004.奴隷の休日①
本編に1話だけあった閑話をこっちに移動させました。
内容は変わっていませんのでご注意ください。
「今日は特にやることはない。強いて言うなら休日だ。お小遣いをあげるから2人で遊んでくるといい」
愛しのご主人様から伝えられたのは、奴隷の身分としては考えられないようなことだ。
奴隷に休日?しかもお小遣いまでくれるなんて!こんなに最高のご主人様に会えるなんて、私はなんて運がいいんだろう!
「お小遣いまで頂けるなんて、ご主人様に買われてヨミは幸せです」
スラスラと自然に言葉がでる。何年も奴隷商にいたせいか、奴隷としての作法はカスツール様に叩き込まれた。それでも、今出た言葉は本心だ。
「とりあえず2人に金貨5枚ずつ渡すね。冒険者ギルドの登録のときに渡したのも使っていいから」
しかも1人金貨5枚ももらえるらしい。嬉しいが流石に多すぎだし、冒険者登録するときのお金は金貨9枚残っている。登録料は1人分銀貨5枚だったからだ
過保護だけど優しくて温かいご主人様。まだ10歳だけどもう少ししたらもっとカッコよくなるだろう。
私ももっと女に磨きをかけなきゃ!!
ご主人様に買ってもらった服から、可愛い服を選ぶ。
露出が多い服もあるけど、それはご主人様と出かけるときに着て、見せつけてあげるんだから。
とは言っても、短剣などの自衛できる装備は忘れない。自信過剰かもしれないけど私たちは可愛いからね。
「ねぇルナ。とりあえずどこに行く?」
「うーん、そう言われると思いつかないけど、さっきご主人様が明日服買ってくれるって言ってたし、その下見に行くってのはどう?」
「それいいわね!前回は時間かけすぎてご主人様に迷惑かけちゃったし」
最初に向かったのは以前行った服屋。名前は確か『ニトル』だったかな?変な名前なのに服は可愛いんだよね。
『ニトル』ではなにも買わないのに気づけばお昼時になっていた。
店員さんももはや私たちにはなにも言ってこない。うふふ、前回いっぱい買ったから大目に見てくれてるのかな?
時間もお昼だったし、ちょうど『ニトル』の店員に最近流行りの店を聞いたので『黒猫の尻尾亭』というところに行くことにした。
そこではベーコンを使った料理も提供されていて、確かに美味しかった。
ご主人様の作る料理を食べる前なら、毎日でも通っただろう。
「それにしてもヨミ、なんか風邪引いてる人多いね」
「ここ数年はなんだか冬が異常に寒いものね。ご主人様の家は魔法や薪ストーブで暖かいから風邪ひくこともなくて分からなかったけど、咳している人多いわね」
ご飯を食べながらもせき込んでいる人もいる。店内の1/3くらいは咳込んでいるいるんじゃないかな?
自分がどれだけいい環境で過ごせているか改めて実感した。
「私たちって、本当に幸せよね。ルナはどう思う?」
「本当に幸せだよ。美味しいごはん、可愛い服、休日までもらえてお小遣いももらえる。ご主人様にも、そして奴隷仲間にも恵まれたと思う」
ルナはたまに恥ずかしいことをサラっというから困る。すごく嬉しいけど、ちょっとは恥ずかしがってよね。
「うふふ、これからもよろしくね?けど、ご主人様は渡さないから」
こんな軽口を言い合える最高の仲間だ。
「ヨミはこのあとどこか行きたいところある?」
「うーん、王都はあんまりよく知らないから、適当にぶらつくのもありかしら」
「じゃあそうしましょ!露店とかみて可愛いアクセサリーとか探すのもいいね!」
ルナは本当に可愛い。銀髪の髪に白っぽい瞳。それに肌は真っ白で奇麗だしスタイルもいい。・・・ちょっと妬ましいわね。
うふふ、でも絶対に負けないわよルナ!
王都のいろんな露店が集まっている市場を訪れた。冬だというのにみんなほんとに逞しい。
ん?あれって。
「ねぇ、ルナ!あれ!」
私が見つけたのは1つの指輪と2つのピアス。
「あれがどうかしたの?」
「知らないの?あれは伝声の魔道具と呼ばれる物よ。指輪をはめた人が魔力を込めて指輪に話しかけるとその人の声がピアスを付けた人に届くの。昔仕事してたときに一回だけ使ったことがあるから間違いないわ!」
「ふぅん。確かにそれはすごいけど・・・ってことはいつでもご主人様の声が聞けるってこと?」
「そうゆうことよ」
「欲しいけど、買えないね。金貨50枚だもん」
たしかに2人のお小遣いを足しても全然足りない。諦めるしかないか……。
「おい、姉ちゃんたち2人か?俺たちもちょうど2人でで暇してたところなんだよ。いいことしないか?…ってこいつら奴隷じゃねえか!奴隷置いてどっかに行くご主人様なんてほっといて俺たちについてこいよ!」
ゲスでかなり不細工な男たち2人が絡んできたが、私達が奴隷だと分かると余計に高圧的な態度になった。
「あの子たち2人かわいそうに…」「あぁ、この辺を牛耳ってる組織のやつらだろ?」「しっ、あいつらに聞こえるわよ…」
ふぅん。どうやらこの辺を牛耳ってるとかいう組織の構成員かなんかなのだろう。
!ぴこーん!閃いた!
「ねぇ、ルナ。私達で世直ししちゃいましょうか」
「こいつらをすり潰すってこと?」
言い方が怖いよルナ。そういうことなんだけどさ!
「そういうこと。それにこいつら潰せばお金いっぱい手に入りそうだし!」
「ご主人様に迷惑がかからないかな…?」
「完璧に潰せば大丈夫だよ!」
「うーん…」
「あの魔道具も買えるかもよ?」
「うん!さっさとすり潰そう!」
「なにごちゃごちゃ言ってんだオラ!奴隷は俺たちの言うこと聞いてりゃいいんだよ!!」
「俺はあっちの銀髪がいいな!」
「じゃあ、俺はそっちの色気のすごい女だ!」
もう既に私達を好きにできると思い込んでいるようだ。……本当に穢らわしい。
「誰があんた達程度についていくのよ。ご主人様以外に触られるのも嫌だわ」
「んだと?!奴隷の分際で調子に乗りやがって!俺らのアジトでお前らに本当の男ってやつを教えてやるよ!」
はぁ、仕方ないわね。魔法は使わないであげる。けど、手加減はしないからね。
ものの数秒で決着はついてしまった。ご主人様に鍛えられた私たちは予想よりも強いみたいだ。
「ゆ、ゆるひてくだひゃい…おねがいひまふ」
顔をぼこぼこにし過ぎたかしら?けれどさっきよりはマシな面になったわよね?
ルナのほうも手加減はほとんどしてないようだ。
「あなたたちの親分のところへ案内しなさい」
「うふふ、早くしないと不能にするわよ?」
「こっこちらでふ!!」
連れてこられたのは一見普通の商会。名前は『アクトーク商会』と言うらしい。
「ぼ、ボシュ!ボシュはいまふか!」
全然喋れていないわね。次からは顔はある程度にしないとだめね。
「なんだ騒々しい、お前なんて顔してるんだ。前よりイケてるんじゃないか?」
「あなたがここらを牛耳っているという親玉ね?」
「あん?なんだお前たちは」
「そこの不細工に手を出されそうになったから返り討ちにしたものよ」
「なんだと?いくら出来の悪い部下といっても、部下は部下だ。この落とし前どうつけるつもりだ?」
「何を言っているの?私たちが被害者なのよ?」
「お前らは奴隷だろうが。奴隷と俺、どっちが信じると思う?それに俺はこの辺の衛兵とは仲が良くてな」
にやにやと気持ちの悪い顔でこちらを見てくるので、本当に不快な気持ちになる。早くご主人様に癒されたい。
「お前らが体で返すというのなら、目を瞑ってやってもいいけどなぁ?」
あぁ、こいつあってのあの部下だってわけね。本当に救いようのない・・・。
「ねぇヨミ、さっさとすり潰しちゃおうよ」
「そうね・・・。いや、待って。もっといい考えがあるわ」
2時間後。
そこにはさっきまでのボスの姿は無かった。
「あぁ!!ヨミの姉御!もっと私を蹴ってください!あひぃ!」
変態の出来上がりである。もちろん部下たちを全員呼び出して、きっちりと調教した。
「いいこと?私たちがご主人様と一緒にいるときは関わってこないこと。話しかけるのも無しよ。いいわね?」
『はい!!承知しましたヨミの姉御!!』
「あと、また悪さしてたら絶対に許さないから。今日からは真っ当に商売をしなさい」
『はい!!承知しましたルナの姉御!!』
「じゃあ、さっきの迷惑料として金貨50枚頂いていくわね?また機会があったら蹴ってあげるわ」
王都に『ルナ&ヨミ親衛隊』が完成した瞬間だった。
そしてこの日を境に『アクトーク商会』という名前を『ナルミヨ商会』と変更したのだった。
市場に戻ると沢山の人が集まってきた。
「あんた達!あのアクトーク商会を懲らしめてくれたんだって?!ありがとう!ありがとう!私たちは今まで散々あいつらに好き放題やられて困ってたんだよ!これはほんの礼さ!受け取っておくれ」
たくさんの野菜が入った袋をもらってしまった。そのあとも何人もの人達が食材をくれるので、ありがたくもらうことにした。
「すごい貰っちゃったね」
「うふふ、でも喜んでもらえてよかったわね。あ、そうだ、早く伝声の魔道具買いにいきましょ」
「ヨミ!まだ残ってたよ!」
「伝声の魔道具買えたわね。ご主人様喜んでくれるかしら?」
「絶対喜ぶよ!だってご主人様だもん!」
そうよね。最高のご主人様だものね。
「さて、時間はまだあるけどどうする?」
「冒険者ギルドにでも行ってみない?クエストがどんなのあるかみてみたい!」
ルナは冒険者ギルドに行ってみたいのか。今日は外套着てないけど大丈夫かな??
「そーっと行って、見たら帰るから!ね?」
「仕方ないわね〜。ちょっとだけよ?」
「うんうん!」
たまにルナは子供っぽいところがあるが、彼女はまだ15になったばかりだもんね。まぁ、私も16なんだけど。
「やっぱり何度見ても冒険者ギルドって大きいね」
「うふふ、そうね。ルナったらくちあいてるわよ?」
さてと、掲示板はっと。
「お前ら見ない顔だな。新人か?」
「ええそうよ」
「おいおい!ずいぶん可愛い新人冒険者さんじゃねぇか!そんな細っこい腕でなにを倒すってんだ?」
「よく見たら奴隷じゃねえか!こんなヒョロっこい奴隷に冒険させる主人なんてろくなもんじゃないんだろうなぁ!」
「「「ギャハハハハハ」」」
酒を飲んで酔っているであろう冒険者達に絡まれた。適当に流しておくのが正解なのだろうが、聞き捨てならない言葉をこいつらは言った。
「ご主人様が、なんですって?」
「あ〜?聞こえなかったのか?お前らみたいにヒョロっこい奴隷に頼るような主人はさぞショボイんだろうなって言ったんだよ!」
私達のことを言われるならまだ笑って許してやれた。けど、こいつはご主人様を侮辱したのだ。
「「表へ出ろや三下が!!!」」
呆気にとられたのか静まり返る冒険者ギルド。しかし、すぐに爆発的な盛り上がりを見せる。
「三下ってのは俺のことか?舐められたままにはしておけねぇ!いいぜ、やってやる!」
「冒険者ってのを教えてやれドノバン!」「いいぞやれやれー!!」「ヒューヒュー!」
「さっきご主人様を笑った奴も纏めて相手してやる!逃げずに出てこいよ!」
ルナの口調が男っぽくなっているのは気のせいじゃないだろう。でも、それくらいに怒っているということなのだ。
冒険者ギルドにさすがに表はやめてくれと頼まれたので、冒険者ギルドの訓練場を貸してもらうことになった。
「ルールは簡単だ。参ったと言った方が負けだ。もしくは気絶でもいいぞ」
「いいだろう」
ルナがかっこいいよ〜!!私も負けてられないな!
「それで、負けた方は勝った方の言うことを聞く。これでどうだ?」
「いいだろう。そっちは全員でかかってきてもいいぞ?」
ちょっと待ってルナ!それって事実上なんでもアリってことよ?!まぁ、負ける気はさらさら無いんだけど。
「へへっ、威勢のいい嬢ちゃんだ。あとでたっぷり奉仕させてやるぜ」
ギルド『勝負の判定はギルド側が責任をもたせてもらいます。では、はじめ!』
「行くぞおらぁあああああ!!!!」
ルナと私で無詠唱で魔法を展開。殺傷性の低い水魔法だ。
ウォーターフォール!
サンダーレイ!
示し合わせたかのように魔法を使えるのは、ひとえにご主人様によって鍛えられた私達だからできることだろう。
大量の水に飲み込まれ、身動きもままならない相手に対して雷が炸裂する。
さらに私たちは魔法を展開する。
ルナは雷魔法、私は土魔法だ。
ウォーターフォールの水がこちらに来ないようにアースウォールで壁を作り出す。ルナのサンダーボルトを大量の水の中にたたき込む。
下手したらこれで、勝負がついてるだろうがまだ審判は判定を告げない。・・・よくみると審判はポカンとした顔をしているので、攻撃するなら今のうちだろう。
「とどめは任せたわよルナ」
「任せてヨミ。雷魔法"サンダーレイン"!」
さっきまであった大量の水がどんどん蒸発していく。水が完全に蒸発するころにはドノバン含む冒険者4人は、雷によって完全に気絶していた。
ギルド『しょ、勝負あり!!勝者ルナ、ヨミチーム!』
「当たり前よ。ご主人様の薫陶を受けた私達が負けるはずないじゃない!」
ギルド『えーっと、敗者になにを望みますか?』
「ルナ、どうする?」
「所持品の全てを貰います。そうすれば当分悪さはできないでしょ?お金は少しだけ残してあげてもいいかな。金貨1枚だけね」
『わかりました。ドノバンたちが起き次第伝えておきますので、あちらでお待ち下さい』
「救護班いそいで!!!」なんて聞こえるけど殺してはいない。ギリギリを責めたかもしれないけど。
待つこと30分でドノバンたちが起きたらしく、大人しく所持品を出したそうだ。
お金は結構持っていたようで、金貨245枚の稼ぎになった。
ギルド『それにしてもお2人は強いんですね!ドノバンさんたちはあんなんでも一応Cランクの冒険者なんですよ?』
「そうだったんですか。だからそこそこお金を持っていたんですね。ではそろそろ時間ですので私たちは帰ります」
この日、冒険者ギルドに二つ名持ちの新人冒険者が誕生した。
『水艶のヨミ』と『銀雷のルナ』。
ルナとヨミは他にも属性を使ったのだが、印象の強い属性による二つ名がつけられた。
また2人とも美しいことから、『双姫』とも呼ばれ、裏では『双鬼』と恐れられることとなった。
この2人が二つ名を知るのは、もう少し後の話である。
「おかえり2人とも。凄い荷物だけど、全部買ったの?」
「ええっと、話せば長くなるんですが、簡単に言うと貰いました」
「たくさん貢いでもらいました。あ、もちろんご主人様一筋なので安心してくださいね?」
こうして私たちの休日は幕を閉じた。
たまに更新します。
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