第2話 私のこと(間宮沙織)
私の仕事は、いわゆる下級武士だ。奉行所で算盤方をやっている。
たまに、私の得意な人をあやつる術で、めんどうくさい数字をごまかして提出するのだが、私の上司の方が一枚上手だ。
「間宮沙織くん。ここの数字を計算しなおして。」
すぐに上司に見破られて突き返される。この優秀すぎる上司のせいで、私のささやかな反抗心が時々むくむくとおさえきれなくなり、ちょっとしたストレス発散でプテラノドンに変身する趣味を始めたしだいだ。
もちろん、人間が生きていた地球より数億年先のこの地球には、本物のプテラノドンもたくさんいる。けれども、私の忍びとしてのなりきる術は結構いけている。人間には、プテラノドンにしか見えない完成度でなりきることができた。
焼酎を飲んで銭湯に行こうとして、颯介に呼びだされたことがある。
そのまま銭湯に行っていたら、溺れ死んでいたかもしれない。しかし、颯介がゲームでゲットしたトラビコンの魚という、奇妙な魚を少しわけてもらったおかげで、エラ呼吸がしばらくできるようになった。
戻ってきて忍びに戻った時は、しばらく銭湯で酒が残っていても大丈夫だった。その数日後にジムのプールで偶然であった職場の後輩に水術を披露しようとしたら、200メートル潜ったまま無呼吸で泳げたので、後輩からは水術の天才の称号をもらえた。
いつも数字をごまかして人をあやつる術でなんとかしようとする私に対する目が、ちょっと職場で変わった瞬間だった。
ま、颯介にプテラとして呼びだされることで、私が損することばかりではないことは確かだ。面白い冒険も数多く経験させてもらった。
忍びで奉行所勤めの算盤方には、一生かかっても経験できない冒険ばかりであることはまちがいなかった。
連続回転で空中を舞い、相手に飛びかかり、素手で技を決める。壁も走り、屋根も走り、敵を手裏剣や短剣で成敗する。そういった忍びの技を使う冒険もあるが、それだけが冒険ではない。
ゲームの参加者の颯介が、とびきりの異能を使って敵を成敗するのを眺めたり、それに協力するのは面白かった。