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【書籍化】政略結婚の相手は推しの魔王様 このままでは萌え死してしまいます! (旧 推しの魔王様!)  作者: 葉月クロル


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異変 その7

 ラミア姫を護衛の騎士に任命したいという話が上手くまとまった。

 蛇のお姫様は、腕に覚えがあり、社交界での地位も高く、何より美しい。

 そして、萌える!

 推せる!

 黒薔薇の騎士様、最高です!


 この国の王妃となるわたしに強い味方が増えたので、エルも上機嫌で「この件は後程のちほどわたしから魔王陛下に報告しておきますわね。騎士ラミア、明日から任務についてください」と内定決定宣言をした。


 ラミア姫の方も「妾がこのように、若きご婦人方と親しく接する事ができるのはとても珍しいのじゃ。最初のアネット姫に対する妾の振る舞いが、不適切であった事を詫びたい気持ちもあるので、姫の為にひと肌脱がせて頂くのはやぶさかではない」と、意欲的に引き受けてくれて、わたし達とよろしくの握手もしてくれた。


 もちろん、男装の麗人に萌えるわたし達は『黒薔薇の騎士との握手』に喜んできゃあきゃあ騒ぎましたとも!

 わたしは更におねだりして、ラミア姫に頭をぽんとしてもらったのだが、皆「これは推しへの贈り物をなさったご褒美ですのね」と頷いていた。

 ラミア姫は頭がよろしいようで、あっという間に『推されポジション』を把握なさったようだ。


 ラミア姫……いや、黒薔薇の騎士は、防御力が無限大(なにしろすべての攻撃がつるんと滑って、ダメージがゼロになるのだ)の騎士服を気に入ったようで、もう真っ赤なゴテゴテドレスには着替えたくないと言いそのままお帰りになった。

 わたし付きの騎士となる事は、蛇一族にとってとても名誉な話だそうで、反対する者は誰もいないだろうとエルに話していたから安心だ。


 そうだ、後で黒薔薇の騎士の腰に巻くサッシュベルトを作ろう。

 赤い布地に黒薔薇模様を刺繍して、ミスリルのビーズを散らすのだ。またすごい効果が付いてしまうかもしれないけれど、それは気にしない事にしよう。


 一族内でいろいろ報告があるというラミア姫を見送って、わたし達がまったりとしていると、突然陛下の訪問があった。

 いや、訪問と言うよりも、部屋に乗り込んで来たと言った方が正しい。

 背中に不穏なオーラを背負ったゼル様が宰相のシャザックを連れて、羊のフレッドの制止も聞かずにわたしのリビングルームまで入って来た。


「アネットはどこだ」


「まあゼル様、ごきげんよう……え?」


 ふかふかの絨毯の上を進んでくるゼル様は、見事な無表情であった。そして、わたしの前に来ると両腕を伸ばして、淑女の礼を取ろうとしたわたしの腰を両手で掴んでそのまま肩に担ぎ上げてしまった。

 いわゆる俵担ぎである。

 そのまま回れ右して歩き始めたゼル様の肩にお腹が乗って圧迫されたわたしは、思わず「お腹が辛い……」と呟いてしまったのだが、ゼル様は両手で腰を持つと肩から浮かせるようにして、楽な俵担ぎにしてくれた。

 今日も推しが優しい。

 好き。


 …………ではない!

 これは婚約者の抱き上げ方ではないのだ。

 いくら楽でも、わたしは俵ではないので、抱えるならばお姫様抱っこを希望する。


「ゼル様、どうかされましたか?」


 希望は通らなくても推しは正義なので、おとなしく担がれながらわたしが尋ねると、一緒について来ていたシャザックが「白々しい! この期に及んでとぼけようとは……やはり人間の女は非礼で卑怯者ばかりですね」と嫌味な感じで鼻を鳴らした。

 意味がわからない。

 あと、卑怯なシャザックにだけは言われたくない。


「陛下、何をなさるのですか」


「エルエリアウラ殿、かばい立てすると貴女も同罪ですよ。ミシェール姫、マリアンヌ姫、そしてこのアネット姫までも! セルニアータ国には厳重抗議をしなければなりませんね」


「……あの、シャザック殿、落ち着いてお話を。何か誤解をなさっていらっしゃるのでは?」


「このシャザックを甘くみられては困りますね」


 遠のいていくシャザックを『また余計な事をたくらんだの?』と睨み、心配そうなエルにひらひらと手を振りながら、わたしはゼル様に運ばれていった。





 わたしを軽々と持ち上げたゼル様は王宮の中を進んでいき、やがて建物の奥の特別な場所にある部屋に着いた。先日の結婚誓約をした後に連れてこられた国王と王妃の部屋だ。わたしは、結婚式を挙げてからじゃないと入れないと言われた筈の国王の私室に入ったので、驚いて声をあげた。


「ゼル様、わたしがここに入ってよろしいのですか?」


 だが、只事ただごとでない様子のゼル様は無言で奥へと進み、突き当たりの部屋で足を止めるとわたしを下ろした……ベッドの上に、仰向けに。


「え、何? どうなさったの?」


 わたしは身を起こして、きょろきょろとベッド周りを観察した。


 推しのベッド! 

 麗しの魔王、ゼルラクシュ様がその美しき身体を横たえて、お休みになるベッド! 

 ああ、シーツになりたい! 

 全身でゼル様を受け止めるから!


 と、その時、わたしはベッドに押し倒された。

 上に見えるのは、天井でも天蓋でもなく推しの顔!

 ポスターではない、本物の顔だ。


 全身で受け止めるのは、今?


 無表情状態から一ミリも顔のパーツを動かさないので、さすがのわたしにもまったく感情が読めないゼル様は、長い髪を一筋手に取ると、それをわたしの首にぐるりと巻き付けてから引いた。


「んぐっ」


 喉が締まって呻き声をあげる。

 すると、ゼル様の魔力をたっぷりと含んだ髪は光を放ち、なんと首輪と鎖に姿を変えたのだ。

 そして、鎖の端は素早くベッドの脚にくくりつけられた。


「……これでそなたは逃げられまい」


「はい?」


 ゼル様が何をしたいのかがわからない。

 何という事だ、最愛の推しにして婚約者であるマイプレシャストレビアンセレブレティスーパーダーリン⭐︎の気持ちがわからないなんて!

 ゼル様の思考回路や行動パターンは知り尽くしている筈なのに……このアネット・シュトーレイ、一生の不覚!


 悔しさのあまりに首輪を両手で握りしめて「くうっ」と顔を歪めると、ゼル様は口の端だけで冷たく笑った。


「無駄だ。そなたの力では……いや、他の誰にも、その首輪を外す事はできない。そなたはこれから、この部屋で暮らすのだ」


「この部屋で……って、ここはゼル様の寝室ですわよね? まだ婚約者のわたしがいてはならない場所なのでは……」


「問題ない」


 あ、そうですね。

 この国の王であり世界で最強の力を持つ魔王陛下の一存で、そんな決まり事など簡単に覆せますよね。

 まさか、ドキドキの婚前同棲ライフの始まりなのですか?

 どうしよう、心の準備が……。


 わたしが狼狽うろたえていると、ゼル様は右手でわたしの顎の所を掴むようにして持った。


「そなたをのがしはしないぞ……どのような事があってもな。我を嫌っても憎んでも、絶対に側から離さないから覚悟をするが良い」


 笑いの形に唇を歪める。


 待って、きゅんと来ちゃった!

 推しの悪役風笑いがツボに入り過ぎて辛い!

 背中がぞくっとしちゃって、なんだか身体がもじもじって動いちゃう。

 何このご褒美、ごちそうさまです!

 カッコ良すぎて久しぶりに鼻血が出ちゃいそうよ。


「一生涯、死ぬまで、そなたは我ひとりのものだ」


 きゃああああああああーっ!

 これはたまらないヤンデレ要素!

 ハアハアどころじゃない、ふんがっふんがっふんがって変な呼吸をしちゃうわ!

 もちろんよゼル様、わたしのすべてはゼル様のものよーっ!


 わたしは我慢できずに、荒くなる鼻息を隠す為に両手で顔を覆った。

 どうしよう。

 心臓がバクバクする。

 正直言って、今までのわたしはヤンデレ、つまり愛が深すぎて病んだ事をやらかすヒーローには今ひとつ萌えなかった。拉致監禁とか、俺以外の男を見たらただではおかないぞみたいな男子は、いくら美形でもお断りだって思っていた。


 それなのに。

 ゼル様がやると、すっごい、いい!

 なんでなのかしら、絶世の美女もかくやという程の、光り輝く美形っぷりだから?

 クールで孤独な影を持つ男性の熱い執着だから?

 首輪をはめられて喜ぶ属性が自分にあるなんて、今までまったく気づかなかったけれど……偉大なるゼル様は、わたしの知らないわたしを引き出してしまったのね。

 ああん、秘密を暴かれたようでなんだか恥ずかしいけど、それもまた……。


「泣いても無駄だ、誰も助けには来ない」


 そ、それは、ここから先は夫婦の秘め事だからという意味なのかしら?

 どうしよう、大人の階段を一段抜かしで昇らされているみたいだわ!

 ああ、顔が熱い。

 ゼル様お願い、優しくしてね!

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