なろう×中国企業に見る、中国の政治状況、とSF状況
なろうトップの「現在開催中のタイアップ企画」に、
「小説家になろう×JINKE(金科文化)」というのがあるのに気づいた。JINKE社はモバイルゲームで成長した中国企業らしい。上海でIPO(株式上場)しているようだ。
左上のJINKE社ロゴからJINKE社サイトに行けるが、日本語どころか英語もない中国語サイトなのでよくわからない。
そこで募集してるテーマが下記である。
”テーマ① 働く女性
“働く”女性を主人公に、ファッション、メディア、ゲームなど世間で流行しているトピックを盛り込み、女性を励まし、勇気を与えてくれるストーリー
テーマ② サスペンス・推理もの
超常現象を解き明かして事件を解決する作品や特殊能力を使って事件を解決する作品など、事件やニュース、社会的な議論を呼ぶ話題に、ちょっとした超現実の要素を盛り込んだストーリー
テーマ③ ファンタジー
一定の科学的原理・法則に基づくSFや「ハリー・ポッター」や「ウォークラフト」、「空海−KU-KAI− 美しき王妃の謎」などといったような魔法や歴史スペクタクルの要素が盛り込まれたストーリー
テーマ④ 復讐もの
「僕のヤバイ妻」や「告白」などといったような心理戦を軸に、自分を貶めた者や裏切った者へ復讐するストーリー
テーマ⑤ ヒューマンドラマ
障害のある主人公が人々と出会い、成長していくような作品や家族愛を描いた作品のような心温まるストーリー
テーマ⑥ 学園純愛もの
「のだめカンタービレ」や「花より男子」などといった学生同士の恋愛ストーリー(中国での映像化を想定しているため、先生と生徒や同性愛は避けてください)
テーマ⑦ ゲーミフィケーション
「ブラック・ミラー」やアドベンチャーゲームブックのように読者の選択によって物語の展開と結末が変わるようなストーリー”
「テーマ③ ファンタジー」にSF、歴史が含まれる大ざっぱさはどうなん、と思わなくもないが、おそらく現在の中国で流行のテーマを反映しているのだろう。
一方で、禁止条項が興味深い。
”上映に際し禁止される可能性がある次の事項は避けるようにお願いします。
・政治的立場の表明
・現実的な政治を反映させたテーマ
・異世界での第二の人生など
・幽霊・社会的通念に反する恋愛(教師生徒、同性愛、兄弟姉妹の恋愛など)・猟奇的すぎる、暗すぎるテーマ・暴力的すぎるテーマ”
「禁止される可能性」であるから、商業上のヒットする/しないではなく、政府の規制、もしくは民衆の反発が垣間見える。
”・政治的立場の表明
・現実的な政治を反映させたテーマ”
まあ、このあたりでトラブルをかかえたくないのは分かる。尖閣とか南京とか、中国では度々反日デモや日本製品不買運動が起きたことがある。そもそも、中国人民の中国政府批判も問題になるらしいし。
なにやらいう、なろう発のラノベが書籍化、後にマンガ化だかアニメ化だかして中国版が出た時、主人公が転生前に、日中戦争だか太平洋戦争だかで中国人を殺した過去(数行)が問題になって、中国のネットで炎上したこともあったらしい。
”・異世界での第二の人生など
・幽霊”
言うまでもなく、中国は社会主義国家である。そして社会主義では、「宗教は麻薬」という扱いである。
社会主義提唱者の一人である、マルクスの著作に、「宗教上の不幸は、一つには現実の不幸の表現であり、一つには現実の不幸にたいする抗議である。宗教は、なやめるもののため息であり、心なき世界の心情であるとともに精神なき状態の精神である。それは民衆のアヘンである」(ヘーゲル法哲学批判・序説)という一節がある。
また、中国では昔から、黄巾の乱(三国志)、紅巾の乱(元)(今調べて知った)、太平天国の乱(清)、義和団の乱(清)等々、宗教を母体とした為政者への反乱が度々おきている。そういうのにつながることを、現為政者=政府も恐れているのかもしれない。
小難しいことはおいといて、要するに、宗教は政治的によろしくないわけだ。
どうせ中国民衆は聞きやしないが、企業ともなるとそうもいかない。
宗教がなければ輪廻転生もない。転生がなければ異世界転生もない。死後の幽霊もいない。
よって、それが存在するかのような作品は、フィクションであれ、政治的に禁止される可能性があるのかも。
そういえばキョンシーって中国じゃなかったっけ? いや香港だったか。香港が中国に返還された後、一国二制度になったが、今キョンシーものの新作は出ているのだろうか?
”・社会的通念に反する恋愛(教師生徒、同性愛、兄弟姉妹の恋愛など)・猟奇的すぎる、暗すぎるテーマ・暴力的すぎるテーマ”
このへんは普通。日本でもR15とか有害図書とかになって、映像化時に客が限られるだろう。
ところで、今中国ではSFが大ブームらしい。
出典:SF業界が急成長、7000億円産業に 最新の「中国SF産業リポート」発表 (AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3253658
”【11月10日 CNS】「2019年中国SF大会(China Science Fiction Convention)」が3日、北京で開かれ、最新の「中国SF産業リポート」が発表された。中国のSF産業は急成長を遂げており、2018年の総生産額は前年の140億元(約2169億円)から3倍超の456.35億元(約7071億円)に達した。さらに2019年上半期は315.64億元(約4881億円)で、前年比1.38倍となった。
【関連記事】SF作家の藤井太洋氏 「『三体』は2012年来の最大のブーム」”
出典:今、SFは中国を中心に動いている! 小説から始まり、映画、ゲームまで…世界的人気を誇る新金脈! 急速に広がる“中国SF”の世界 (サイゾー)
https://www.cyzo.com/2019/11/post_221818_entry.html
”ここ数年、SFが大ブームになっている。
その中国のSFブームを代表する作品が、先頃邦訳が出版された、劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン)の『三体』(大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳・早川書房)。今回邦訳されたのは、『三体』『黒暗森林』『死神永生』の三部作からなるうちの第一部だが、中国では三部作が合わせて2100万部という驚異的な大ベストセラー。翻訳された英米でも100万部以上を売り上げ、2015年には英訳版が翻訳物としてもアジア圏の作品としても初めて、代表的なSFの賞であるヒューゴー賞を受賞。オバマ前大統領やフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグも賞賛したという話題作である。”
「【関連記事】SF作家の藤井太洋氏 「『三体』は2012年来の最大のブーム」」によると、邦訳された時は日本のSF市場にまで影響を与えたらしい。
上記の数字「7000億円産業」はゲームや映画を含むので、小説に限ればはもっと小さい数字だろうが、
日本ではSF小説は長期下落傾向、早川や創元の棚が徐々に小っさくなってる感がある。なろうでも(VRMMO以外は)過疎ジャンル(上位は書籍化されたものもあるが)。
でも中国ではウケる内容かもしれない。かといって普通は、小説家個人が中国にアポを取るなんてのは手間だ。
もしかしたら、なろう経由で中国企業にコンタクト、てのが、日本のSF小説家が生きる道になるかもしれない。
参加するには、例によってキーワードつける方式。「JINKE小説大賞」を付けるらしい。
なので検索してみると、現在(2019/11/15)応募作は
JINKE小説大賞 検索結果: 78作品
禁止テーマの「異世界 転生 幽霊」を除外ワードに入れると
検索結果: 50作品 (幽霊は数の変動はなかった)
お前ら、応募要項読めよ。
しかしながら、残った作品も「何やら大賞(数字)」といった、他の賞への応募っぽいキーワードもいっぱいぶら下がっている。
"他のコンテストと重複して作品を応募することはできません"
お前ら、応募要項読めよ。
”他のコンテストに落選した小説ですが、応募できますか?
先に応募されたコンテストの応募要項の制限に抵触しなければ問題ありません。”
昔、他の賞に応募したキーワードが残ったままの落選作ならとっととはずせ。多分読んでもらえないぞ。
中国の政治状況を風刺するはずが、なろう作家を風刺する、という壮絶なオチで、終劇※。
※終劇 香港映画で「The End」
出典: http://www.jinkeculture-syosetu.com/
参考: 株価 https://www.google.com/search?q=SHE:300459