◇運命が変わる日◇(貴和豪一門の姫である牡丹の場合)
ー時は数億年先の地球 忍歴2020年ー
忍びの特権階級である貴和豪一門の中でも、変わり種で有名な私の名前は牡丹。一門の中では、わがままな姫として私は知れ渡っていた。
私は小さなあくびを噛み締めて、澄ました顔を保とうと努力していた。
本当につまらない。
私が興味があることからは、かけ離れすぎている。
短剣投げの練習とか、乗馬とか、美容院とか、次に仕立てるお着物の反物選びとか、領地の作物の育成状況を視察したりとか、そういうことを私はやりたい。
ため息が出そうになるのを私はグッと堪えた。
父のご機嫌が今日もよろしくない。
私は高価なマガホニーのテーブルの木目を見つめた。私の趣味ではないけれど、父お気に入りのマガホニーがかわいそうになる。
四半世紀以上もこんなつまらない話を聞かされ続けているテーブルは、実に気の毒だ。
父は、サイドテーブルに置いた火鉢にキセルを打ち付けて、怒り狂っている。
兄は、いつものように父の剣幕にしどろもどろだ。
ざまあみろと私は内心思う。兄のことを快く思う奴など、この家にはいない。
家族会議は紛糾中だ。なんでも、狙っていたはずの獲物が網にかからなかったらしい。
私は静観をつらぬいておこう。ヨーグルトの偏差値がどうたらこうたらと話している。意味不明だ。可哀想な兄に任せた。
今日の父の怒りの生贄は、お前で決まりだ、と私は心の中で兄に語りかけた。兄には当然聞こえまい。
しかし、思っても見ないことが起こった。
つまらない家族会議は、このとき突然、終わりとなった。
それは、突然やって来た予定外の来客によって、家族会議は中止になったのだ。
うちのだだっ広い玄関に突然やってきた男が、執事に手紙を託した。執事は家族会議中の父にその手紙をそっと手渡した。
私は手紙に黒い刻印を認めた。つまり、大至急処理しなければならない手紙であることを意味していた。家族の中で、この黒い刻印の意味を知っているのは、父と私だけだ。
怒りまくっていた父は、黒い刻印が押された手紙を見るなり、ギョッとしたように動きを止めた。
そして、恐る恐る手紙を開いた。
手紙を聞いた父は、目を見開いて真っ青になった。そして無言のまま、よろよろと立ち上がった。その瞬間、それまで座っていた豪華な布張りの椅子に倒れ込んだ。
「あなた!」
「旦那様!」
「父上!」
家族が叫んで駆け寄ると、父は大丈夫と震える手をあげようとしたが、再び起き上がることができなかった。
「|忍びと人間が?」
父の最後の言葉はそうだった。私の父は、そのままあっけなく息を引き取った。