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1 使えないスクロール(4)

 ジャックは認識阻害あるいは潜伏の魔術の付与されたローブの取引について、貿易ギルド、商人ギルドを当たったが収穫はなかった。また、白髪灰色ローブの人物について、スラムに住むホームレスや酒場の店主たちから情報を得ようとしたが、心当たりがないか、見かけた程度で住処や素性を知るものはいなかった。

 認識阻害や潜伏は常時発動できるものではない。オリーはローブがずぶ濡れだったと言っていた。ならばそれをずっと被っていたということであり、どこかで着替えている可能性は低い。それにもかかわらず、ホームレスにも見つからないというのはちょっと異常である。唯一得られたまともな情報としては、街はずれの商人から月に1度、割と多めの食料を買い込んでいくのを見かけたという程度である。

 徹底して素性を隠し、この街のどこかで引き籠っているらしいことが予想される。


 残る手がかりはジャックのポケットの中、このスクロールの紙切れだけである。

 このスクロールの紙きれは、魔術ギルドのスクロールとは異なり、羊皮紙や魔物の皮のような高級品ではない。植物の煮汁から作った繊維を固めて作る、東国由来の手法だ。木板に比べればまだまだ普及していないが、王都でも作っているところが無いわけではないという。商人ギルドの友人にその工房の場所を聞き、ジャックは工房に辿り着いた。


「このスクロールに使われている紙は、こちらで作られたものでしょうか?」

「確かにうちと同じような材質だが、これは酷く質が悪い。」


 その工房の主人が言うには、このスクロールの紙は一度使った紙をさらに溶かしなおして作られたもので、漂白されておらず、品質が悪い、粗造りなものであるらしい。灰色白髪の人物についても、心当たりは無いという。


 工房の紙の多くは商人ギルドで使用され、長期保存しないか、製本しないような、あまり重要ではない文書に利用されている。

 ジャックが再度商人ギルドに訪れた時には、日は沈み始め、多くの商人たちが家に帰りはじめる頃になっていた。ジャックは帰りがけの商人に、使用済みの紙をどこに捨てているのか尋ねた。商人ギルドで使った紙が原料となっていると考えたのである。商人は路地裏を指さし、ある程度溜まった紙を他のゴミと一緒に焼却炉で焼いていると教えてくれた。


 ジャックは裏路地、ゴミの焼却炉まで行き、書類が束で捨てられているのを確認した。この場所は角になっていて、通りからは見えづらい。商人たちの多いこの商業地区は、比較的治安が良く、ホームレスも少ない。そして勤勉な者たちが多いため、すぐ近くには酒場も少ない。人目につかず、使用済みの紙を持っていくことが出来そうだ。運がいい。他に手がかりもない。ジャック紙に細工をすることにした。通りから見えるギリギリの位置まで引っ張り出し、通りから様子を窺う。

 しばらく経って、日が落ちる直前、灰のローブを着た人物が来た。ジャックは当たりを確信し、二度とは無さそうなこのチャンスを最大限活かすため、後を追けることにした。

 フィリスは連日のスクロール作成で疲れ果てていた。ここ2週間は休みなくスクロールを作成し、次の出荷に備えていた。あまりに夢中で作っていたため、紙を切らしてしまった。商人ギルドにはいつも紙が捨ててある。これを煮溶かしてもう一度使えば、タダで紙が手に入る。リスクはあるが、取りに行かなければならない。あれさえあれば、スクロールさえあれば自由になれるのだ。


「あった。」


フィリスには捨てられた紙束が光り輝く神々しいものにさえに見えた。大事に抱え、裏路地を戻る。


(つけられている?・・・)


 路地を何度か曲がる度、同じ装いの男が見えるような気がした。角を曲がったところで潜伏を発動し、男の出方を窺った。男はフィリスが角を曲がると、足音もなく、しかし素早く接近してきた。間違いない。この男は危険だ。フィリスは息を止め、気配を殺した。


「見失ったか・・・」


 男はそう呟くと、引き返していった。男が見えなくなった所で潜伏を解く。ゆっくりと、呼吸を元に戻し、周囲を確認した。魔術の行使された気配もない。間一髪だった。見つかり、市警団に引き渡されでもしたら致命的だった。念には念を、いつもと違う道で足早に地下水道に入り、隠れ家へと向かった。追手の気配はない。此処まで来れば安心である。


 フィリスは地下水道に見つけた穴倉を根城にしている。元々王都の兵士たちの隠し通路だったものが、今では地下水道として利用されており、夜は非常に冷える。フィリスのほかにここを利用する者はいない。僅かに風の通るこの部屋なら火も焚ける。この火がフィリスの生命線だ。フィリスは取ってきた紙を着火剤に火を起こした。


 フィリスは収穫物を確かめ、煮溶かすべく、水を張った大き目の鍋に紙をちぎって入れていく。ゆっくりと、確実に溶けてゆく紙を眺めるこの時間は無心になれる。ともすればこの紙のスープは飲めるのではないかという錯覚にすら襲われる。思えば昨日の晩から何も口にしていない。

 乾パンの残りを今食べてしまおうと、手を洗う。フィリスはそこで違和感に気づいた。手がうっすらと光る何かで汚れている。紙束を見ると、やはり一番下の1枚がうっすらと光っている。神々しさで光って見えた訳ではない。実際に光っているのだ。床を見ると、同じような弱い光が続いている。フィリスの頭を絶望が支配した時、穴倉の前に人影をとらえた。

「誰?」

そこには先ほどの男、ジャックが立っていた。


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