辺境の星からの刺客(冒頭)
乾いた砂が目に入る。口にも入る。
その星は、常に砂の混じった風が吹いていた。
私は幼かった頃の記憶を覚えている。口と鼻を砂から守る布と、目にはゴーグルをしていた記憶がある。それらの名前は、もう覚えていない。
おぼろげな記憶だが、その乾き切った星では、水を人工的に作り出していた。私の親は惑星を追われ、新たに住む星を探して放浪を続けていた。子供の私は、何十人かの子供たちと一緒に砂の混じった風の吹くその星で育った。
「ファイロー!」
笑顔で私に駆け寄ってくる友達の幼い子供の顔が頭に残っている。
「ほら、これ見て!」
差し出された手のひらには、カップに入った黒い土から緑の小さな芽が出ていた。
「綺麗だね。」
「うん!」
「すごいな。」
私に話しかけてくれたその子の名前は、もう覚えていない。
私はそのあとすぐに、任務を与えられたからだ。
私は、六歳で過去の地球に送り込まれた。地球では、カップに入った土どころではない、肥沃な大地から樹木や植物が育ち、大量の穀物が育つのを、驚きと共に目の当たりにした。地球では、吹く風には砂など混ざっていなかった。
私が過去の記憶を忘れないのは、私の目的を忘れないためだ。私には任務がある。
私にだけ、近くにいる忍びや周囲の生き物の考えていることが読めることがわかったのは、忍びとして育てられていた最初の頃だった。忍びの子供たちに混ざって、寺小屋で聞き耳の術を習わされていて、その時に私は自分の力を知った。
周りの忍びの子供たちは、耳で聞く方の声しか認識できなかった。私にだけ、近にいる者の心の声まで聞こえた。
その特別な能力は、私がこの時代の地球の生物ではないからかもしれなかった。
ただ、今回の件で帝に何度かお会いしたが、帝の心の声だけは全く聞こえなかった。帝にだけ防御が備わっているようだった。
おぼろげな子供の頃の記憶では、「ファイロー!」と駆け寄ってきた時のその子の心の声は聞こえていなかったと思う。
「ほら!すごいね!」と躍り上がるように喜ぶその子の笑顔と共に、私に聞こえていたのは、彼が本当に話した言葉だけだったと思う。地球にいると、他の生物の心の声が聞こえるということらしかった。
私の名前は、橘五右衛門。この星では、もはやファイローとは呼ばれない。
六歳で与えられた私の任務はまもなく完了する予定だ。
これから何が起きるのか、おおよそ私は知っている。
間宮沙織も帝もこれから何が起こるのか、全く知らない。荒廃した地球を救うために未来の辺境の星から送り込まれた私。そう、橘五右衛門だけが知っていることだ。