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1 使えないスクロール(2)

 翌朝、ジャックはまだ酒の抜けきっていない頭で冒険者ギルドの門をくぐった。


 街の中心部に位置する冒険者ギルドでは、クエストの仲介、掲示、素材の買い取り、達成報酬の譲渡から預金まで、冒険者のサポートを総合的に行っている。大広間の掲示板には依頼の書かれた木板がランクごとに張り出されている。


 朝はダンジョンに潜ることの許可されない駆け出しの冒険者たちが、少しでも条件の良い依頼を受けようと込み合う時間帯だ。若い冒険者たちが挙って並ぶのは、ミリーゼのところだ。受付嬢のミリーゼは美人で気さく、器量よし。5年前、ジャックが冒険者としてこの街で生計を立て始める少し前に、見習い受付としてギルドに迎えられた。屈強な冒険者たちは皆、彼女の明るさと屈託のない笑顔にやられてしまい、特に最古参の魔術師バーゼルの可愛がりようは孫に向けられるそれであった。以来5年間、彼女を傷つけることはこの街ではご法度となっている。


「いらっしゃい、ジャック!ワイズさんなら来てるわ。奥の部屋でハンスさんと一緒よ。」

「おはよう、ミリーゼ。2番だね、ありがとう。」

 奥の部屋に向かうジャックの服をミリーゼは両手で可愛らしく引っ張った。

「ちょっと待ってジャック。明後日の夜は空いてるかしら?」

「明後日か?依頼の進捗次第だが、難しいだろうな。」

 ジャックに凄まじい悪寒が走った。ミリーゼの後方、ギルドの入り口付近に座っているバーゼルの眼光が鋭い。

「そう、残念。私もお酒を飲める年になるから、ギルドのみんなが宴会に誘ってくれたの。ジャックもどうかと思って・・・」

 ミリーゼは肩を落としている。バーゼルが杖を手に取る。ジャックの酔いは醒めた。

「そうか!それはおめでとう!!必ず参加させてもらおう!!!」

 バーゼルは杖から水を出し、コップに注いだ。

「本当!?じゃあ、日が沈んだらこの1階の広場に集合よ!約束だからね?」

「ああ、約束だ。」

 バーゼルはこちらを向いて微笑んでいる。

 なんとしても明後日の夕刻までに依頼を終えなければ・・・ジャックは急ぎ足で2番の部屋に向かった。


 冒険者への依頼は、依頼登録料を支払えば、誰でも可能だ。基本的には指定するランクごとに依頼登録料と達成時の最低報酬額が決まっている。依頼は掲示板に張り出され、受注は早い者勝ちである。これとは別に、依頼者がギルドを通して冒険者個人と指名契約する場合もある。今回のジャックの場合はこれだ。指名契約は手数料が割高になるが、報酬の取り決め等が自由に行えるほか、公証人を通せば、言った言わないの揉め事が少なくなる。ハンスはギルド付の公証人で、公正中立な人物だ。依頼人や冒険者とは馴れ合わず、実に淡々と仕事をする。時計のような人物である。


「ジャック殿、昨日はどうも」


「おはようワイズさん。待たせたようですまない。ハンスさん、出来るだけ早く契約したい。要点を説明するから書き起こして欲しい。」

「既にある程度まとめてあります。他に必要なところがあれば書き足しますので言ってください。」

 ハンスの言うとおり、契約書はほぼ出来上がっていた。ワイズも了承済みとのことだ。これならすぐにでも取り掛かって大丈夫そうだ。ただ、失敗に関する条項が未定だ。

「俺もすべてを必ず成功させられる訳ではない。達成目標を細分化させても問題ないか?」

 ワイズとジャックは話し合い、”スクロール製作者達の情報””スクロールの工房の特定””スクロールの製法””製作者達の勧誘”にそれぞれ成功するごと金貨2枚ずつ支払うことでまとまった。”スクロールの製法”については、その価値が金貨2枚以上と判断される場合、別途値段交渉可能とした。


 この内容であれば、少なくともクエスト達成判断で揉めることは無さそうだ。ハンスはギルドの印章を用意しながら尋ねた。

「ではこの内容で依頼締結となります。最後に期限はどうしましょうか?」

ワイズは即答した。

「情報は早さが命です。このクエストの価値は、他の人々がこれらの情報を知る前に私どもにそれを提供いただくことです。また、大々的にギルドにクエスト掲示をして、製作者達にこちらが情報を求めていることが知られるのも避けたい。」

 ハンスは頷き、提案した。

「元より、冒険者ギルドでの指名契約は、秘密契約です。私を除けば、ギルドマスターでさえ、期限を過ぎるまでは依頼内容は知りえません。期限ですが、迅速さが肝要ということであれば、ひとまずの期限を1週間とし、あとは遅れる度に金貨1枚の割引、報酬がゼロになった時点で失敗というのはどうでしょうか?」

 ワイズは少し考えて、更に条件を追加した。

「失敗後、再度依頼を出したい場合は半額でお引き受けいただけないでしょうか?」

 どうやら情報がどうしても欲しいらしい。ジャックは答えた。

「構わない。その相手が俺でなくても良い。その場合俺は一切を口外しないことを誓う。」

「ではこの内容で契約します。ジャックさん、ハンスさん、お願い致します。」


 契約は結ばれた。ジャックはこの依頼を明後日の夕方までに片づけるつもりでいる。

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