010.主人vs執事
ネタ回ですので、温かい目で見て下さい。
なお、本話にミレイちゃんは出てきませんのであしからず。
とある日の昼下がり。
「そういえばアルフレッドさんとアウルお兄ちゃんってどっちが強いの?」
ピシィ!
いつも通りの日常が、ムーランの何気ない一言によってガラリと雰囲気を変えた。
「あははは、俺はまだ11歳なったばっかりだし、なにより魔人のアルフには敵わないんじゃないかな~」
「なにを仰います。私が主様に勝てる道理などありません」
「「・・・・・・・・・」」
俺とアルフレッドの視線が交差するなか、一瞬の静寂が周囲をつつむが、ムーランの更なる一言で状況が変わった。
「アウルお兄ちゃんの格好いいところ見たいなぁ~!」
ムーランの言葉を聞いてからの俺の決断は即決であった。それも自分で分かるほど凄くいい顔をしており、下心満載と端から見ても丸わかりの顔でもあった。
「アルフレッド、話は変わるが俺と模擬戦しないか?アルフレッドの実力を把握しておいたほうが、のちのち便利だと思うんだよ」
ぶっちゃけ全く話が変わっていないのだが、ヨミもルナも興味があったのか突っ込みはしてこないようだ。俺としてもアルフの実力は気になっている部分もあったので、いい機会かもしれない。
「全く話は変わっていないように思いますが、主様が望むならば。・・・・・・手加減はいりますか?」
ぴきっ
「あぁ、死なないようにするから安心してよ」
アルフレッドのやや試すような顔にカチンと来た俺は、精一杯の皮肉を込めて返してやった。
「ふふふっ、あなたの妹なかなかやるわね」
「えぇ、私も驚いています。でも面白いものが見られるかもしれませんよ」
戦うと言っても場所が大事になる。どこがいいのかと話し合った結果、38階層の浜辺で戦うこととなった。38階層にはクラーケンがわんさかいる階層だが、レティアが威圧して黙らせてくれることになった。というか我先にと逃げ出している。
やはり水属性の頂点とも言える青龍帝の力は偉大ということだろう。
「アルフ、準備はどう?俺はそろそろいけるけど」
「私も構いません。1つ確認ですが、禁止事項等は決めますか?」
禁止事項について考えていなかったが、いろんな展開を考えたが先ほどのアルフの挑発が頭をよぎったせいで禁止事項は設けないことにした。
「いや、禁止事項は無しにしよう。その代わり、レティアとグラさんに結界を張ってもらうのと、ヤバいと思った際に止めてもらうという条件付きでどうだろう」
「かまいませんよ。ではやりましょうか」
「合図はムーランにお願いするよ」
「任せて!!じゃあいくよ? 両者位置について、はじめ!」
ムーランの可愛らしい合図とともに戦いの火蓋が切られた。ここは1つ、アルフレッドの実力を見るのと、ムーランに格好いい姿を見せるためにも張り切っていくとしよう。
そういやアルフってどんな魔法使うか分からないな。小手調べに簡単な魔法で弾幕を張ってみよう。
「身体強化!感覚強化!アイスランス×20!」
「その歳で魔法を多重展開するとはさすがですな」パチン
『黒き槍×20』
げっ?! 指パッチンで魔法使うとか格好よすぎだろ!・・・・・・・・・ほら、ムーランが早速指パッチン練習してるもん!大人げねぇ!
しかもしっかり俺の魔法と同量の魔法で打ち落としてるし、余計に腹立つな。ここはもう思いっきり本気の魔法を放ってすぐに接近戦に持ち込むしかないか。
「意志ある雷霆よ、生ける竜となりて彼の者を殲滅せよ、雷竜"ライトニングドラゴン"」
ちょっとやり過ぎな気もするけど、アルフの事だし問題なく対処してきそうだ。それにムーランのあの輝かしいまでの笑顔、完全に俺を尊敬しているな。あんな格好いい竜を召喚したんだし、それもそうだろう。うむ。
っと、竜に注意が行っているうちに接近戦だ。背後からの攻撃を竜に、正面からの攻撃を俺の攻撃で挟めば対応が難しいだろう。
《杖術 薙の型 連獅子》
歌舞伎の連獅子から発想を得た技だが、豪快に頭の毛を振り回すかのように杖を薙ぐ技だ。広範囲用の技だが、逃げ場を無くすという意味では最適なはずだ。
「まさか人の身でありながら、竜を使役しますか。ですが、完成度はまだまだのようですね。しかし、杖術とはまた面白い。・・・・・・本当に興味が尽きません」
『歩法之極意・雷~動くこと雷霆の如し~ + 勁之極意・螺旋発勁』
は?
一瞬で俺の攻撃を避けたと思ったら、いつの間にか雷竜が消し飛んでやがる。しかも魔法の気配を全く感じなかったぞ?!
「ふぅー・・・。アルフ、想像よりも強いんだけど!というか雷竜をどうやって消したの?!」
「主様、今は闘争中ですよ。あとで教えてあげますので戦いに集中して下され」
?!横から声だと!
「強めに行きますよ!『魔闘術・黒 衝撃波乱打拳』!・・・・・・ぬ!」
自動障壁展開があったおかげで俺になんのダメージも無いが、一瞬で障壁が5枚割られたぞ!なんつう威力してるんだよあの拳!
というか見たことのない魔法や技ばかりで、なかなかに面白い!もはや胸を借りるつもりで全力を出すしかあるまい!レティアやグラさんが止めてくれるし、遠慮無くいろんな魔法使わせてもらうぜ!
とは言ってもあの歩法は驚異だ。・・・アレを試してみるか。
「雷霆の矢×10!」 (追跡付与!)
追跡機能を無詠唱で付与してみたけど、さて同反応するかな?
「展開の速い雷属性も私の歩法の前では無意味ですぞ?」
『歩法之極意・雷~動くこと雷霆の如し~』
まじであの歩法は反則だろ・・・。でも、それだけじゃないんだぜアルフよ。
「・・・・・・む!避けても追ってくるとは奇っ怪な魔法を使われますな。ふん!」
おいおい、魔力を纏った拳で魔法を打ち落とすとか化け物過ぎだろ。でもこれで時間が稼げる。遅延呪文、呪文待機!これで最大60発近い魔法をほぼノータイムで発動できる!
「これで俺の勝ちだアルフ!アクアランス×20!解放 グリッターランス×20!フレイムランス×20! さらに駄目押しだ、アイスフロア!」
「む!・・・・・・これは!」
歩法を封じるために地面を凍りづけにしたから思うように歩法は使えないだろうし、ほぼ全方位から魔法が襲うように魔法を発動したからこれでチェックメイトだ!
アルフが逃げるには正面の俺に向けて走るしかないようにしてある。これはやり過ぎかも知れないけど、俺の全力を出し切ってやる。
アルフが俺に向かってくると想定して、ルーティーンのように雷属性の魔力を展開し、磁界を発生させた。両手で鉄貨を包み込むように魔力を通して、それを磁界の中で構える。
「超電磁砲!」
決まった!!
「本当に主様はお強い。人間とは思えない魔力量にそれを制御する技術、相手を巧みに操る戦術、どれをとっても人のそれを超えています。が、相手の力量を把握するのはまだまだ苦手と見える。合計するとギリギリ及第点というところでしょう」
『歩法之極意・陰~知りがたきこと陰のごとし~ + 歩法之極意・雷~動くこと雷霆の如し~』
消えた?! というか姿も見えなくなったし、超電磁砲も避けられてる・・・・・・?! 何が起こってる!
「あれ、地面は凍らせたはずなのにだれかが踏み抜いたような足跡が・・・」
・・・・・・後ろか!
「主様、とても楽しかったですよ。久しぶりに全身が滾っております。感謝を込めて全力の一撃を!」
『魔闘術・黒 + 勁之極意・波動寸勁』
「まだだ!」
ムーランに格好いいところを見せなければ!
《杖術 太刀の型 紫電・返し》
「そこまでにしておけ」
「「!!」」
俺の攻撃とアルフの攻撃がぶつかる直前に、人型のグラさんが止めに入ったのだ。要はこの攻撃がぶつかった場合、どちらもただじゃ済まないということだろう。
「今回は引き分けにしておけ。それにあの娘も興奮しすぎて面倒だしな。あとで魔法でも教えてやるといい」
「お、おう。ありがとうグラさん。アルフもそれでいいか?」
「主様がよろしいのであれば問題ありません」
・・・はぁ~。どっと疲れたぁ。
「アウルお兄ちゃん格好よかったよ!!ご褒美のチュー!」
「「あっ!!」」
おぉう・・・。なにか新たな属性に目覚めそうだな・・・!ほっぺとはいえ、嬉しいものだ。
「アウル様~?ちょっとお話が」
「ご主人様、こちらに」
俺が理不尽に怒られたのは言うまでもない。
さらにいうと、たまにアルフから殺気にも似た熱視線が送られるようになったので、ときたま模擬戦をしてやるのだが、心なしか嬉しそうに見えるのは俺の勘違いではないだろう。