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番兵と蟻  作者: 中村文音
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番兵と蟻


翌日から、王様お抱えの偉い学者が、何人も木のもとへやってきました。


 皆、難しい顔で仔細に果物の木を調べては、首を傾げたりひげをひねったりしました。


 ひとりの学者は、太い枝から細い枝が何本出ているか、何日もかかって数えていました。


 別の学者は、毎日通っては、新しく落ちた木の葉を数え、その幾枚かを持ち帰りました。


 持ち帰られた葉は、顕微鏡で観察された後、一枚一枚、標本にして保管されるとのことでした。





 国中から次々に偉い先生が見えるので、番兵はにわかに忙しくなりました。


 ひとりひとりが何をして、落ちた葉や花や実をどれだけ持ち帰ったかを、毎日記録して番兵長に報告することと、その日の木の様子を伝えることが、新しい任務に加わりました。





 ですが、学者も研究者も、観察と研究を重ね、その結果を分厚い束にして果物の木の大臣に報告しましたが、なぜ葉の色が褪せていくのか、葉が次々に散っていくのか、原因を突き止めたものは誰もおりません。


 


 そうしている間にも、木は日に日に元気をなくしていくようでした。


 かろうじて木についている葉の色も、昨日より悪くなっていき、木の葉はいつも、前の日より多く散っていきました。


 木の根元には落ちた木の葉がこんもりと溜まって小さな山を作り、その山が片付けても片付けても、ずんずん高くなっていきました。





 番兵がその度に城へ駆け戻っては、すぐさま番兵長に細かく正確に報告しますと、あくる日にはすぐさま朝早くからまた、木や果物の学者や研究者、はたまた果物つくりの上手なお百姓さんから学校の先生までがあちこちから集められて、入れ替わり立ち替わりやってくるのです。


 それが毎日のことなので、今では国中の専門家が列を作って、おいしい実のなる木の前に並んでいるようになったのです。





 ですが、人々の努力の甲斐もなく木はどんどん弱っていき、木の葉はもう緑ではなく黄味を帯びた薄い色になっていました。


 つぼみもいつもの年よりずっとまばらで、やっとついても咲かずに根元からぽろりと散ってしまいます。


 わずかに開いた花もほとんど実を結ばず、ただでさえ少ない実は、小さく硬いままむなしく落ちていきました。





 木はまるで、立ちながら枯れてしまったように見えました。


 根元には色あせた葉がうずたかく積もり、その中に枯れた花がところどころ混じり、小さくしなびた硬い実がころころと転がっています。


 それでも番兵は、毎日、それまでと同じに見張りを続けていました。


 今日こそは新しい芽が少しでものぞいていないか、つぼみがきざしていないか、その鋭い目で大切な実のなる大切な木をくまなく観察しながら。


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