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番兵と蟻  作者: 中村文音
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番兵と蟻


その日から、蟻は毎日、お午になるとやってきては、ジャム付きのパンくずを一粒貰っていくようになりました。





「どうだい、わしのかみさんの拵えたジャムはうまいだろう」





「ええ、とっても甘くておいしいです。


 それだけじゃない、栄養があるんです。


 その証拠に、昨日は卵が百個もかえったんです。


 それから、女王様が新しい卵をもう百個、お産みになったんですよ」





「そうかい、大家族になったじゃないか」





「ええ、本当、にぎやかになって嬉しいです。


 巣も、どんどん広げているんですよ。


 兵隊さんのジャムをひと舐めするとね、みんな元気が出て、今までの何倍も働けるっていうんです」


 


「そうかい、そうかい」





 番兵は、おいしいお午と一緒に、蟻とのおしゃべりも楽しみにして心待ちにするようになりました。







 ところが、ある日のことです。


 番兵は、やってきた蟻に言いました。





「すまんなあ。今日からしばらく、ジャムは食べられそうにないんだ」





 ちぎって差し出したのは、甘いジャムではなく、しょっぱいバタ付きのパンでした。


 蟻はちょっとがっかりしたように見えましたが、すぐに元気を取り直して言いました。





「おいしそうじゃないですか。


 たまには気分を変えるのもいいですよね」





「…うん、そうだな。そう考えるのも、いいな」





 番兵は景気をつけるように勢いよく言いましたが、その声にはなんだか本当の元気がないようでした。


 そしてそれっきり、ジャム付きのパンのお午は食べられなくなってしまったのです。







 そんなある日、気のなさそうにバタ付きのパンをむしっていた番兵は、ふと蟻に話し出しました。





「蟻よ、すまんなあ。


 …実は、かみさんが寝付いてしまってなあ…。


 医者にも診せたんだが、どうも、はかばかしくないのだ。


 幾瓶もあったジャムも、とうに切れてしまったし、当分、かみさんのジャムは食べられそうにないんだ。


 かみさんは、故郷に帰って養生したいとしきりに言うのだよ。


 しかし、それは難しくてなあ。


 わしも、そうさせてやりたいのはやまやまなんだが、仕事が仕事だから」





 番兵と奥さんの故郷は、とても遠いところにありました。


 そこへ行くには、幾つもの山や川を越えて行かねばなりません。


 番兵が奥さんを送り届けて帰ってくるには、時間がかかりすぎるのでした。


 けれども故郷はいつも涼しい風が吹き、ひんやりときれいな川が流れ、何より静かで、病気を治すにはもってこいの場所なのです。


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