。


「魔族の仕業です」


 淡々とした声で言うと、ハロルドが反論した。


「あり得ない。あいつらにそこまでの知能はないからな」


 僕たちの方向感覚を失わせたのか。

 それとも、通路自体に細工をしたか。

 いずれにせよ、目的は道に迷わせることなのだろう。


 なぜ、道を見失うよう計らったのか。

 考えればすぐに結論に行きつく。

 だが、そんな回りくどい手を魔物が使えるとは到底思えない。


 ハロルドに言い返された魔法使いは、光り輝く杖の先で周囲を照らしながら言った。


「ええ、ですから魔族だと申しました」


 魔物ではなく魔族であると言われて、乾いた笑いが起きる。

 知能の低い魔物とは違い、魔族は類まれなる頭脳の持ち主だ。

 魔力も桁外れに強く、複雑な魔法が使える。

 人間では真正面から挑んだところで、太刀打ちできるはずがない。


 レイを始めとして、ハロルドとフィランが相談をし出した。

 このまま進むか、撤退するか。

 討伐隊一行が、ぼそぼそと話し合っているその時だ。


「勘が良いな」


 不意に、聞き慣れない声がした。

 大きくはないがよく透る声で、通路に響き渡る。


 レイが剣を抜き、魔法使いが僕を背に庇う。

 闇を照らす魔法の光が揺れたところで、通路の奥から人影が現れた。


 すらりとした体躯で、レイよりも頭一つ分背が高い。

 光を反射する金色の髪がまず目を引いた。

 黒いマント姿で、緑の瞳を細めて笑っている。

 王家の一員かと見紛う容姿だ。

 だが、纏うオーラの禍々しさとその魔力の量で、男が人ではないことを察した。


 人型を取った魔族だ。

 パチンパチンと木が爆ぜたような音がして、僕は耳を(そばだ)てる。

 何の音かと思ったところで、魔法使いの杖が砕け散った。


 辺りを照らす光が、フィランの持つトーチだけとなる。

 男は吐息で笑って、もう一歩こちらに近付いた。

 カツンと靴底が石を打つ音がして、その音にすらも緊張が高まった。


 男は、2歩進んだところで足を止め、細めていた目を瞠る。


「この世界に来ていたのか」


 勇者が異世界から来たことを見抜いたのか?

 言葉の真意を読み取ろうとしていると、男は更に言った。


「まさか、ミーアではない?」


 誰に何を問うているのかと疑問に思った次の瞬間。

 男の姿が掻き消えた。


 そして、一瞬で僕の前に立つ。

 瞬間移動。

 そんなことができる魔族なのか。


 魔法使いが地面に膝を突き、ガクガクと震えている。

 僕は、男の切れ長の緑の瞳を間近で見て、背筋が凍った。

 こちらの緊張をよそに、男はしげしげと僕を見て来た。


「よく似ている」


 そして、僕の顎先に指で触れてこようとした。


「おっと、近寄るな。その剣が届く前に、この者の命をもらうぞ」


 目の端に、レイとハロルドが剣を構えている姿が映る。

 だが、僕にはそちらを見ている余裕はない。

 身体が強張り、声も出せない。

 その間に、誰もが武器を構え、臨戦態勢になった。


「煩わしい奴らだ」


 男はそう言って、手で空気を()ぎ払った。

 途端に討伐隊のメンバーが、次々に地面に(くずお)れる。


「……何をした」


 僕はようやくそれだけ、喉を絞って声に出した。


「邪魔されたくないからな。眠らせただけだ。だが──」


 男は、物珍し気に右を見る。


「さすがは勇者、と言ったところか」


 レイ一人だけが、剣を杖代わりにして辛うじて立っていた。

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