007.クインの日常①
私の名前は『クイン』、主に頂いたとても素敵な名前だ。主は今、故郷の村を出て王都とか言うところへ遊びに来ているらしい。
最初私を置いていこうとしたけど、離れたくなくてずっとしがみついていたら連れて行ってくれることになった。
ただ、王都内で私が主の肩に乗るのは駄目らしく、基本的には主が創ってくれた空間の中で待機している。・・・だけど全くと言っていいほど苦ではない。むしろ、主の魔力に満ちあふれていてとても居心地がいいくらいだ。
それでもやっぱり主に会えないのは寂しい、早く主に会いたいなぁ。
って考えていたら、主が私をあるところへと連れてきてくれた。今まで来たことは無かったけど存在は知っている。ここは迷宮だ。主の創ってくれた亜空間の中ではなぜか外界の様子が分かるから、判断できたことだけど。
「おいで、クイン」
あっ、主だ!久しぶりです主!迷宮へ連れてきてくれてありがとうございます!
アザレ霊山と同等かそれ以上に魔力に満ちているこの場所は私にとってとても居心地がいい場所だ。
「クイン、俺は下へ行くけどどうする?」
えぇっ!私も主と共に行きたいけど、久しぶりに思う存分飛び回りたいし・・・。今回は久しぶりの草原を楽しませてもらおうかな!
「クイン、一般の冒険者もいるから気をつけてな?一応従魔とわかるようにバンダナを巻いていくね」
わぁ!とっても可愛いバンダナです!ありがとうございます主!
よーし行くぞ!あっ、あっちにはグラスビーがいるみたいだ。・・・そういえば最近主に蜂蜜を届けてあげられてないな。
この辺の魔物を配下にして、普通の蜂も配下に出来れば蜂蜜作れるかも!
ちょっと頑張ってみようかな。楽しみに待っててくださいね!
※※※以降、魔物の声が「」で反映※※※
さて、主も次の階層へと行ったし、私も久しぶりに暴れて回ろう。若気の至りとは言え、『アザレ霊山の暴れ蜂』と言われた頃の血が騒ぐなぁ。
ふらふらとグラスビーのところへ行くと、呼び止められてしまった。
「何者だ!!ここはグライシス様の縄張りだぞ!お前はどこの群れの蜂だ?見ない個体だな」
この子は兵隊蜂のようね。忠誠心はかなりしっかりしているようだけど、レベルはまだまだ。私だったらもっと個体としてもレベルを上げさせるのに。
「私はクイン。至高の主の従魔よ」
「従魔だ~?クソみたいな人間に恭順しているような弱っちいの蜂だったのかよ。もしかしてさっき通って行ったクソガキの従魔か~?」
ピキッ
「・・・あ゛ぁ?私の主のことをクソって言ったのかゲロ虫ごときが。・・・仕方有りません、色々と教育して差し上げましょう」
全く、主の素晴らしさが分からないなんて本当に嘆かわしい。同じ蜂系魔物として恥ずかしい限りです。とりあえずこの能なしには、魔石の随まで主の素晴らしさを教えてやらねば。
・・・・映像が乱れております。少々お待ちください・・・・
「ず、ずびばぜんでしだ・・・」
「私の主の素晴らしさは理解して貰えたかしら?」
「もぢろんでず・・・」
ふふっ、主の素晴らしさをこの調子で布教しなければ!ここのグラスビーは心が荒んでいるから、救いが必要なのよ。私の主は最高の主だもの。
「さっ、他のグラスビーの救済へ行くわよ」
そういえばさっきグライシスとかいうやつがこの辺を牛耳っているって言ってたわね。さくっと倒せばここら一帯は私の支配下に入るってことだから、きっと主が喜んでくれる!うふふ、早く褒めて欲しいなぁ~!
この辺のひと際大きい巣の中に他の個体よりやや大きいグラスビーが見える。
あれがグライシスとか言うやつね。
「あー?お前誰だ。・・・いい女だな。俺の物になれよ」
「ここのゲロ虫どもは全員教育が必要そうね・・・。私は主の物だというのに」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ!お前ら、あいつを捕まえて俺の前に連れてこい!」
ほんと、嘆かわしい。
・・・・再び映像が乱れております。少々お待ちください・・・・
「「「ず、ずびばぜんでしだ・・・ゆるじでぐださい」」」
ふふふっ、案外呆気ないものね。これなら霊山に住んでいた魔物の方が骨があったもの。
でもこれからは私が育て上げて最強の軍団にしてあげなければ。幸い、主は今後も迷宮に来る気みたいだし、その都度管理してあげなきゃ。
「それにしてもあなた達の女王はどこにいるの?」
不思議だったのは、グラスビーとは言え女王がいるはずなのに、どこを探しても見つからない。
「この辺はたまにですが冒険者が来ます・・・。そのとき俺らが守りきれず・・・」
「そうなの・・・。でも迷宮なら新たな女王が生まれるのではなくて?」
「俺らも分かりませんが、恐らく一定以上の数が減ったら再度召喚される仕組みみたいだ…です」
なるほど、だからここ最近はずっと女王が不在だと。そのせいで教育が行き届いてないのね。
「私が今日からあんたたちの女王になってあげるわ。私の主のために働くなら、あなたたちを強くしてあげるわよ?・・・まぁ、拒否権は無いのだけれど」
「・・・俺たち魔物の基本的な本能は強いやつに従うことだ…です。クイン様ほど強いなら、こちらから頼みたいくらい…です。ただ、その主様とやらには実際に会ってみないことには・・・」
ちっ。主に会わなければその素晴らしさも理解できないなんて。仕方ないか。
「あとで主が私を迎えに来るからそのときにあなたたちも着いてきなさい」
「「「「はい!」」」」
じゃあ早速訓練でもしましょうか!
・・・・・・・・
よし、だいぶ隊列の組み方や魔物への攻撃の仕方が完成してきたわね。この調子で訓練すれば、この階層ではすぐに敵がいなくなるだろう。
あとはどんどん蜂蜜を集めさせるための蜂を使役すれば、主にも喜んで貰える!!
「クイン様!人間の子供が一人で草原を歩いていますが、いかがいたしましょう!」
人間の子供ってことはきっと主ね。迷宮を一人で歩き回るような人は、きっと世界広しと言えど主しかいないもの。
「みんなに主を紹介するわ!後ろに着いてきて!」
あぁ、主!漂うオーラがまた一層強くなっていますね。きっとまたレベルを上げられたのでしょう。
ってまずい!あれはきっと主の【アクアランス】だ!あの子達に私が追われていると勘違いされたんだ!・・・私のことを想ってくれているのは嬉しいけれど、それではみんな死んでしまう!
主、違うのとまって~!
『クイン、そいつらどうしたんだ?』
主!この子たちは私の新しい配下です!攻撃しては駄目ですよ!
『クイン、今日は帰るよ。また連れて来てあげるからね』
あ、もう帰られるのですね!かしこまりました!
あの子たちも一瞬でアクアランスが何本も生成されたのを見れたし、主の偉大さが理解できただろう。
「じゃあみんな、さっき伝えた通り訓練して他の魔物を倒してレベルを上げておくように!あとは蜂蜜を集めておくのよ!」
「「「「はい!」」」」
ふふふっ、やっぱり主の肩は落ち着くなぁ。心なしかいい匂いがするし。
主は頭を擦りつけるように甘えると、優しく頭を撫でてくれる。昔は霊山でブイブイ言わせた私だったけど、主の前では私もただの魔物になってしまうな。
グラスビー達に頼んでおいた蜂蜜が出来上がれば、きっとたくさん褒めてくれるだろう。早くそのときが来てほしいものだ。
「ふふふっ、今日は一段と甘えん坊だな~。よしよし」
うふふ、大好きですよ主!
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