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【書籍化】政略結婚の相手は推しの魔王様 このままでは萌え死してしまいます! (旧 推しの魔王様!)  作者: 葉月クロル


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決着 その1

 シャイニーに乗ったままのわたしが魔素を集めて、それを使ってゼル様がドラゴンゾンビを捕縛している鎖を補強する、という作業を、わたし達は延々と、徐々に楽しくなりながら続けていた。

 こう、魔素の塊をゼル様に手渡す時に手と手が触れ合うと「あっ」なんて頬を染めたり、たまにちらりとわたしを見るゼル様の眼差しが超超超超色っぽくて「きゃ♡」と照れたり、初々しいカップルの初めての共同作業は盛り上がっていた。

 そして、無駄に魔力が強くなった鎖が巨大なドラゴンゾンビをぎっちぎちに締めていて、そのブラックホールの様な虚無をたたえた瞳の中に『ちっ、イチャイチャしやがって!』という苛立ちがはっきりとわかる様になっていた。


「アネット様、ご無事でいらっしゃいますか? お怪我などはございませんか?」


 透明な夢馬に引かれた馬車から、森の妖精女王フェアリークイーンが飛び出してきた。その後から、ゾンビでありながら大層美しい神官シモン様と、骨の照りが最高に輝いたイケてるスケルトンズ、ドナルドとカーネルがやって来る。


「非力な姫君がこの様な恐ろしい戦場に足を踏み入れては……あら? それは何をなさっているのでございますか?」


「ええと、魔素をドラゴンゾンビに与えない様にしているの」


 そう説明しながら手は休めない。

 右手を掲げて空気中の魔素を吸引し、それを左手に移して握って固い球体にしてからゼル様に渡すと、ゼル様は石状になった魔素の塊をドラゴンゾンビに絡みつく鎖に向かって投げて補強する。


 ああ、ゼル様は投球フォームまで尊いわ!

 なんて素晴らしい投げっぷりなのかしら……メジャーリーグに出たら、バッター全てから奪三振した完全試合になること、間違いなしね。 


 地面に這いつくばらせてギリギリと締め上げるゼル様の首輪と鎖を見て、エルは「まあ、すごいですわ。おふたりとも、清々しいまでに容赦ございませんのね」と首を傾げて微笑んだ。


「それにしても、酷い瘴気をまとっていますわね」


 おどろおどろしい姿のドラゴンゾンビを見て、エルは眉をひそめた。


「うむ、それで困っておるのだ。このままでは害がありすぎてこの地に封印できないし、かと言って倒してしまったら瘴気が爆散し、瘴気に耐性のない者たちに被害が出るだろう」


「……アネット様は、ゼルラクシュ魔王陛下の魔力に満ちていらっしゃるから、瘴気の影響は受けませんわね」


 あら、なんだか照れる。

 わたしの身も心もゼル様でいっぱいなのは事実だけど。


「ただし、普通の人間や耐性の低い魔人達は……」


「どうなるのですか?」


「……無残な最期を迎えるでしょう。下手をすると、この世界からほとんどの生き物が……」


 わたしの表情を見たエルが、言葉を飲み込んだ。


「そんな! 嫌です、なんとかなりませんか? ドラゴンゾンビを再封印する方法は?」


 わたしの大切な人達が、苦しみながら命を失ってしまうなんて、そんな事は許せない。わたしはドラゴンゾンビを睨んだが、ゾンビは遠くの洞穴みたいな闇の瞳で見返してきた。


「今はこうして、瘴気を増やさぬ様に努めておるが……封印が可能になるまでこれを続けるわけにもいかぬだろう」


「ちなみに、それはどのくらいかかりますの?」


 ゼル様に尋ねると「ざっと数百年はかかるな」と言われてしまった。

 無理だ!


「このドラゴンゾンビの心には、恨みの気持ちしか残っていませんね。元のドラゴンの魂は、取り憑いた何かに喰われてしまったようです」


 ドラゴンゾンビを観察していたシモン様が言った。ゾンビなので、ゾンビの心にも詳しいようだ。


「これは、瘴気を浄化して元のドラゴンの死骸に戻し、魂を昇天させるしかありません」


「……神官シモン、それは貴方に可能な事ですか?」


 エルの問いかけにシモン様は、恨みの塊になったドラゴンゾンビを見ながら「はい、可能です」と答えた。


「魂の浄化は神官の仕事ですからね。大丈夫、わたしにお任せください。必ずやり遂げてみせます」


「シモン様……どうぞ、よろしくお願い致します! 皆を救ってくださいませ」


 わたしが勢い込んで言うと、彼はふふっと笑って「お任せください、我が気高き姫君。もう少し魔素を集めて、今度はわたしに届けていただけますか?」と答えた。


「わかりました、何でも致しますわ」


 良かった!

 シモン様がみんなを助けてくださる。

 お父様とお母様とお姉様とセオドアとグレンと、他の沢山の人々の恐ろしい死を回避してくださるわ!


「……この様な、やり甲斐のある仕事を任せて頂けて、嬉しく思いますよ」


 艶やかな金髪に青空の様な青い瞳を少しお茶目に煌めかせてから、シモン様はドラゴンゾンビに近づいた。

 そして、両手のひらを腐った巨大なドラゴンに向けると、詠唱した。


「神の永遠のしもべなる神官シモンが大いなる神の名において、不浄なる波動を清めます。浄化ピュリフィケーション!」


 神聖魔法だけど、発動するためには魔素が必要だし、こんなにも大きく邪悪なドラゴンを浄化するにはとにかく大量の魔素が必要だ。


「大地よ、悪しき存在を祓うための力を貸して頂戴!」


 エルが大地に根を張り、力を吸い上げて、緑色に光る力ある球体をシモン様へ向けて次々と送る。その背中に吸い込まれて、シモン様の手から浄化の光となってドラゴンゾンビに降り注ぐ。


「アニー、我らも送るぞ」


「はい、ゼル様!」


 わたしは驚きの吸引力を駆使して魔素を集めてゼル様に渡し、ゼル様がそれをシモン様の背中へと投げると吸い込まれる。

 多量の魔素が必要なのでどんどん投げてもらうが、シモン様の背中もたいした吸引力で綺麗に吸い込んでしまう。そして、浄化の光は絶え間なくドラゴンゾンビを包み込む。


 ドラゴンゾンビが可聴域を超えた悲鳴をあげて、暴れ回った。だが既にゾンビ化しているので、痛みを感じているわけではないらしい。屍肉が少しずつ崩れて光を放ちながら消えていく。いい感じに浄化が進んでいるようで、わたしは安心して魔素を集め続けた。


 シオン様の全身も緑色に輝き、やがてドラゴンは骨だけになった。ドラゴンスケルトンというのだろうか?


「ここは我らが!」


「助太刀申し上げる!」


 ドナルドとカーネルが飛び出して、ドラゴンスケルトンの頭を剣で叩き割ると、中に真っ黒な石が見えた。


「陛下、こやつにお慈悲を!」


「お願い申し上げる!」


 同じく不死の仲間として、スケルトンズは瘴気にまみれたドラゴンゾンビに安らかな眠りを求めた。


「うむ」


 ゼル様の左手に『破邪の弓』が現れた。これは魔力を練って作る弓で、同じく魔力でできた矢を放ち、全てのものを貫く威力を持つ武器なのだ。連射はできないから、ボス戦のここぞという時に使う武器である。


 わたしから魔素の塊を受け取ると、ゼル様は銀色に輝く矢を生成して、まっすぐに黒い魔石へと放った。スケルトンズが素早く退避する。


 矢は石の真ん中に刺さった。


「お見事、的中でございます!」


「陛下の御技、とくと拝見させていただきました!」


 矢で貫かれた黒い石は粉々に砕けて、そこへシモン様の光が降り注いだ。

 ドラゴンスケルトンの骨がサラサラと音を立てて崩壊し、地面に着く前に緑色の光となって消えていく。


「良かったわ。無事に浄化が済みましたのね……シモン様?」


 シモン様の身体が、まだ発光しているので、わたしはシャイニーから降りて近寄ろうとした。


「やあやあ、これは」


「何とも懐かしい」


 ドラゴンスケルトンが消え去った所から、ふたりの人物が現れたので、わたしは驚いた。


「……背の高い方が、ドナルドで……がっしりしているのが、カーネル……なの?」


「そうです、姫様。我らの受肉した姿でございます」


「これは我らの最盛期ですな」


 そう言って笑う、三十歳前後のイケメン騎士ふたりも、身体が緑色に輝いている。


「まさか……」


 その場に立ち尽くしたわたしの元へ、シモン様とドナルド、カーネルがやって来て「我らの旅立ちの時が来たようでございます」とそれぞれ礼をした。

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