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025.それ行け、ランドルフ辺境伯!④


「いや、急に来て悪いね……」


「いえ、それは構いませんが……今日はどうされたのですか? 何か元気がないみたいですけど」




 時は少し遡る。




 アウル宅をノックすると、当たり前のようにメイドが対応してきた。辺境の田舎であるはずの場所でだ。これが噂に聞いているメイド部隊というやつなのだろう。全員が全員美人ぞろいで、しかも明らかに高価とわかるメイド服を着ていた。


 名前は分からないが、全員の所作は王城勤務のメイドと遜色ないレベル――いや、正直に言えばそれよりも上に感じた。我が家のメイドたちを鍛えるために出向してもらえないか聞いてみるか本当に悩むな。


 そのハイスペックなメイドに連れられて応接室へと通されたのだが、応接室か。建物の面構えからしてあるとは思っていたが、当たり前のように応接室が用意されているとは驚きだな。ここがここら一帯を治めている代官の邸宅と言われても信じてしまいそうだ。


 さすがに調度品までは気を配っていないのか、壺や絵画なとは置かれていない。ここには少し安心した――のも束の間。


「領主様、あれを見てください。一見すると、調度品のように適当に置かれているように見えるあれらですが、あの壁に掛けられているどでかい角――ホーンキマイラじゃないですか? 一部のようですが」


「……うむ、そんな気がするな」


 報告書で見た絵と全く同じ様相をしているな。いや、素材として使わずにこんなところに飾っておくなど何を考えているのだ?


「それに今気が付きましたが、この下に敷いてある毛皮。おそらくですが暗殺熊のものですよ。信じられますか? あの熊の毛皮一枚傷なしでとなるとどれほどするのか……考えたくもないですね」


「う、うむ……」


 これ、下手したら私の屋敷の調度品何て足元にも及ばない可能性があるぞ。いくら従者――奥方?――がAランク冒険者だからといっても、これは少し……いや、かなりやり過ぎだ。こんなにも贅沢な調度品が未だかつてあっただろうか。


 もう考えなくても分かることかもしれないが、レブラント商会躍進に貢献したのは間違いなくアウル一行――というよりアウルであるのは明白だ。そこにどんな契約があるのかは知らないが、この屋敷や調度品を見る限りかなり潤っているのは伝わってくる。


 さらにはあのメイド達。いったいいくら積めばあれほどのクオリティで雇うということができるというのだ。これも潤沢な資金があってこそなのだろうが――もしかして、アウルがメイド達を鍛えているとか? だとしたら、我が家のメイドをここに出向させた方が効率がいい気がする。


 いや待て待て。下手にアウル宅での食事を経験しては、出向したまま戻ってこないなんてこともあり得るのか。もうやだ、考えれば考えるほどアウルたちが有能過ぎるんだけど。



「領主様、今しばらく威厳あるお顔をなさってください。と言っても、お気持ちはわかりますが……」


「……もうアウルが領主じゃダメなのか?」


「それは思っても言ってはいけません。仮に、アウル様の方が資金的に優れていても、です」


 あぁ、やはりアウルの方がランドルフ辺境伯家よりも資金的に余裕があるのか……。知りたくない事実だったな。我が領の財政トップは、ここに赴くにあたり、ある程度アウルたちの財政状況を調べてきたのだろう。


 総資金的に言えば我が家のほうが多いかもしれないが、そこから使える資金というところを比較すると、我が家よりもアウルたちに軍配が上がるのだろう。あいつらは言っても平民。しかも、税金はとある依頼達成のせいで王家によってオーネン村自体から免除されている。


 これは……なんの不具合(バグ)だ。考えたくない。くそ、こんなつもりじゃなかったのだ。本当はアウルたちに会って盗賊の話をして、それとなく潰してもらうだけのはずだったのに……なぜこんな気持ちにならねばならんのだ!!



「すみません、お待たせしました」




 ということで冒頭に繋がるのだ。




「なに、最近人口増加が著しいというから視察に来たのだよ」


「あぁ、そういうことだったのですね」



 アウルとその後ろにいつもの従者が2人――水艶と銀雷――がおり、さらにその後ろにはタキシードに身を包んだ初老を迎えたであろう男性執事が立っていた。見ればわかる、あの執事はうちのジモンよりも圧倒的に全てが上だ。


 持っている雰囲気、気配。眼光、どれをとっても超一流のそれ。私でさえも気圧されるほどの雰囲気を持つ執事など、それはもはや卑怯ではないか。なぜアウルのもとにはこんなにも優秀で有能な人材が揃っているのだ。あいつはここに国でも作るつもりか?


 

「いろいろと来るまでに見せてもらったが――いろいろと常識はずれなことをしているらしいな?」


 ちょっとした嫌味を――嫌味にすらなっていないかもしれないが、ストレートに伝えてしまった。


「そうですか? ……あぁ、あのライオン型ゴーレムとスコーピオン型ゴーレムですね。確かにあれは少しやり過ぎたかもしれません」



「そうだn――んん?」


 ライオン型ゴーレムとスコーピオン型ゴーレム、というのは初耳だぞ。ゴーレムと言えば人型ではないのか? いったいどんな見た目をしているかは分からんが、そんな凶悪なゴーレムがいるとは聞いていないぞ!?


「あとはこの村限定でベーコンが安く買えることですよね。でも、それが契約でお願いした条件なので、こればっかりは仕方ないんです。村の人たちには美味しいものを安く食べてほしくって」


 よし、アウルに無理を言って私も安く大量に買って帰るとしよう。あれは炙ると酒のつまみに最適だからな。



「うぉっほん! ひとまずその件は良い。こちらとしても、領内が活気づくのはいいことなのでな。時に、最近領内に盗賊団が侵入したらしいが、知っているか?」



「盗賊団ですか……アルフ、知ってる?」


 アウルはあまり把握していない、ということか。それをあの執事に確認したということは、そのへんの情報収集一括を管理しているとみていいのかもしれんな。



「盗賊団、と言いますと『残月の朧』とかいう盗賊団でしょうか?」


「そう、それだ」


「であれば把握しておりますよ。卑しくも主様の故郷であるここを襲撃しようと聞き及びましたので、すでに手は打っております」


「そ、そうなのか?」



 すでに手を打っている……つまり、かなり早い段階から情報を察知していたということだ。下手をすれば我が家が持つ情報網よりも凄い何かをもっているというのか?


「ええ、と言っても大した規模ではないので、明日にでも片付くでしょう」



 執事が言うには、明日には全てが終わっていると。頼もしいの一言に尽きるが――これでは私が何しに来たか分からないではないか。


「アルフ、そんなことしてたんだ。ちなみに、誰が対応しているの?」


「もちろん、アセナ1人に任せております。黒幕の対処にはルリリエルチームを向かわせております。こちらも、うまくいけば明後日には片付くかと。もちろん、きちんと足が付かないように配慮しております」


「そうなんだ。なんだか、俺の知らないところでそんなことになってたんだね」


「いえ、主様の手を煩わせるほどでもありません。それに、こういう件はヨミ様とルナ様には報告しておりますので」


「じゃあ大丈夫だね」




 さらっと終わったように言っているが、残月の朧は規模としては最大級と言ってもいいくらいには大きい組織だ。その組織壊滅を1人に任せているだと? 普通であれば冗談にしても笑えないものだが、アウルたちは至って真面目な顔をしている。


 冗談――ではないのであろう。となりの我が家の財政担当はすでに遠い眼をしている。いや、気持ちはわかるぞ。私もいますぐ全てを諦めてしまいたい。



「ということなので、なんかうちの仲間がなんか対応してくれているらしいので、心配ないそうです」


「そ、そのようだな。ちなみに、その報告を聞けるまでここに滞在してもよいだろうか? 我が家もそのことで苦慮しておったのでな」


「大丈夫ですよ」



 そんなこんなで、私の心配事はあっけない形で終わりを迎えたのだ。



















 ん……? 黒幕の対処?

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― 新着の感想 ―
[一言] 残月の朧 アセナとルリリエルチームの活躍は本編なのか、外伝なのかw
[一言] やったね辺境伯!厄介事が片付くよ!(片付くとは言っていない)
[一言] 村を発展させすぎだから アウルの子供と辺境伯の後を継がない子供を 結婚させる事すら視野に入れないとアカン状況よねえ そうでもしないと変なお見合い攻勢にさらされるやろ 子供、孫辺りは。アウルに…
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