ハンター
いきなり専門用語ぶっ放していますが読み飛ばしても支障は出ないような構成にしています。
アラームの音で目を覚ます。
時間は朝の四時五十五分。この時期、まだこの時間帯は外も暗い。
眠い目を擦りながらモソモソと起き上がり、部屋の電気をつける。
机に向かって椅子に座る。手に持ったスマホを横持ちに変え、アプリを立ち上げる。
「Identity V」と画面上に映し出されたのを確認し、画面をタップする。
紋章のようなマークのロード画面が表示され、ロードが終わるとゲームが起動する。
ゲームが起動すると、椅子と本棚しかない殺風景な部屋に女性キャラが一人表示された。
彼女はこのゲームでの「自分」となる女性のキャラクター、「記者」だ。
と言ってもこのゲーム、Identity V、通称「第五人格」ではこのキャラを直接操作してゲームをプレイするわけではない。
「記者」を操作し、部屋の本棚の前に移動させると「日記を読む(ゲームスタート)」というUIが浮かび上がってくる。そこをタップすると更にずらっと色んなUIが表示される。そこにある「ランク戦モード」をタップする。
机の上に置いてあるデジタル時計を見ると五時ちょうどになったところだった。
「よし。」
そう呟いて、マッチング開始のボタンをタップする。
数分待ってやっとマッチングした。
特にマッチングしづらいハンター陣営は、朝の時間、酷ければ20分以上待つこともあるから今日はラッキーだ。
手前に表示された「血の女王」が今回僕が使うキャラクターだ。今回、というより余程女王に強い編成でなければ基本的にランク戦ではこのキャラを使っている。
奥に表示されているサバイバーの名前を確認する。何度かマッチングしたことのあるメンツだが、特に脅威は感じない。
「傭兵」「占い師」BAN。
対して向こうは「オペラ歌手」「夜の番人」BAN。
オーケー。血の女王はBANされなかった。
まあこの環境なら「オペラ歌手」と「夜の番人」はほぼBAN必須だし、彼らサバイバーにとって血の女王なんていちいちBANに割いてる暇はないから当然だ。
マップは赤の教会。解読は早いが、「血の女王」なら特に怖いマップではない。
サバイバー編成は「一等航海士」「祭司」「昆虫学者」「骨董商」。スタンダード。何回も見た編成だ。
「祭司」と「昆虫学者」は赤の教会では強いキャラだが「血の女王」にとってはさほど脅威ではない。
「骨董商」も追う分にはさほど問題はない。
追いづらいとされる「一等航海士」も血の女王としてはそこまで嫌なキャラではない。
まあ、どうせ。
頭の片隅にそんな言葉が思い浮かぶ。
マッチング待機時間が終了、これから試合に入る。
マップ「赤の教会」のスポーン位置がそれぞれ表示される。
試合開始になるとまずマップごとに九分割されたスポーン位置をサバイバーは選択できる。
誰がどこにいるかはハンターがスポーン位置を選択するまではブラインドになっているが、試合開始直前にはブラインドが解除されて、誰がどこにスポーンしているのかハンターも把握できるようになる。
今回サバイバーが選択したのはマップ左側中央に一人、中央縦三列に三人の、いわゆる「逆トの字型」のスポーン選択だ。非常にスタンダード。赤の教会なら体感八割のサバイバーがこのスポーンを選択するんじゃないかってくらいスタンダードだ。
対してハンターである僕もスタンダードに画面右側中央を選択する。これもスタンダードなスポーン選択。
スポーン選択機能がこのゲームに実装されたとき、画面左下か左側上を取るハンターが多かった印象だが、画面左中央、通称「壁真ん中」には大抵の場合、「傭兵」や「一等航海士」などの救助職がスポーンするため、左下なら上中央通称「小屋」のサバイバーを、左上なら下中央通称「レッドカーペット」をそれぞれ追いづらくなる。
だから右側にスポーンして、中央縦三列誰でも追えるようにするのが主流だ。といっても今回の場合、僕が使っている血の女王に関してはこの編成誰でも追えてしまうので無理にこの「十字型」のスポーン選択を取る必要はないのだが、逆に言えばわざわざ左下や左上を取らなくてもいい。
で、強いて言えば今回面倒なのは「祭司」だ。「骨董商」も面倒ではあるが、よほど上手くない限り、僕の扱う「血の女王」にとって脅威になる存在にはならない。それよりも他のサバイバーを追っている間に「祭司」に補助を入れられる方が厄介だ。
だから特に今回はマップ中央に位置する教会内にいるであろう「祭司」を一番に追えるマップ右中央にスポーンした。
僕がスポーン選択を終了したのでサバイバーのブラインドが解除される。「一等航海士」がマップ左中央壁真ん中、「祭司」がマップ中央教会、「昆虫学者」がマップ上中央小屋、「骨董商」がマップ下中央レッドカーペット。
予想通り。
ミューズの紋章が割れ、試合が始まる。