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013.進め!レブラント商会!②

 オーネン村の親子から綺麗に仕留められた隠密熊を仕入れることが出来た。これは売り方しだいによってはかなりの金になるはずです。普通の冒険者でも狩れないことはないが、ここまで綺麗に狩れるかと言われると難しい。


 剥製にすればかなりの迫力になることは間違いないだろうし、物好きなお貴族様が買ってくれれば金貨300枚超えだって普通にあり得る。


 「ふふふ、地道に行商をすることはや5年……やっと私にもつきがまわってきたということですね」


 この機会を逃す手はない。オークションなどに出せば金貨400枚も夢ではないだろうが、それよりもお貴族様へのパイプつくりに重きを置くのが良いでしょう。


 王都でも魔物の剥製に興味のありそうなお貴族様に売りつけよう。さて、どうやって売るのがいいですかね。



 「今帰りました」


 「お帰りなさい、商会長。今回の行商はいかがでしたか?」


 「かなりの成果がありましたよ。これで、私の商会を大きくすることができるかもしれない」


 「おお! それはよかったです!」


 私が行商に行っている間、店舗を預けているロドスはとても優秀だ。仕事は真面目にこなすし、読み書き計算もできる。なにより気に入っているのは、市場を『読む』ことができることでしょう。これで、元奴隷だというのだから、本当にどこに掘り出し人がいたかわかったものではない。


 「ロドス、魔物の剥製が得意な職人を探しておいてくれないかな?」


 「剥製ですか? 構いませんが、概要をうかがっても?」


 まぁ、確かになにを剥製にするか分からないと仕事を依頼するのは難しいですね。だったら見せてしまったほうが早いか。


 「見て驚かないでくださいね。――これです」


 取り出したるは大迫力の隠密熊。何度見ても眠っているようにしか見えないくらいに綺麗に狩られている。


 「うわぁぁぁぁぁぁあ⁈」


 「どうです? 凄いでしょう?」


 「え、えぇ」


 さすがのロドスもこれほどのものとは思っていなかったようですね。無理もありませんが。


 「そういうわけです。至急で悪いですが、職人を探してください」


 「かしこまりました」


 準備をしたロドスはあっという間に出かけて行った。


 即座に行動に移せるかどうかが商人としての生命線となる。ロドスももう少しすれば、一人前の商人としてやっていけるかもしれないですね。


 剥製を作る際、使うのは毛皮のみのため、内臓や肉は使わない部分となる。それに関しても、捨てるところが無いほどに需要があるため金になるのだ。自ら売りさばいても問題ないが、ここは安牌に商業ギルドへの売買でいいだろう。これほど大きな隠密熊の剥製を売るのだし、変に商業ギルドに目を付けられても面倒ですしね。


 内臓などをある程度の値段で売って、少しでも恩を売っておけば文句も言われないだろう。あとは、最高品質の魔物の剥製が作られているという噂でも流しておきましょうかね。


 


 数日後。


 無事に内臓や肉は売りさばくことが出来た。商業ギルドが思ったよりも食いついてきて、毛皮も寄越せと言ってきたがそれはあり得ない。内臓や肉込みで金貨200枚など話にもならない。170枚で買ったというのに、200枚で売ってしまっては私の儲けがほとんど無くなってしまう。


 結局、肉と内臓だけで金貨40枚で売ることが出来た。なかなかに新鮮ということもあり、想定以上の値段だった。剥製のほうも順調に進んでおり、乾燥が済めば組み立てるだけだと職人も言っていた。その乾燥も魔導具を使って時短すると言っていたので、あと数日で出来上がるだろう。


 


 さらに、数日後。


 「――おお! これは凄いですね! 想像以上の出来です! ロドス、よくやりました!」


 「お褒めに与り光栄です。職人も、こんな大物を剥製にしたのは久しぶりだったと言っていました。いい仕事をさせてもらったと言っていましたよ。値段のほうも勉強してくれたようで、金貨30枚でいいと言っていました」


 「流石ロドスです。本当に助かりました」


 剥製を作るのに金貨30枚だとしても、内臓や肉の売却益で賄えているし問題はないですね。噂も順調に流れているようですし、そろそろ動きがあってもおかしくは――


 

 ――コンコン


 「私が出てまいります」


 ひょっとすると、噂をすればというやつでしょうか。


 「商会長、アダムズ公爵家の執事の方が参られております」


 「今行く!」


 これは予想以上の大物が来たようです。アダムズ公爵家がなんのために剥製を欲しがるかは分かりませんが、お金を持っていることは分かりますね。


 

 「お待たせいたしました。私が当商会の商会長をしているレブラントと申します」


 「ほっほっほ。お若いのにしっかりとされた方のようですな。私はアダムズ公爵家の執事のアルバスと申します」


 「いえいえ、それほどでも。して、今回はなにをお求めでしょうか?」


 分かりきってはいますが、念のために聞いておいたほうがいいでしょう。下手に手札を切るのは愚の骨頂ですからね。


 「ほっほ。なにを、ですか。レブラント殿が一番よく分かっておると思っていましたが、思いのほか慎重ですな。私が欲しいのは、隠密熊の剥製です。噂によると、かなり綺麗な状態だとか」


 さすがは公爵家の執事。余裕も尋常じゃありませんね。それに、剥製の対象が隠密熊だということも正確に把握している。私が流した噂が、「高ランク魔物の最高品質の剥製」という情報だというのに。おおかた、商業ギルドで売った内臓や肉からバレたのだろう。


 「お耳が早くて感服致しました。その剥製ならばすでに我が商会に届いております。確認されますか?」


 「是非お願いいたします」


 商会の裏倉庫へと案内すると、さすがの執事もやや驚いているようだった。


 「こちらです」


 「おお……! なんと立派な。刀剣による切り傷や矢による刺し傷も見当たりません。本当に綺麗な状態ですな。生きていると言われれば信じてしまいそうです」


 「お褒め頂き光栄です」


 「是非これをいただきたいのですが、おいくらでしょうか?」


 値段……。これほどの出来ならばそれこそ金貨400枚と言っても買い手には困らないように思えますが、この執事の予算も分からない今、安易に値段を口にするのは早計な気がしますね。


 「それが、想定以上の出来で、私どもも値段をどうするか迷っていたところです」

 

 相手に値段を言わせるのは商人としては悪手ですが、公爵家とパイプを作ると考えたら多少の損失はむしろ安いくらいです。


 「ふむ、そうですな……これほどならば、大金貨65枚でいかがですかな?」


 「65枚ですか……!」


 想定よりもかなり多い。ここで終わらせてもいいのだが、まだまだ余裕がありそうなのが気になりますね。もう一声と言いたいところですが……。


 「では70枚でどうでしょう?」


 おそらく、大金貨100枚くらい出せる余裕があるようにも思えますが、ここらで手を打ってもよいでしょう。


 「わかりました。大金貨70枚でお譲りいたします」


 「ほっほ、お若いのに引き際を心得ていらっしゃるようですな。こちらとしても、とても助かります。何かあった際には、またこの優良な商会を利用させていただきましょう」


 「誠に光栄です。これからも、どうかレブラント商会を御贔屓にお願いいたします。剥製は後程、お屋敷のほうへお届けいたします」


 「ほっほっほ、よろしくお願いいたします」


 大金貨70枚を置いて、公爵家の執事は帰っていった。


 


 「はぁ、疲れましたね……ですが、これは想定以上です」


 「やりましたね商会長! 大儲けです!」


 想像の倍くらいの値段で売れたのも、剥製が予想以上に綺麗に仕上がったからだろう。これほどの仕事ができる職人を見つけてきてくれたロドスにはあとでボーナスを出すとしましょう。


 それにしても、やや心が痛みますね。オーネン村の親子からは金貨170枚で買ったというのに、私は金貨にして700枚です。商人としてはこれ以上ないほどに良いのでしょうが……。


 今回は運がよかった。そういうことにして、次の行商のときにサービスすることにしましょう。もしかしたら、またなにかとんでもないものを売ってくれそうな気もしますからね。あそこの親子とは仲良くしておいて損はない、そう私の勘が言っています。


 

 「資金が手に入りましたし、店を大きくしつつ仕入れをしていきますよ。さっそくですが、隣の店が近々売りに出されるそうです。すぐに抑えてください」


 「かしこまりました」


 さて、この波にどんどん乗っていきますよ!

後日談


ロドス「商会長、公爵家はあの剥製を飾るために買ったんですかね?」

レブラ「いや、届けに行ったときに聞いた話では、アダムズ公爵家の次男が他貴族の子息たちに自慢するために欲しがったそうだよ」

ロドス「自慢ですか……貴族というのは良く分かりません」

レブラ「私もだよ。アダムズ公爵家は良識ある貴族家ですが、最近の次男はちょっと荒れているそうです。まぁ、思春期のようなものでしょう」

ロドス「商人からすればありがたい話ですね」

レブラ「まったくです」

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― 新着の感想 ―
[一言] 商会の進む方向があんな明後日の方向だとはこの時は誰も思わなかったのです・・・ に近い状況だよなあ
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