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トッププレイヤー

「よし、じゃあこれで今日の戦隊練習は終わりね。」

「「「お疲れさまでした。」」」

時計を見ると夜の12時を過ぎたところだった。

俺が所属している「DARC」チーム、このゲーム全体において「戦隊」と呼ばれるそれは、月水金日の週四日、夜のランク戦が終わる22時から2時間余りの時間をチームとしての練習時間に宛てている。

必然的に20時から4時間ぶっ続けでこの第五人格というゲームをプレイする羽目になるから結構な体力を消耗する。

あくびを噛み殺しながら戦隊のディスコード通話から抜ける。

抜けた、とほぼ同時にチームリーダーであるジュンから個人DMが送られてくる。

『ちょっと話がある。すぐ終わるから通話してほしい。』

珍しいな、ジュンから個人的な通話なんて。そんなことを思いながら

『分かった。』

そう返信するとほぼ同時にジュンから電話がかかってきた。

「もしもし。あーごめんね、後日全体共有するつもりだけどアスカには一足先に言っておかないといけないことがあるんだ。」

なんだ?画面の前で一瞬顔が曇る。面倒事じゃなければいいが。

「DARC戦隊のハンターを一人増やそうと思ってます。」

「は?」

あまりにも突拍子の無い発言に思わず怪訝な声が出る。

「そう、ごめんね。もっと早く言っておけばよかったと思うんだけど、最近になって急に分かったことだったから。」

ジュンは何のことか分からない話を続ける。

「おい、待て。この戦隊のハンターは俺だろ、増やす必要あるか?」

俺、ゲーム内ネーム【DARC_Aska】はこのDARC戦隊の唯一のハンターだ。

ハンターを増やす?そんなこと初耳だ。

「必要ある、と判断したから言ってるんだよ。」

普段のふざけた調子から一転、ジュンは真面目な声色に変わって言った。

「俺じゃ力不足ってことか?」

「そうじゃない。」

「じゃあなんだよ。」

「簡単に言えば、キャラ範囲の補完を完全にしたい。」

「必要ない。俺が練習量を増やせばいいだけの話だ。」

「そういうと思ったんだけど、悪いがここは折れてほしい。」

「なんでだ?」

「率直に言ってしまえば、おれが今から入れようとしている人は君よりランクも勝率も高いんだよ。」

言葉に詰まる。俺のランクはシーズン残り1か月を残して最高段位ヒュドラの星50、勝率は70%だ。ハンターランキングに入るか入らないかの瀬戸際で、あと数日もすれば100位以内には入れるだろうと思っている。

中堅ハンター。俺を表す言葉としてその表現が一番正しい。

そんな俺よりランクも勝率も高いハンターなんて早々捕まえられるわけではない。

大体ここら辺のランク帯の人たちは多かれ少なかれ既にクランや戦隊に所属している。

その上、面識がなければ自分のチームへの勧誘は難しい。

第五人格界隈は狭くて広い。

そんな界隈の中でジュンはお世辞にも人脈が広いとは言えない人物だった。

DARC戦隊を設立したのは彼だが、メンバー集めはサブリーダーである俺の仕事だった。

第五人格がリリースされてから5年間、細々とハンターをずっと続けていた。それと並行して俺はSNSで他プレイヤーとの交流も楽しんでいた。

だから知り合いだけは多かった。

今の戦隊メンバーも、俺の直接の知り合いや、知り合いの知り合いと言った感じで構成されている。

だからジュンが自分でメンバーを見つけてくるとは思っていなかった。

それもハンターを。

そしてそいつは俺よりランクも勝率も高いという話だ。

「どこで見つけて来たんだよ、オマエのアカウントのフォロワー50人いないじゃねえか。」

「学校だよ。リアルの友人なんだ。」

正直驚いた。第五人格は競技シーンが発達しているとはいえ、マイナージャンルのゲームではある。その中でも一握りの存在であるようなランカーがリアル世界の友達にいた、というのはかなり珍しい話だ。

「よく見つけたな。」

「本当に偶然だったんだよ。で。」

話を戻すけど、とジュンは言う。

「入れていいよね?」

有無を言わさないような言い草で俺に尋ねる。

正直、入れない手はない。上手いプレイヤーは貴重だ。それに俺たち「DARC」は日本大会での優勝を目標に据えた戦隊でもある。それに、話によれば俺のキャラ範囲を補完するようなキャラ範囲らしい。ジュンの前でああは言ったが、正直複数のキャラ練度をトップレベルまで鍛え上げるのは時間もかかるし、現実的ではなかった。

「でも。」

そんな声が自分の内側から聞こえてくる。できることならこの戦隊のハンターは俺一人でやりたかった。

「そいつを入れれば優勝狙えるのか?」

俺は尋ねる。そういうとジュンはふっと笑って言った。

「多分アマチュア最強にはなれるだろうね。誇張じゃないよ。」

ジュンは真面目な声色でそう言った。

変に自信家で、いつもふざけた調子でいるジュンをリーダーに据えたのはこの俺だ。

こいつの直感が間違っていたことはなかった。

にわかには信じがたいが多分、今回のこれも嘘じゃないんだろう。

「いいよ。オマエがそういうなら」

「ありがとう、そう言ってくれると信じてた。」

ははっとジュンは笑う。

「で、そいつのアカウント名は?俺が知ってるやつか?」

「アスカもよく知ってる人だよ。ゲーム名は【カナタハルカ】。今はアジア鯖で2位じゃなかったかな。」


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