015.ある日のヨミ
今日はアウル様から一日暇を貰っている。特にやりたいことがあるとかではなく、単純に休暇だ。というのも、ご主人様は学院に行っているしルナは親子水入らずの時間を過ごしている。
アルフ様はアセナを連れてどっかに行っているし、メイド部隊の子たちもそれぞれ冒険者として活動している。家で家事をしていてもいいんだけど、メイド部隊の子たちも持ち回りでやってくれているので、むやみに仕事をとるつもりもない。
「うーん、本当にどうしようかしら」
何気なく王都を歩いていると馴染みの屋台からいろいろと話しかけられた。その中でもひとつ気になる話があった。
「おうヨミさん、今日もえらい別嬪さんだなぁ! ほら、アプル一つもってけ!」
「あら、ありがとうおじ様」
「おう、これからクエストに行くなら気をつけろよ! なんでも、王都の近くに巨大な盗賊団がいるって話だからな!」
「! そうなの? 面白い情報ありがとうおじ様」
これはいいことを聞いた。しかし、少し気になることもある。王都の周りは騎士たちが巡回して危険がないようにされているはずだ。ほかにも冒険者が多くいるはずなのに、誰にも気づかれずにいるというのはおかしな話なのだ。
とはいっても、詳細な話はわからないしギルドに行って確認するのが手っ取り早いだろう。
「オルフェウス盗賊団?」
「あぁ、なんでも帝国のほうから流れてきた盗賊だって話だぜ。俺たちも情報を集めて騎士団に流したりしているんだが、未だに討伐されていない。一応、ギルドとしてもクエストは出しているんだが、如何せん情報が少ない。最低でも100人以上いるって話なんだ。迂闊には動けねぇ。近々人を集めて大々的な作戦立てるつもりだから、できれば銀雷と水艶には参加してほしい」
オルフェウス盗賊団……聞いたことのない名前だ。でも、100人規模ということはかなりの大きさね。
「その必要はないわ」
「……そりゃあ、どういう意味だ?」
「すぐわかるわ」
ギルドで集まった情報は、100人規模の盗賊団で頭領が元騎士のベルフェゴール・オルフェウスという人物だということだった。元騎士がなぜそんなことをしているのかはわからないが、盗賊は生かしておく必要が無い。まぁ、運が良ければ奴隷になるくらいだ。
「一人で行動するのは久しぶりだし、全力で戦ってみようかしら」
いろいろと試したい技もあることだし。
市場で聞き込みをしておおよその位置を割り出す。王都の周辺全体で発生しているように見えるけど、南方面がわりかし多く感じる。逆に北側はあまり目撃情報が無い。
「普通に考えれば南方面にアジトがあるんでしょうね。普通は」
元騎士なのだから頭は悪くないはず。裏をかいて目撃情報が少ないほうにアジトがあっても不思議じゃない。
「うん、予想通りね」
北方向に少し行ったところに、小さめの森と崖がある。そこを探ってみたら、巧妙に隠されていたけど人工的に作られた洞窟があった。気配を探ってみたら全部で113人。
楽しい狩りになりそうね。
次の日、王都には激震が走った。すぐ近くに大物の盗賊団が潜んでいたということもさることながら、その全員が生きたまま捕縛されたということだ。
ある者はずっと恍惚とした顔をしているというが、真実は謎に包まれたままだという。