黒い陰の後日談。
「なあ、おい。お前さ、知っているか? 病院によくある怪談話。ほら、あれだよ。あれ」
病院のロビーで、いきなり見知らぬ男に話しかけられた。そしてソイツが、断りもなく隣に座る。
他に空いてる席もあり、全くの初対面というにも拘わらず、随分と馴れ馴れしい態度だ。
こういう輩に関わると、碌なことにならない。
だから、返事を返さないことにする。
しかし――
「どこどこの誰々さんの病室に黒い陰が・・・って、有名なやつなんだけどよ? あれってさ、黒い陰に病室に入られて、それを視たりした奴が死んだりするじゃん?」
男は、しつこく話しかけて来る。とても気安く。
「それでさあ、黒い陰? ってやつが、死神だとか言ったりするだろ? 話では。なあ?」
無視をしているのに、まだ話を続ける。
「お前さあ、ちゃんと聴こえてンだろ?」
今度は、肩に手を置かれた。重い。迷惑だ。
「なあ、返事くらいしろって」
絶対に嫌だ。図々しい上に、煩わしい。
「・・・ったく、頑なだな? 無視されっと、すっげぇ悲しいンだぜ? で、だ。俺は一体どこに逝きゃいいんだよ? 黒い陰の死神って、死後の世界とやらには連れてってくれねぇみたいなんだよ。なあ、お前、俺のこと視えてンだろ?」
男が、ぐっと顔を覗き込んで言った。
「視えてンなら、教えてくれよ」
そんなこと、知るか。