5話 実は五学年なんです
「はいはい、二人とも喧嘩はそこまで。もう学校に着くよ」
二人に声を掛けるとバスは失速していき、学校前の停留所に到着する。
ドアが開き、生徒が次々と降りるのに私達も続いた。
「なぁ綺晶、お前どこのクラスだ?」
そういえばまだお互いのクラスを知らなかった。イシュカのクラスなんて聞いてもいなければ、調査もしていない。
「イシュカは?」
「俺は三組だ。・・・お前確か俺と同じ年だったよな?」
どこでそんなこといったっけ? 記憶にない・・・はず。
「ということは二学年かな? でも私たちスキップしてるから五学年の一組だよ」
「は?・・・嘘だろ?」
開いた口が塞がらない、というのを見事に体現してくれている。
彼の取り巻き・・・友人たちも驚きが隠せないようで、私と沙久矢を交互に見ていた。
「沙久矢は私と同じクラスで、零奈は私達と同じ学年の二組だよ」
「は? このチビが五学年なんて嘘だろ?」
年下の零奈の学年が上であることが私や沙久矢のスキップより遥かに衝撃的な事実だったようだ。
イシュカはその場に足を止め、見るからにショックを受けている。
「まぁ、私達が本気を出したら五学年どころじゃないですけどね」
入学してすぐ義務教育卒業学年に飛ぶのもどうかと思い、様子見も兼ねて五学年に落ち着かせたのだ。
本当はバラバラの学年にわけて反応を見ても良かったのだが、我々は同じ学年の方が色々と都合も良いのでこの結果になった。
「じゃあ、私達はこっちだから」
「あ、あぁ」
学年ごとに入口が異なる為、唖然としているイシュカをその場に残し、クラスに向かった。
「なんか、あいつ、すごーくムカツクわ」
始業時間より早い為、まだ誰もいない廊下で零奈は思いっきり愚痴を零してきた。
「それにしてもスキップ出来るのは楽ですよね。おかげで私達七人同じ学年になれましたし」
周囲に気を配りつつ、会話が聞こえる範囲に人がいないことを確認しつつ沙久矢は話し始めた。
確かに他の国ではスキップのシステムがないところもある。
「でも零奈、それから英美と真菜はちょっときつかったね」
ここにはいない同学年の仲間の二人、そして零奈は入学時まだ五歳だった。本来、七歳から入学する学校にそれもスキップさせる形で無理やり入れ込んだのだ。
彼女たちは能力が目覚めた時に親に処分をされそうになっていたところを私たちが助け出した存在でもある。
能力が高すぎる存在は未だにそういうことがされかねない。
「私達は能力が目覚めた時から、学校の勉強なんて必要がない。周りが異質な目で見ているのもわかっている…こんなことに時間を使うのはとても無駄だと思う」
言外に私たちが生きてける時間は普通の人間に比べ短く、それよりもやるべきことがあるのでは、と問いかけられていた。
「そうですね。知識としてはそうかもしれません…しかし、普通の人の生活をして、その中で身につけなければいけないこともあると思いますよ」
沙久矢が優しく注意をすると、零奈もわかっているのか少し拗ねた様子で視線を逸らす。
「…わかってるよ。だからこうして通っているでしょ」
零奈の言っている事も沙久矢の言っていることもわかる。だからこそ…私たちの問題を早く解決する術を見つけなければいけない。