25 信長、天下のための次の一歩を決める
そのあと、俺は西側の国家を征服する作業に取り掛かった。俺のことを知りすぎているミスイル(明智光秀)との対決は避ける格好だ。
その間、ミスイルは帝国のほうの皇帝をすげ替えた。
公的には、皇帝が体調を崩して、政務がとれなくなったということらしいが、おそらく毒かなんかを飲ませたのだろう。
皇帝の弟が次の皇帝になった。
おそらく、数年おきに皇帝一族の間で皇帝を立てつつ、自身の勢力を広げていくつもりなのだろう。
ミスイルはそのあと、皇帝に近い者に謀反人の罪をかぶせては討伐し、その所領を支配下に治めるということを繰り返していった。
あの形で本来の天下人という地位を確立させていくつもりなんだろう。
俺は完全に西側の国家を攻めることに力点を移して、版図を広げていった。
鉄砲隊や長槍隊を使いつつ、五年ほどの間に織田信長が築いた最大版図に近いほどにまでオールランド侯国の領土を広げた。
そして、オールランド侯国の権力が盤石になった段階で俺は次の手に出た。
皇帝の甥にあたるハスカを、新国家の皇帝として推戴した。
国名はオールランド帝国。
旧帝国の国土の半分ほどの面積ではあるが、皇帝という顔が必要だったのだ。
ミスイルのほうも順調に権力を伸ばしていたからだ。
ミスイルはまた皇帝を廃して、次の皇帝を立てていた。
形式上は皇帝急死ということだったが、つまり毒殺だったのだろう。
ミスイルのやり口はわかった。トップを入れ替えて、そのうちに自己の権力を誰も覆せないほどに高めていくということだろう。
そして、ミスイルの直轄領が増えるに連れて、帝国の力が復権しつつあるのも事実だった。
いずれ、オールランド帝国とミスイルの旧帝国同士が衝突することになるだろう。
「これから先、どういたしますか?」
妻のアメリアがテーブルに広げられた地図をにらみながら、尋ねてくる。
そう、次に獲る地域を決めないといけない。
「まずは確実に残りの取り残している土地を手に入れる。三年はそれでいいだろう」
「その先は、どうします? いえ、言葉を変えましょう。いつ、旧帝国と戦うんですか?」
いずれミスイルと戦うのは避けようがなく、問題はその戦いをどうするかだ。
「それは敵次第だ。敵は数年に一度、穴が空く」
「穴?」
「皇帝がどうせまた欠ける。ミスイルはどうせ数年おきに皇帝を消すからな」
アメリアがはっとした顔になる。
「ああ、こちら側の皇帝をそれなりに遇しているのはそのためなんですね。たしかに、敵国の皇帝が戦場に出ないなら、こちら側の皇帝が全軍を指揮する形にすれば、士気では敵を圧倒できるかもしれない……」
「そういうことだ。あいつのやり方は寄生が露骨すぎる。権力は握れても、ミスイルに国をほしいままにされているという鬱憤は仕えている者達の間でも広まっている。それはどこかで限界に達する」
光秀、お前の選択は先が見えている。
だんだんとお前に従うことをいいと思わない奴が増えてきて、きついことになるだろう。そこを叩き潰してやる。
「ですが、それならもっと待ったほうが。よりこちらに有利なのではないですか?」
「いや、俺たちの目標は自分が推戴している皇帝による統一じゃないだろ。ミスイルぐらいはそこでとっとと排除する」
アメリアも意味がわかったらしく、笑った。
「そうですね。狙うなら完全な意味での統治者。そして、我が子にも国を与えたいですから」
「だな。あいつらはまた二人そろって昼寝か。まっ、寝る子は育つよな」
俺達は自分の天下のために踏み出す次の一歩を決めた。
「じゃあ、また軍議で家臣達に意見を聞くことにするか」
◆終わり◆
連載は今回で終わりです! 短い間でしたが、読んでくださった皆様、ありがとうございました!




