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番兵と蟻  作者: 中村文音
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番兵と蟻


年一回、王様の一の家来が兵隊たちに守られてやってきて、丁寧に木の実をもいでいきます。


 番兵の仕事は、それまで大切な木の実が盗まれないよう見張りをすることでした。


 ただそれだけのことでしたが、毎日ともなると、結構大変なのです。





 実が付くためには花が咲いて実を結ぶ必要がありますから、花が摘まれないようにも注意しなければなりません。


 けれども、この実のことは、この国でも周りの国でも、民は誰一人知りませんでしたし、外国の王様たちは、この国に来たからこそ口に入るたった一切れの果物で十分満足していましたから、盗人が来たことなど、ただの一度もなかったのです。





 それでも、万が一に備えて、番兵はすべての神経を集中させて一日中立っていなくてはなりません。


 のどかで暇で退屈な中を、あらゆる敵を想定して緊張を保って見張り続けるのは、毎日ともなるとなかなか厳しいのでした。





 時折、番兵は、木を大切にして、より多くの実がなるよう研究したらどうか、落ちた実から種を採って別の木を育ててみたらよいのではないか、と考えたりしましたが、自分の仕事はあくまで木の実が盗まれないよう見張ることであって、そのような進言をするような立場ではありません。


 番兵は身の程を十分わきまえておりましたので、心に湧くそのような考えを誰にも言ったことはありませんでした。





 


 けれども、一日のうちで、ほんの少しほっと一息つける時間がありました。


 おひるをいただくときでした。





 番兵のお午のお弁当は、いつも奥さんの焼いたコッペパンでした。


 質素な食事でしたが、甘い物の大好きな番兵のために、いつも手作りのジャムがたっぷりはさんでありました。


 それから、水筒に入った香りのよいお茶が添えられておりました。


 辺りに注意を払いながらジャム付きのパンをほおばるとき、番兵はいつも緊張がほぐれて体の疲れが癒されるのを感じました。





 春には苺、夏には夏みかん、秋になるといちじく、冬にはりんごのジャムを奥さんは煮てくれて、それらはどれもいい匂いがして鮮やかな色をしていて、まるで季節をそのまま食べているかのようにさわやかなのです。


 ふくよかな味のまろやかな舌ざわりのジャムのおいしさは口中に広がって、飲み込むたびに涼やかな風が鼻に抜けるのでした。





 まったく番兵がいつも怠りなく仕事に励めるのは、この甘いジャムのおかげでした。


 宝石のような苺の色、夏みかんのほろ苦さ、いちじくの、歯の間でぷちぷちとはじける楽しさ、細かく刻んだ生姜入りのりんごは、暖炉の火にあたったように、番兵の冷え切った体を芯から温めてくれました。





 奥さんのジャムを味わうとき、厳しい任務を果たす番兵の心は鎮まって安らかになりました。


 まったくジャムは番兵の元気の素だったのです。


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