1 使えないスクロール(3)
冒険者ギルドでの契約後、ジャックはまず市場に向かった。まずは地道にスクロールの来た道を追いたい。市場は活気で溢れ、夏の陽光をものともしない商人たちの喧騒でいっぱいだ。ここにはジャックが懇意にしている道具屋も露店を出している。
「いらっしゃいジャック!ダンジョン探索かい?今日のおすすめは毒消しポーションだよ!低層でポイズンスパイダーの巣が多くなっているからね!あの巣に頭から突っ込んじゃったバカな冒険者が毒消しを使わずに中層まで行って、顔をパンパンに張らしたらしいよ!笑えるね!!」
「そいつは傑作だな。新人からやり直した方がいい。」
道具屋「緑狸の荷馬車」の店員、ハーフリングのオリーは今日も元気溌剌だ。ミリーゼと同じくらいの歳だが、背格好は2周り小さい。顔立ちの整った美人だが、この街の男達は手を出そうとはしない。
「今日はダンジョン探索じゃないんだ。以前売ってくれたスクロールのことで話があって来た。」
「ええ~!?言ったよね!?使えるかどうかわかんないから、買うなら自己責任だよって?使えなかったからって、文句なしだよ?」
オリーは露店台から身を乗り出して抗議した。が、元々露店が小さく、オリーも小さいので、妙にかわいい仕草になってしまう。
「大丈夫だ、ライトは使えた。実際中層で役に立ったんだ。文句を言うつもりもない。」
「なーんだ。じゃあ要件は何?言っとくけどあの安いスクロールは不定期入荷だから、違うスクロールも今は売り切れて在庫は無いよ?」
「ああ、変なことを聞いて悪いんだが、オリー、あの安いスクロールはどこで手に入れたんだ?本店の在庫棚から引っ張り出してきたのか?」
ジャックは銀貨1枚をオリーに渡しながら尋ねた。
「違うよ?持ち込みさ。1年くらい前からかな。最近だとちょっと前の雨の日だね。魔術師さんが直接売り込みに来るんだ。」
「その魔術師はどんな奴だった?」
ジャックはさらに銀貨を1枚見せてオリーに尋ねた。
「うーんとねー、夕方だったから顔は良く見えなかったなー。あ!髪の毛は長くて白髪、ずぶ濡れのローブから出てたよ!」
ジャックは銀貨を渡すとさらに1枚見せながら尋ねた。
「他には?あと何か言ってなかったか?」
「背はジャックと同じくらいで、細め、武器は杖しか持ってなかった。ローブには魔術が付与されてて、多分潜伏が使える。わたしが目を離した隙に消えちゃったからね。あと、このスクロールは失敗作で魔力特性と魔力がなんとかかんとか言ってたような・・・ハッ」
「お前、失敗作と分かってて売ったのか・・・」
ジャックは銀貨を財布に戻そうとした。
「まってジャック!でも、条件が合えば使えるとも言ってたんだ!!魔術については詳しくないから、もう使えるかどうかわからないってことで売っちゃえと思っただけなんだ。だまそうとは思ってないよ。それに鑑定のルーペでも”スクロール”って出たんだよ!」
オリーは上目づかいで訴えた。ジャックはこの目に弱い。銀貨を手に持ち直し、更に尋ねた。
「他の店であれを取り扱ってた場所、そいつが現れる頻度を教えてくれないか?」
「もちろんだよ!特に秘密にしてくれって言われてないしね!あの魔術師が来るのは本当に不定期だけど、いつも同じ人だと思う。あと他にも3店くらいに回って売ってるみたいだよ。場所はね・・・」
オリーの店を含め、それらの店舗はどれも魔術ギルドとは取引がない。
「ジャック、その人を捕まえるの?別に悪い人には見えなかったよ?」
「別にそういうわけじゃない。ありがとう、助かったよ。」
ジャックは銀貨1枚と飴玉を渡した。
「もー!そうやっていつも子ども扱いするんだ!!言っとくけど、ジャックより年上なんだからね!」
「わかってるつもりだ。」
「わかってない!あっ・・・ジャック。金華蝶の粉を買っていった方がいい・・」
金華蝶はダンジョン中層に住む、美しい蝶だ。鱗粉は刀剣にまぶして使うことで強力な錆止めになる。特に使う予定はなかったが、『ラッキーアイテム』の才能を持つジャックが薦めるものは買っておいた方が良い。オリーが思いつきで薦めているだけのようにも見えるが、そのアイテムで命を救われる冒険者も少なくないのだ。
「分かった。ナイフの分を貰っておこう。」
「銀貨2枚だよ!!まいどありー!ジャックは絶対買ってくれるから好きだよ。」
「調子のいいやつだ。また来る。」
ジャックはオリーの軽口を受け流し、オリーの言った「他の店」に行ったが、新しい情報は何も得られなかった。




