ベッドにバニラエッセンス
ユリは自分の純粋な心が笑われてしまうかと思い、男性に臆病になっていった。ユリは孤独だった。男性に心を開けずに悩み、恋ができなかった。そんな中ユリはある芸術家に才能を認められていく。芸術家はそんなユリを愛した。
「ねえ、ねえってばあ」ユリは確かにそうつぶやいた。それはどこにでもありふれたセリフで、特別な言葉ではない。「ねえ、ねえってばあ、…。」ユリはまたつぶやく。本当ならそこに「なんだよユリ、どうかしたのか?」と返す恋人がいたはずだった。ユリは、またつぶやく「今日ね、いやなことあったんだあ。それでねえ、落ち込んでるの。会社でねえ、お昼休みになるとドキドキしてくんの。何話していいかわかんないしねえ」
そこはユリの鏡の前。
ユリの独り言はつづく。その世界は誰からも邪魔されないで済んだし、自由に自分を表現できたからだった。ユリにとってそうすることは息抜きであり、自分が世界で一番の美女になれる唯一の舞台だった。
鏡の前の私をみんなの前で表現することができたら…。ユリにはそれは無理だと思えた。なぜなら、鏡の前で登場人物は自分一人が世界が広がる特徴を持つのに対して、実際は、社会のなかで、大勢の人の渦に埋もれて、自分の個性も我も押し殺さなくてはならないからだ。本音を言えばユリは叶姉妹みたいに生きてみたいとも思ったし、悪女になって、大胆に男性を誘惑してみたいとも思っていた。だけど実際の生活はルールやマナーだらけで、我慢や忍耐を要求され、ユリの心は渇いたさぼてんのように干からびて、しぼんでしまうのだった。
その日は冬だけど、よく晴れた青空に薄い白い雲がかかっていた。ユリの住むマンションの階段には野良猫たちがポカポカお昼寝していたし、公園では子供たちが元気に遊んでいる高らかな声が響いていた。ユリのマンションは7階建てで、ユリは最上階に住んでいから、よく晴れたそんな日曜日には、白いカーテンを開け、お日様の光をいっぱいお部屋に取り込みながらユリは紅茶を飲んだ。お気に入りの深紅のバラの柄のカップにユリは日常のすべての退屈を注ぎ込み、熱いハーブティーに溶かしてそこにバニラエッセンスを加えて飲んだ。バニラエッセンスはユリの心を幸福感で満たしてくれる最高のアイテムだった。
ユリはそうして恋人のいない寂しさを一生懸命に紛らせていた。誰かに抱かれたい衝動に駆られても、じっと膝を抱え、自分を押し殺していた。ユリはとても奥手な女の子で、彼氏の出来た事は今までに一度もなかった。だから女友達が楽しそうに恋人の話をするのをとても羨ましいと思っていた。
ユリがそんな風に男性に臆病になって行ったのは、ユリが女子高に通っていたからだった。ユリはきれいな顔立ちをしていたけれども、男の子と話すことができない青春を送った。女の園では毎日が白いため息で曇っていた。みんな生真面目にお勉強をしてお上品に過ごしていた。ユリもまたそのような優等生の一人だった。毎日が受験勉強で追われていく窮屈な時間を過ごしていた。
高校生の頃、ユリは男性教師にコンピューター室に閉じ込められ、鍵をかけられた。教師は椅子に座っているユリの後ろから、ユリの身動きを取れないように両腕を伸ばし抱きしめるように机に手を置いた。ユリはまだ子供だったし、男性のことがよくわからなかったので、ドキドキする自分が理解できずに苦しかった。教師の手はユリの膨らみかけた胸を包みこんだ。ユリは呼吸出来なかった。16歳のゆりにはただただ恐ろしいだけだった。ユリにはその教師が男性であるということもあまり理解できていなかった。だからなぜ苦しいのかわからなかった。以来ユリは男性じゃないのかなあと思う人が怖くなった。女じゃないという存在が、理解できなかった。なぜこんなにドキドキするのか。ユリは苦しんだ。ユリが男性恐怖になっていったのはそれだけが理由ではなかったが、思春期に性の知識が何にもなかったことは大きな要因だった。ユリの性的欲求は燃え上がる炎のように体を熱くしたがそれは大人になってSEXをすることとはまったく別の次元の世界だと勘違いをしていた。ユリは性的欲求とSEXが結びついていることを知らなかった。ユリにとってよくテレビや映画で見るベッドシーンは自分とはまったく関係の無いもので、永遠にそういうことと自分が関わることはないんだと思っていた。
佐藤唯史は東京のデザイナーだった。唯史のデザインは業界でも異色とされ、脚光を浴びた。唯史は若くしてその頭角を現し、世に認められ今やその勢いは日本だけにとどまらず、世界に及んでいる若手実業家だった。唯史の織りなす色の世界は斬新でバランスが良く、時代のニーズにフィットした。唯史は勉強家だった。そんな唯史の周りにはそれなりの人物が集まった。唯史は人望もあり人気もある超売れっ子アーティストだった。唯史は女性にももてていたので、恋人を切らしたことはなかった。しかし唯史はただの美人よりも中身のあるほんとにいいものを持った、輝いた女性が好きだった。普通の成功した男性なら、ただ遊ぶだけの着せ替え人形を欲しがるが、唯史にそういう傾向はなかった。なぜなら唯史の成功は一時の偶然のヒットでは無かったからだ。唯史は幼少時代からの積み重ねてきた勉強と、本物の才能で、しっかりと地盤を固めていった。だから、唯史は見せかけの脆い美よりも内からにじみ出る本物の美をまとった女性を愛した。唯史の周りに集まる女性たちはみな男らしくたくましかった。唯史はこびる女が嫌いだった。実際はこびる女ばかり多すぎたが、相手にしなかった。唯史のデザインの世界は、しっかりとした地盤の上に成立していた。だからそんな唯史が生み出す作品は唯史が失敗したと感じたものでも、あるレベルの高さを保つので、とにかく人々の心を虜にし、惹きつけ魅了した。
ユリが最初に唯史を知ったのは、有名なモダンな美術館だった。もちろん唯史はそこにはいない。ユリは内気な心の内側にある激しい感受性の世界に刺激を与えることで精神のの落ち着きを保っていた。会社と家の往復ばっかりで、退屈な日々に、美術館はユリを異世界にいざなう夢の世界だった。木々は美しく太陽の光を反射し、芝生のグリーンは絨毯のように綺麗で柔らかかった。その日の朝ユリは何かに呼ばれているような気がした。本当は近くのカフェにでもいって読書をしようかなあと思っていたが、あの日、ユリの耳にはっきりと自分を呼ぶ声がした。ユリは不思議だったが予定を変更して呼ばれるままに美術館へ来たのだった。
「佐藤唯史の織りなす美と官能の世界、斬新で鮮やかな色の持つ波動はあなたの人生を変える」美術館にはそう書かれていた。「佐藤唯史!うわあ生で見れるんだあ!」
世間知らずのお嬢様育ちのユリでも、佐藤唯史という名前はちゃんと知っていた。「すごく有名な人だなあ!どんな作品なんだろう…」ユリは好奇心でその小さな胸をいっぱいに膨らまし美術館へ向かう長く細い階段を上がっていった。
美術館の入り口を開けた時、ユリはものすごく不思議な気持ちになった。「あれ?私どうして今ここにいるのかな?お父さんとお母さんも知らないのに…。あれ?私どうしてここに来たのかな?」ユリはそう思って一瞬不安になったが、ユリの佐藤唯史へ向かう興味はまるで惹かれあい呼び合う、前世の恋人同士のうように愛おしく切なく、ユリは胸の中に広がる、素晴らしい甘い恋のつぼみがユリの胸を突き破りそうにドキドキと膨らんだ。ユリは無表情なチケット売り場の館員が少し怖くて、うつむき加減に一生懸命平静を装って、チケットを購入した。
重いドアをドキドキしながら開けると、そこは真っ暗だった。「あれ?ここはどこ?私はだれ?」ユリは一瞬その日までの何もかもを忘れた。そうしてガチャンとドアが閉まり、ふっと息をとめたユリの体の中に一体、どれほどの時間の経過が流れたのだろう…。ここがどこなのか、私が誰なのか、分からなくなってしまったユリの目の前に、突然に眩しい光が差し込んだ。それは巨大なスクリーンに映し出された、色鮮やかな唯史の織りなす官能の世界のデザインだった。唯史の作品を目の前にしたユリは、そのスクリーンに映し出される、たとえようのないビビッドな色彩や、鋭い発色、めくるめく動きまわる奇妙な形、それは斬新な光と色彩を放ちながらも、神のように威厳に満ち、たくましく男らしかった。ユリは体中に喜びの鳥肌をたてて、脳天を突き抜けたような衝撃にくらくらとしてきた。たぶんユリはお嬢様の女子校育ちであったので、世界を舞台に活躍する、男性アーティストの作品にふれ、芯から度肝を抜かれてしまったのだ。ユリはへなへなと座り込んでしまった。
そこに、スクリーンの向こう側から、すらっとした背が高く、色白の青年がユリの方に歩いてきた。
それが、佐藤唯史であった。
「君、どうしたの?気分わるいの?」
唯史は少女がへなへなと座り込む姿を偶然に目撃し、心配していたのだった。
ユリは、そのかっこいい青年を見て、急にさらに気分が悪くなった。
それがなぜだか、その時のユリには分からなかった。しかし、ユリは生まれて初めて男性に話しかけられたので、嬉しさとか、恥ずかしさという感情を自覚できず、「気分が悪い」と感じてしまったのであった。そのユリに向かって若き芸術家は、「あはは!君かわいいね」と言った。ユリは真っ赤に赤面していたの。スクリーンの前の二人は、青や黄色の光にてかてかと照らされて、ユリはこんなに恥ずかしい思いをしたのは初めてだと思ったので、「私、かわいくなんて全然ありません!」と言って、ゆらゆらと立ち上がり、逃げだそうとしたところを、唯史は「君、すごくかわいいよ」と言って、ユリの腕を優しくつかみ、手のひらに口づけした。
その時にちょうどスクリーンに一杯に佐藤唯史のデザインしたキュートなピンクの愛の花が映し出されていた。唯史はユリに言った。「君、名前なんって言うの?今の花の映像、すごくピュアな君に捧げたいよ。今度、君をモデルに何か作品を作らせてもらうからね」
ユリは、手のひらに残る若き芸術家の唇の感触にためらい、そして、そのすべての彼のセリフやシチュエーションがあまりに異世界だったので、とにかく大きくうなずいて、「ユリです」とだけ、強がって一生懸命答えた。
彼は胸のポケットから銀色の名刺を一枚取り出して、「ここ、僕のアトリエだから。え~と、そうだなあ…。あさって?うん、あさって来てね」と言ってにっこり頬笑み、すらすらすらすら~っと帰って行った。
家に帰ったユリはその芸術家の帰ってゆく後ろ姿を思い出しては、彼はお化けかなと思いひそかに恐れたりしながらも、全ての余韻に浸った。その日の夜、ユリはお風呂に入って鏡に全身を映して観察してみた。「君、すごくかわいいね」ユリは思った。「私がかわいい?かわいいってなあに?わからないな。あの人教えてくれるかな…」ユリは白い牛乳石鹸の泡を白いタオルに綺麗にたてて、くしゃくしゃと、いつものように遊んで、いい香りだなあと思った。「今の花、すごくピュアな君に捧げたいよ…」ユリはため息をついて、その膨らみかけた胸を優しく揉んでみた。すこし、じんじんと痛い少女の胸は、恋を知らぬ蕾のように、ユリに愛や恋の予感で甘い夢を見させてくれた。ユリはお風呂が大好きであったので、そのシャワーを全身にあてて、体を愛しくまなく洗った。ユリの体の中に、いつもユリの知らない場所があった。コリコリとしたその愛の蕾は、ユリの華奢な人差し指が刺激し続けることで、一瞬何もかも忘れて、ここがどこなのか、じぶんが誰なのかもわからくなる瞬間があった。そうして、ユリはその異次元空間をさまよった後、女の子だったので、神様に謝った。
「今度、君をモデルになにか作品を作らせてもらうからね…」ユリは、その人差し指に彼の唇を感じながら、ドキドキして、恋の蕾をはやく、華開かせたいとときめいた。
バスタオルを濡れた体に巻きつけ、異世界をさまよった、お風呂での秘密に罪悪感を感じながら、ユリは足早に台所を通り過ぎ部屋に入った。
ユリは、部屋に入ると、すぐにバスタオルをはずして、真っ裸になると、ランランと音楽をかけた。ユリの大好きなバイオリンとピアノのコンチェルトであった。ユリは部屋を散らかしまわるのが大好きな少女であった。厳格なしつけの厳しい両親のもとに育ったユリは自分の部屋を散らかすことだけが、唯一の反抗であり、ユリのわがままであった。
ユリはOLであったが、女友達の前でも、こんなにうぶな気持ちを語ることはできずに、人知れず、自分の女性に悩んでいた。彼氏ってなんだろう…。恋人ってなんだろう…。男の人って、どんな体なのかなあ…。ユリの奥手はものすごく、ユリは男性の裸というものを見たことが当然なかった。ユリの父親は、いつも洋服を着ていたからだ。ユリにとっては、それはかわいいとかいう問題ではなく、深刻な悩みであった。「男の人って、いつもズボンを履いてる。どうして、男の人はスカートをはかないのだろう…。きっとズボンの中になにか秘密があるんだ!誰がなんと言ったて、そうに違いない!絶対にそうだ。今日出会った芸術家の佐藤唯史だって、やっぱりズボンを履いていた。どうしても知りたい!ズボンを脱がせてやる!絶対に秘密を暴くんだ!そうだ、あさってアトリエに行こう。そこで彼を無理矢理トイレに連れて行って、ズボンを脱がしてやるんだ!何かものすごい秘密があるはずだ!絶対に!」
ユリは、睨みつけるように鏡に映る自分の裸を見つめながら、絶対に、絶対にと繰り返した。
バイオリンとピアノのコンチェルトを聴き終えたユリは、机の宝物箱から、美しい、バニラエッセンスを取りだした。瓶のふたをそっと開けると、バニラの甘く切ない恋の予感の香りが広がった。
ユリはいつも自分の退屈や女性に悩んだ時には、バニラエッセンスの香りをそっと嗅ぎ、とてもとてもこの世界で一番ものすごく恥ずかしい、靴下や、パンティーにそっと垂らしして、その女の香りを消し、バニラの香りを楽しんだ。
マンションの7階から、美しい三日月がかかっていた。ユリは、月のように美しい女性になりたいと願いながら、流れ星を5つも見つけて、喜んで、眠った。
夢の中で、ユリはうなされていた。妖女が迫ってくるのである。妖女がユリに「死ね」といって長い髪の毛で、ユリを巻きつけ締めつけた。ユリは、なんと女の恐ろしいことかと思い、死のうかと思った。だけど、その時に夢の中で、佐藤唯史の鮮やかなビビッドな光の作品が男神となって、妖女を打倒したのであった。夢の中で、美しいピアノの調べ天空からなり響いた。ユリは、そっと目を開けて、「恋は始まった」とつぶやいた。
銀色の名刺には、芸術家のアトリエの住所と電話番号が書かれてあった。
電話番号…。
ユリはものすごく焦った。なぜなら、ユリには変な癖があって、孤独があまりに寂しかったので、友達や知った電話番号に、片っぱしから、無言電話をかけまくっていたのだった。
なので、ユリは、電話をかけること自体には、ためらいをさほど感じなかったが、言葉を伝えられるかどうか悩んだ。
唯史の言う、「あさって」とはちょうど曇りの土曜日であった。
ユリは、耳にピッタリと受話器を当て、間違いのないように、一つづつ、ダイヤルを回した。
03126****…。tururu…。
ダイヤル音の後にいて、おしゃれで都会的な、センスの良い、ユリ好みの音楽が流れた。不思議に懐かしく、それは、美術館で予感した、前世の恋人のような、甘くて魂の故郷が同じであるかのような、優しさを感じる、美しい音色だった。ユリはうっとりとして、聴き入った。
「もしもし?」
それは唯史であった。
「あ、ユリちゃん?ユリちゃんだろ。僕なんでもわかるよ。今君が見えるみたいにね。」と言って
ユリが無言のままにアポイントメントはたんたんと流れ、ユリは説明してもらった住所が日曜礼拝に行く、教会の近くでだったのし、社会ってこんなに簡単なんだと、安心して、飛ぶように家を出た。
あらすじもなく直感で書いているので、何が出来上がるかまだ自分にもわかりません。ただ表現をすることで自分がいい気持ちになれるので、挑戦してみました。殻をやぶり、書いていきたいです。緊張してしまうと自由な発想が出てこないので、あまり読まれるということは意識しないようにしています。それでも女の子に読んでもらって、共感してもらえたり、癒されたりできたら何も言うことはありません。とにかく下手なのは当然として、私は何かに突き動かされてしまっているので、書いていきます。褒められなくてもいいんです。私はただ書きたいのです。