023.それ行け、ランドルフ辺境伯!②
「旦那様、問題が発生しました」
ジモンが持ってきた報告は、とても嬉しくない内容だった。
「……何があった?」
「領内に大型の盗賊団が入り込んだとのことです。それも、二つ隣の領であるスクウェナウィ子爵様の領地からのようです」
スクウェナウィ子爵……私のことを良く思っていない貴族家の一つだな。我が領に入り込んでいる私兵もそうではないかと思っていたが、これでほぼ確定だな。あとは証拠をつかむだけだが――
「その盗賊団の名前は?」
「【残月の朧】と呼ばれている、最近巷を賑わせている盗賊団ですね。判明しているだけでも、構成員はゆうに300を超えているとか」
残月の朧。もちろん知っている。頭領がかなり頭のキレる奴で、金次第では傭兵稼業のようなこともやると噂の後ろ暗い集団だ。性格は残忍で狡猾、略奪や殺人などなんでもござれ。戦闘もできて頭も働くとあって、かなり厄介な連中である。
なにが一番面倒かというと、一部の貴族と繋がりが深いため消すに消しきれないというのが腹立たしい。国王もこの件は把握しているだろうが、如何せん証拠がないから表立って動くことが出来ないという始末。
本当に頭痛の種だ。
今まではこの領に来たということは無かったから静観していたが、このタイミングで入領してきたということは、十中八九誰かからの差し金だろう。
「そいつらはどこを目指しているのか判明しているか?」
「現在調査中ですが、2チームに分かれて行動しているようです」
2チーム、ね。おそらく領都とオーネン村ではないかと推測できる。が、だからと言って放置はできない。早々に処理しておく必要があるだろう。
「わかった。冒険者ギルドに連絡して討伐依頼を出しておいてくれ。あとは、領内を巡回している騎士たちに情報共有をするんだ」
「かしこまりました」
部屋を出ていったジモンをよそに、これからの行動を考えた。放置しておくと領内はめちゃくちゃにされ、せっかく増えていた領民も出て行ってしまうだろう。さらには、治安も悪化していくのは目に見えている。最近は飢えている領民がいないと聞いていたので、あんなやつらのせいで我が領が荒れるのは我慢ならん。
私のプライド一つでなんとなかなるならば安いものよ。
「情報共有と依頼を出しておくか……。双姫に出せば自ずと動くであろう」
近頃はオーネン村にいるというの把握している。言い方は悪いが、あやつのもつ戦力は国家権力級と言って差し支えない。本来ならば貴族にでも叙爵させて国家のものとしたいところだが、触らぬ神に祟りなし、というのが私や国王、アダムズ公爵家の見解だ。まさに特別措置と言って過言じゃない。
国王も第三王女を宛がって取り込もうとしたり画策していたようだが、うまくいっていないと聞いている。アダムズ公爵家も同様で、同い年の娘を宛がっているらしいがもちろんうまくいっていない。リステニア侯爵はつながりの深い第二騎士団の副団長を送り込もうとしているらしい。
副団長もそれを望んでいるらしいが、国王がせき止めているらしくて未だに副団長のままだとか。さすがに国王がダメと言えば、騎士である副団長がやめることはできないだろう。だが、国内が落ち着けば大丈夫だろう。最近は平和だが、ところどころで問題が発生しているらしく予断を許さない状況だしな。
そういえば砂漠の町の水問題もアウルが解決したんだったか。世間的には勇者が解決したということになっているが、本当は違うのだものな。こんなにも手柄を挙げられては、国としてもアウルに報いねばならんということだ。アウルは自分の村が大好きなようだし、出ていくこともないだろう。
帝国がアウルに接触した時はさすがに焦ったがな。
おっと、思考が逸れたか。
自分の村のある領に、危険な盗賊団がいると聞けばアウルは動くことになるだろう。あやつは冒険者ではないから依頼を出すことはできないが、双姫であれば別だ。指名依頼とすれば断ることもないだろうが、いったいどれほどの報酬を用意しなければならないのやら……。いや、金で安全が買えるならば安いものか。
それに、オーネン村にはあの凶悪なゴーレムがいるし、堅牢な木柵……木壁? があるからそう易々と突破できるはずがない。堀もついていたしな。だが、何事も絶対はない。
どれどれ、手紙を、いやまてよ……。手紙で知らせてもいいが――
「最近はオーネン村に視察に行っていなかったな。子供が生まれたことで引きこもってばかりだったし。うむ、人の出が多い村を視察しておくのも領主の仕事だな」
今日中にやっておかねばならない仕事をそそくさと終わらせ、旅支度をする。まぁ、一週間くらいいければいいだろう。子供たちに会えないのは寂しいが、領の治安確保のためだからな。
この日の夜は子供たちと寝たのは言うまでもない。