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番兵と蟻  作者: 中村文音
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番兵と蟻


蟻はパンくずを抱ええて、じっと聞いていました。





「あの様子では一人で帰すわけにはいかぬし、かといって、わたしは仕事を放り出すことはできぬし。





 …木の実を守ると一言で言っても、実は大変なことなのだ。


 代わりの番兵が見つかるまで、辞めるわけにはいかぬのだよ。


 任務とは、そういうものだからな。





 この国広しといえども、番兵になれる者は、そうざらにはいない。


 敵を見つけられるよう、目も耳も鋭くなくてはならないし、目や耳によらない、異変を察知する能力も必要だ。


 敵と闘って倒す力もいるから、銃も剣も能くしなくては務まらない。


 何より、辛抱強くなくてはならぬ。


 代わりが見つかるまで続ける覚悟はもとよりあるが、もっと年を取って体も心も弱るまで、代わりの者は来ぬかもしれぬ。


 ……それでは、かみさんが不憫でなあ……。





 …蟻よ、お前はよいなあ。どこへでも自由に行ける。





 わしはこの務めを果たさねばならぬ。


 次の者が見つかるまでは、ここから逃れることはできぬ。


 ……代わりは間に合わぬかもしれないな……」





 蟻は黙って番兵の話を聞いていましたが、別れ際に番兵の眼をしっかりと見つめて力強くうなずくと、そのままほつりほつりと帰ってゆきました。







 蟻はそれから、ぱったりと来なくなりました。





「やっぱり、バタ付きのパンでは気に入らなかったのかなあ」





 話をする相手がいなくなったので、番兵は寂しく思いながら、その日もバタ付きパンとお茶でお午を済ませました。


 果物のジャムのない、一人きりの食事のなんと味気ないことでしょう。


 自分でパンを買い、バタを塗ってごまかしてはいるものの、やはり奥さんの焼いたパンと拵えたジャムが恋しく思われるのでした。







 そんなある日のこと。


 朝早く見張りに来た番兵は、果物の木が、何かいつもと様子が違うように思えて、その原因を探そうと、しきりに木を観察しました。





 少し色の褪せた葉が、根元にぱらぱらと落ちています。


 見上げると、木の葉が昨日より、少しまばらになっているように見えました。


 そうしているうちに、また新たに、ぱらり、ぱらりと葉が散りました。





「こりゃあ大変だ!


 このまま葉がどんどん落ちたら、しまいには木が枯れてしまう。


 これはすぐ王様にお知らせしなければ…!」





 番兵は慌ててお城へ駆けていきました。


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