神録伝承[Topic9【神録伝承】]
Topic9【神録伝承】
――これは、神々の歴史を刻む不滅の『神書』
――これは、記録を受け継ぐ者に託される、使命の証、である
……なーんて、かっこよく書いてみたけど、あたしがこの『神録伝承』――またの名を『神書』を手にした時の感想は、もっと単純だったわ。
(お、おっもッ!)――である。
あたしが読んだ『赤い魔本の子とパートナーが王を目指す』って内容の漫画があるんだけど、それに出てくる『作中の本』と同じ、分厚くて抱きかかえられるぐらいの大きさ。……と言って伝わる? 伝わんないかな? …………いやでも、実物って思ったより小さいんだっけ?
……まぁ、伝わんなかったら、キューが『円卓』の隅に『漫画』を積み上げてるから、探してみて、面白かったからっ! 地上の子のつくる書物ってすごいのよ。文字だけじゃなくて絵を織り交ぜて表現するのっ! しかも構想が前世の記憶だろうから――興奮した長文により割愛――
……記録に戻るわね。生まれると同時にあたしの前に現れた『重い』神書――じゃない、重い『神書』は、目玉や金属の装飾、鍵の付いたベルト――なんてものは一切なく、見た目だけなら質素な黒革の本だ。でも、持った瞬間に、ズシッとした重みが両腕にのしかかってきたのを覚えてる。
神力の加減がまだわからなかった当時のあたしは、宙に漂う神書を手に持った時、見た目以上の重量にその場で「うぐぅ」と情けない声を漏らして、居合わせた初対面のアリアにキャッキャッと笑われたものだ。……隣のセレリア、無表情だったけど肩を震わせていたのを、あたしは記憶しているわよ。
それから、初対面の天主神達と軽い挨拶を済ませ、神殿に新しくできた『あたしの部屋』、というか『大図書館』ね。そこで一神になり、改めて『神書』の真ん中から軽く流し読みしたの。と言っても『神の眼』をもってすれば熟読に等しいけどね! ……で、感想? ふふん、それはね――
「根暗しか居ないのか継承者どもぉっっ!!!」――である。生まれて間もない、二度目のツッコミだったなぁ。
……いやもう、本~~当に暗い! つまんない! クソ真面目! ……いや、記録なんだから真面目なのは分かるよ!? でもさぁ、めくってもめくっても、ただ『いつ、誰が、何をして、どうなった』っていう無機質な事実の羅列! 感情ゼロかぁ! まるで強制されて事実を書かせられたような文章! ――っうわぁ、なんか思い出して身体がゾワッっときた!
せめてもうちょっと……なんていうの? 後の継承者に『読んで面白い』って思える記録にしよう、とか思わなかったのかな? かな!? ……いやしかし! もしかしたら、前半の先代はきっと『起伏のある記録』を残しているはず! ……結果。
「前半よめなぁーい!」――である。当時のあたしは天を仰いでたわねぇ。うん。
あたしが読めないって、どういうこと!? 〖記録〗の象徴持ちで、神書を『継承』した主ぞ!? って思い、神殿の最年長に話を……聞こうとしたんけど、この時からクエスは『仕事漬け』で、たまにしか見かけなかったのよね。
だから、話しやすそうで、意見も言ってくれそうなオーラリア(最初期はちゃんと名前で呼んでたのよ?)に聞いてみたの。そして、返ってきたのは――
「初代〖記録」の象徴を掲げていた『リスフェリアさま』達が創って何代目か、からそういった仕様になっていたそうです。わたくしも、ノートリアちゃんの先代の方に一度見せてもらいましたけど、最初のページの、上から数行を辛うじて、そしてそれを書かれた『リスフェリアさま』と、それをお手伝いした『ノワリスさま』、その部分しか読めなかったんです。
内容は、読めた意味が正しければ、『天主神』と『深主神』、それからこの『世界』をお創りになった『神祖』である『至上神さま』、その方に関するお話だったと記憶しています。……かっこよく言ったら、『創世記』みたいなものですかね? うふふ」――と、ゆるふわっとした優しい口調で答えてくれた。
(めっちゃ詳しく教えてくれたぁ~! しかもノートリア『ちゃん』だってぇ! ママぁ~)――あたしは、この会話で、懐きました。
…………ごほん。そんな話を聞いた当時のあたしは、改めて読める文字で書かれた先代の記録を最初から一頁、一頁、『我慢』して読み進め、『読めない理由』を知る神が居なかったか確認していったの。
……でも、読み切って分かったのは、『理由不明』ということだった。
みんながみんな、理由を探して調べてたようだけど、全く手つかずらしい。そしてもう一つ『分からないまま』なことがある。それはオーラも言っていたけど――
読めても、それが『正しい意味』かどうか確証が持てない、ということだ。文章が読めても、そこに書かれた内容の解釈が神によって異なるみたい。
――そう、まるで『読者の理解』に応じて『真実』が変化するみたいに、ね――(なんとなく意味深に書いてみた)。
『結局、たくさんの神が調べて答えが分かんなかったんだから、あたしが調べても分かんないよね』、の精神で積極的には調べないことにしたわ。……しかし、そう思う反面、あたしは『ある決意』をしたの。
「あたしは、読んで面白い記録を書くッ!!!」――である!
これぞ、あたしが今まで『神録伝承』に『記録』してきた理由よ! 言っちゃうと根暗な先代との差別化っ! あたしの後輩になる神が羨ましいわねー、ふふん!
っあ、いま書いてるあたしの気分が上がってきたから、ここからは、この『神書の詳細』について語っていくわ。ほんと、最初は何にも知らないであたしは損したから、ちゃんと読むのよ後輩っ!
『神録伝承の創造』――これは、初代〖記録〗の象徴持ち――『記録と継承の女神・リスフェリア』が、他の天主神たちと共に創り上げた『神器』である。
――と、あたしでも読める文字で最後の頁に書かれていたのがこの文章。ここだけ、どういうわけか最初から誰でも読める仕様になっていたから書かなくてもいいかなぁ、って思ったんだけど、どうせだからここでも記しておくわ。
この『神書』は、ただの記録用の本に有らず。永遠に朽ちることなく、記録が色あせることもなく、頁は燃やそうが破ろうが必ず元通りになる(この前のアリア乱入騒ぎで初めてしったんだけど……)。
しかも頁は、神書の見た目に反して、無限にあるらしい。……どうやってそんな機能を持たせたん? というのが、上記した『神書の創造に関わった、以下の象徴たち』よ。
・〖創造〗――『神書』本体と付属の『筆』、『意思』の創造
・〖記録〗――書き溜め、刻み、後世へ遺し、継承させる
・〖無限〗――果てなく続く記録のための容量の補完
・〖悠久〗――時間の経過、外傷による劣化の否定
・〖心情〗――記録者の意思や感情を文章に反映
・〖索引〗――知りたい情報をいつでも引き出せる
・〖遊戯〗――読む者を飽きさせないためのイキな仕掛け
……〖創造〗先輩、『意思』って何? ……まあ、何かの比喩表現なんだろうけど……。それと、最後の〖遊戯〗って。キューの持つ〖娯楽〗の権能ですら『うん?』って思うのに、象徴であるのかぁ。しかもこれ『初代』の顔ぶれってことでしょ? あたしから見るとこの並びにあるのが『違和感』というか、『性格が厄介そう』という偏見が、ねぇ?
……ん、あれ? 『イキな仕掛け』って、読めない原因、この神のせいじゃない? ありそう! いや確実にそうだ!? なんか『キューなら』って思ったら確信しちゃったもんゴメンねキュー! 意図せず真実に近づいた感じする!
……でっでも……『面白い』をコンセプトにしてるあたし的にも大歓迎、なの、かも…………?
『神録伝承の機能』――次の解説をどうぞ。はい!
・『継承』
歴代の〖記録〗持ちの情報が自動で刻まれる機能。
『記録』の象徴持ちが消えると、その神の『情報』がこの神書に刻まれる(ここも最初は読めない仕様)。そして、新しく生まれる〖記録〗持ち――『継承者』の前に現れる。『神の記録』は、こうして永遠に引き継がれているみたい。
・『自由書筆』
記録者の相棒。散々書いてる神書の『付属品』で『羽ペン』型の神器。
ただの筆記用具と思うなかれ。本体は、まるで『意思があるように』宙へ浮いたり、どこにでも字を書くことができ、それを神書に落とし込める機能があるの。
空中に書いた文字を本に張り付けたり、考えたことをそのまま文字に変換、周囲の声を文字として書き上げるなど、多分なんでもござれ。
あたしは大体の執筆を『後者の機能』で記してるから『は? え?』とか『えーと』という『思考』をそのまま書かれてるってわけ。まぁ、時たま勝手に『余計な一言』を書き足してくる時があるけど、あたしの頼もしい相棒なのよ!←ほらね?(手書き)
└・『追筆』
『自由書筆』自体に施されていた二つの機能のうちの一つ。 羽ペンの毛を『誰か、何か』にくっつけると、その対象の『体験』を勝手に、簡潔に記録してくれる機能。
例えば、キューの服につけたら――
『三年ぶりに自室から出る』
『円卓の隅に積んだ漫画の山を漁る』
『目的ではない漫画を手に取り、その場で読みふける』
『シルヴィアに見つかり、逃げるも勉強部屋へ連れていかれる』
――ってな感じで書き込まれるのよ! ……いや、なにしてんだかあの遊戯脳は……。
└・『筆継』
二つ目の機能。『自由書筆』の毛を一本抜き、それを元に『スペアの筆』を創ることができる。
『一日経つと燃え消える』からたぶん、上の機能とセットで使うための機能だと思うわ。『追筆』をこのスペアに書かせ(空中なんかに)後で落とし込んだりしてね。
というか、お試しの初回でしか使ったことがないのよねぇ。
・『永久筆録』
『無限の頁』『不朽の紙と筆跡』『自由自在な検索機能』。
例えば、『数万年前に書いた記録のうち、『神域の異変』に関する記述を全て開示』って思うだけで、該当する文章が空白の頁に表示させる超便利機能なの!
……あぁーー!! もっと早く知っていれば、つっまんない記録を最初から一頁、一頁、『我慢』して読まなくて済んだのにぃーーっ!! 『読めない理由に関する記述を全て開示』って思うだけど良かったのにーーっぎゃぁぁぁぁーー……――!!!
…………ふぅ。うん、落ち着いた。思い出して心の中で発狂しちゃったぁごめんね? ……で、この機能のすごいところはまだあって、『神域内の出来事? を理解している』ってところなの。まるで『意志』があるみたいに、ね……(意味深に思っただけ)。
一番最初のあたしの『記録』にも書いたけど、『神域』って『呼び名』はキューが……あたしが生まれてから***年後ぐらい? に呼び始めた名称なんだけど、この機能では『(神書からみて)外で新しく呼ばれ、浸透した呼び方でも検索可能』なんだと思う。
『グラント』に関するそれぞれの記述開示をしたら、三件とも『グラント』が表示されたから間違いない。優秀な神書ねぇー(なでなで)。
・『情報』
記録者の履歴や、歴代の象徴持ち達の簡単な情報を確認できる。
……正直、これいる? って思う機能だ。絶対〖遊戯〗の神が関わってるでしょこれぇ。ってか、『継承』と被ってるし! 自分で書き込めるっていう違いだけじゃないのっ!
試しに一つ前の先代が、『誰かの情報』を書き込んでないか確認したのよ。
…………結果、なかったんだけど、本神の『情報』が書かれていた。……名誉の為に黙っとく。っえ、こんな情報まで書き込まれるの? エっグイわね……。いや、後の後輩達にも読まれるんだけど、これは、ね? うん。……よし! 他の天主神達の『情報』も書き込んじゃお! 道連れじゃー!
・『語りの筆』
記録は耳で聞く時代! とでも言いたげな機能。
書いた、書かれた文字を音声で読み上げてくれる。〖遊戯〗の神が絶対関わっている機能の一つだ(決めつけ)。
あたしの声で読ませることも、創った音声で読ませることもできる、素晴らしく『要らない』機能。……の筈なのに、これで会話や返事、文句言ったりと活用しまくっている事実。あたしと相性がいいの納得いかないなぁもう!
・『封印の律』
文章に条件を付けて『隠す』『読めなくする』ことができる機能。
記録者が特定の条件(時間経過、知識の習得、記録者自身の意志など)を設定し、その条件を満たすまで、該当する文章は『白紙化』『歪んだ文字』など、手を加えたいずれかの形で隠せる。
…………以前から、なぜか、知らない内に、身に覚えなく『封印』されていたのは、『この機能』のせいだ。
あのあと結局、シルヴィーに見つかるまで円卓に拘束していたエクスやあたし、後に確認したみんなの意見を聞いても、原因は分からないままだった。だから『封印』箇所の文章は未だ読めていない。
……そして、何よりも不可解なのが――
あたし自身が設定したはずの封印を、『あたし自身が覚えていない』ということ。
そう確信できる理由は、封印された文章が、昔にあたしが遊びで考えた『絵文字』に書き換えられていたからだ。……もう、訳が分からないからいったん保留にしたわ。不気味すぎるよ、もぉ!
――まとめ。この『神録伝承』は、ただの本じゃない。神々の歴史を刻み、受け継ぎ、記憶し続けるための神器。そしてあたしは、この『面白くない記録』に『面白さ』を加えようとしている最中なのだ! 以上!(決まったわぁ)←うっさい!
考察
この神書には知っての通り、『謎の封印事件』とは別に、『前半ほど読めない頁』があるわ。それは十中八九、〖遊戯〗の神が仕掛けた『封印の律』のせいだろう(やっぱり決めつけ)。
それについて、あたしなりに考えたんだけど、この『封印』、『リスフェリアが意図的に最初設定して、それを見た最初期の先代が倣う形で記録に『封印』を施した』んじゃないか、と思うの。
途中からその風習? がなくなったのはたぶん、その代(封印がない)の初期の先代が『めんどくさがった』か、『設定し忘れた』からじゃないかしら。……いや、これあり得るわね。〖記録〗の象徴持ちって、どうにも全体的に『抜けてる』印象があるし……(あたしは絶っ対ちがうけどね!) ……まぁ、これはもういいや。
とにかく、初代様が施した『封印』の設定には何か意図があるはず。そこで、あたしなりにいくつか『予測』を立ててみたの! ……まぁ、後輩たちのためにね! ふふん、後輩想いの素晴らしい先輩でしょ! ←おい、いい加減あと付けやめろ! 消せないんだから!
予測
1.時間経過によって読めるようになる(最有力候補)
2.ある条件を満たさないと読めない(二番目の候補)
3.神力の多さに関係している(どうやって増やすん?)
4.特定の神、象徴持ちしか読めない秘密の情報(運ゲーか? 確率引けと? こちとら幸福の天主神がいるんだぞ!)
5.『1.』だった場合、初代方の時間感覚が今の天主神達以上にイカレていて、あたし達の間隔では永すぎる件(終盤に考えついたから、『4.』同様ふざけた案だけど、一応記す)
案と、それに関する問題が両方出ちゃった。あと後半、考え過ぎて変な感じになってるわね。反省。
……んで、自分で考えて理不尽に文句言ったけど、〖遊戯〗の神って、どうしても『捻くれた性格』なんじゃないかなぁ、っていう偏見が付きまとうのよね。主にキュウーと重ねて。『設定』だって、さすがにリスフェリアが考えただろうけど、『そっち』に引っ張られるのよ。んーむ……。
追記
『考察』書いてて思い、試してみたことを記すわ。直近にいま一度、オーラとシルヴィーに『最初の頁』を見せてみたんだけど、結果は以前と『二点』違っていたみたい。
一つ目、シルヴィーは最後に読んだ頃(オーラと同じくあたしの先代から)より倍以上の行数が読め、オーラは半分にこそいかなかったが『天と地の者に、対となる十二の象徴が与えられた』という意味深なところまで読めるようになっていたの。
そして二つ目。それは、以前と比べて『読める文章への理解度』が違う、ということだった。前までは、『この文の意味は『こうかもしれない』』だったのが、最初の文章ほど、『ここの意味は『こうである』』と確信を持てるようになり、読み進めるごとに意味が怪しくなっていくのだという。
この結果を鑑みるに、『考察』した『時間経過によって読めるようになる』という推測が信憑性を増し、それに合わせて『時間感覚の違い』も現実味を帯びてきたわ。……ネタだったのに、マジか初代様……。
『考察』を書いた後で、あたしの考えた『設定の予測』について、キューに意見を聞いたところ――
「うちでもそうするし、他にも(仕掛け)付けてるよ、絶対!」と言っていた。
説得力があり過ぎるうえ、やっぱり似通った思考回路をしているのかもしれない。〖遊戯〗と〖叡智〗って同じ系統なの?
……あ。最後にこれも書いておこうと思う。先代……もっと周りを頼れ根暗ども! めっちゃ簡単に知る方法あるじゃん! なに自分一神だけで見つけようとしてるのさ!! 記録を読むに、あたしの前の先代ぐらいじゃない? 他の神に『神書』見せてたの! 他の奴らはコミュ障かっ!! これだから――以降、不満の羅列により割愛――
こ……これ、誰が書いた……文字? っえ、『あなた』も……ッ!!?
「(恥ずかしそうに端っこに)
もう……火は、やめてね……?」
最後の一言、PCに合わせてるから、スマホだとズレてるかも……