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022.それ行け、ランドルフ辺境伯!①


 我が家に待望の子供が生まれた。喜ばしいことに生まれたのは双子で、男の子と女の子だったのだ。双子が生まれる家は幸福が訪れると言われており、2人が無事に生まれたときは屋敷の者総出で喜んだ。


 男児はアリスト、女児はスカーレットと名付けた。双子とは言っても、アリストもスカーレットも顔はあまり似ていないように思う。髪はまだ生えそろっていないが、スカーレットは私に似ていて、アリストはミュールに似ている。


 どちらも可愛い我が子である。


 我が家は辺境伯のため辺境の国防を司る重要な役職を賜っているが、子宝に恵まれず、一部の貴族からは誹謗中傷を受けることもよくあった。ミュールも私もまだ若かったため、まだまだこれからだとは思うようにしていたのだが、それでもやはり焦りというものはある。



「いないいないばぁ~! パパでちゅよ~。 全然一緒にいられなくてごめんね~?」



 どちらも私の子供なので天使のように可愛いのだが、やはりどうしても娘の方が可愛く見えてしまうのは、男親の定めなのかもしれない。時折、執務の合間を縫って子供たちに会いに来ている。


 本当はずっと近くに居たいのだが、そんなことをすればジモンに怒られてしまうため、それができない。

 


「何馬鹿なことを言っているのですか。一時間に一回は来ているではないですか」


 隣でアリストを抱いているミュールから茶々が飛んでくるが、そんなもの知ったことではない。一時間に一回しか会えないの間違いであろう。かく言うミュールは子育てのためといってずっと子供たちと一緒にいる。


 乳母は雇っているし、メイドもたくさんいるのでミュールは産後の体を静養してもいいくらいなのだが、待望の子供ということもあって率先して子育てをしているし、出来る限り自分の乳をのませようとしている。


 あのミュールも顔つきが変わり、今ではすっかりと丸くなった。物理的なものではなく雰囲気的な話だが。産後は肥える者も多いと聞くが、ミュールはそんなことなくいつでも綺麗なままだ。むしろ、乳のせいで乳房が大きくなっているせいで余計に――……おっと、ミュールの視線が。



「この子らのためにも、この領をもっと栄えさせねばならんな」


「ええ。あなたには今まで以上に頑張ってもらわないといけませんね」


「あぁ、大船に乗ったつもりで任せておけ」








 とは言ったものの。実は現在困ったことが領内で起こっている。喜ばしいところから整理すると、アウルの故郷であるオーネン村だが、人口増加が著しいとのことで、どんどん活気づいていると報告を受けている。領内が活気づけば商人の行き来も活発になるため、結果的に税収は上がるし領は発展していく。ゆくゆくは国内でも有数の街になることも可能かもしれない。


 領内が活気づくのは喜ばしいことなのだが、些かそれが問題になりつつあるのが悩みの種でもあるのだがな。


 人口増加するということは、どこかから流れてきているということの証左である。ではどこから流れてきているのかという話なのだが、嘆かわしいことに国内貴族にも愚鈍で貴族以外を家畜程度にしか考えていない輩がいる。


 そういうところは税も重く、民は生きることがギリギリ――いや、口減らしすら起こっている状況だろう。口減らし、すなわち奴隷として売られる結果となることから、それを嫌った民が領内から逃げだしてきているのだ。


 これは実際に流れてきた者たちから聞き取った内容であるため間違いはない。無論、他領の状況を把握しようとした諜報の可能性もあるのだが、そのへんは厳しくチェックしている。全部が全部防げているとは思わないがな。


 それもこれも、全てとは言わないが『アウル』がかかわっている。村を囲む大規模な堀と木柵。いや、木柵とは呼べないくらい立派なものだが。あとはゴーレムと呼ばれる治安部隊がいるおかげで、村内の犯罪率は0であるらしい。決め手は、オーネン村の村人は、レブラント商会が販売するベーコン等が格安で買えるということ。


 オーネン村――もはや村と呼ぶにしては栄え過ぎだが――が発展しているお陰で、噂が噂を呼んでいる状況なのだ。


 あとはレブラント商会が懇意にしている領という話が民に広がっているのも大きい。レブラント商会は今となっては国内有数の大店となっており、その発売する独自の商品、魅惑的な甘味、平民でも買えるくらいに調整された美味な商品の数々。例を挙げればキリがないが、貴族平民問わず絶大な支持を得ている。


 おかげさまで諜報の参入が尋常ではない状況だ。本当に忌々しい。だが、そのレブラント商会を裏で牛耳っているのがまたもや『アウル』なのである。



 これだけアウルが我が領に対して貢献してくれているので、騎士にでもして士官させたいところなのだが、困ったことにアウルの奴隷――従者であるルナとヨミは泣く子も黙るAランク冒険者。そして、アウル本人も救国の英雄とも呼べる、宰相反逆事件解決の立役者。


 これはもう私が入り込む余地など一切ないのである。もはや、アウルが勇者か何かと言われれば信じてしまいそうだ。だが、勇者は教皇がよんだという者がいるらしいので、アウルは勇者ではない。


 まったく、いつの時代も極稀に現れるという英雄がきっとアウルなのだろう。今でもたまにだが、律儀に贈り物を送ってくれるし、私としてもアウルに文句はない。強いて言うならもっと頻繁に贈り物をしてくれということくらいだ。特にゴルゴンゾーラとワイン。あれはレブラント商会でも買えない逸品だからな。



 結果だけ見れば我が領はどんどん発展しているし、人口増加傾向なので景気は良い。他領は場所によっては不景気だと聞くが、それはそれ、これはこれだ。私は悔しくも自領を統治するだけで手いっぱいであるからして、助ける余裕などこれ一切ない。とても悔しく、夜も8時間しか眠れない程だ。


 人口増加は喜ばしいが、それに伴いもちろん治安は悪化する。オーネン村が異常なだけで本来は人口が増えればそれだけ悪人も集まる可能性が高いのだ。それを取り締まるために治安部隊の増設もしているのだが、如何せん他領の私兵と思しき輩が巧妙に悪さをしているせいで後手に回っている。


 妨害工作なので現場を押さえることが出来れば私兵を送ってきた貴族を糾弾することが出来るのだが、そこは貴族の私兵。一筋縄ではいかないのだ。もう、私もアウルに頼んで治安ゴーレムを譲ってもらった方がいいかもしれない。


 いったいどれほど請求されるかは不明だがな。最初はオーネン村から接収することも頭をよぎったが、そんなことをすれば私も悪徳貴族の仲間入りだし、なによりアウルとの繋がりを無くす方が痛手である。



 困ることは他にもある。それは食料の確保だ。急な人口増加とはつまり、畑を持たない人間が増えることを意味する。オーネン村は特別で畑も与えられることがあると聞いたが、普通はそんなことあり得ない。


 最初は自分で耕して収穫が出来るまでは食料の確保などできようはずもない。つまりは領内における食料需要の高騰を意味する。もともと農業の盛んな土地であったため今はまだ大丈夫であるが、これ以上増えるようであれば領内の開墾を急いで進める必要が出てくる。


 他領から大規模に食料を買い込むことも可能だが、出来る限りそれはしたくない。他領の食糧事情もさることながら、これ以上他の貴族家を刺激したくないというのが本心だ。


 だが、いきなり収穫量を増やせと言われても、ランドルフ領の農家たちも困るだろう。



 さて、問題は山積みだ。我が子らのためにも今日も頑張らねば。



 コンコン



「旦那様、問題が発生しました」


 執事であるジモンが私に凶報を告げた。

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[一言] ナニやらかした、アウル(間違った信頼感
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