4話 零奈が乗ってきた
「あっ、おはよう! 綺晶、沙久矢」
乗車してきた少女は元気良く、手をブンブンと振って近づいてくる。
「おはよう、零奈」
「おはようございます、今日は早いですね。どうかしたんですか?」
お互いに挨拶を交わし、いつもはこの時間では会わない零奈に沙久矢が尋ねる。零奈はこの時間より二本くらい遅いバスに乗っていると聞いていたからだ。
「うん、昨日学校に宿題置いて帰っちゃったから。二人はいつもこの時間?」
「そうです」
沙久矢の言葉と共に私も頷いた。
私達の事を知っている人間は私と沙久矢がいつも一緒に行動をしていると思い込んでいる・・・というか実際そうなんだけど、わかりきった事なのでどちらかが「はい」と言えば、もう片方も必然的に同じ答えになる。
「じゃあ、私も今度からこの時間にしよーっと!」
「まぁ、とりあえずここに座りなよ」
立ったままだとバスが発車できない為、零奈に私達の向かいの席に座るよう勧める。
「うん・・・あれ? これ綺晶の家にあったやつじゃん。持ってきたの?」
正面に座った零奈はイシュカの手元を見て首をかしげた。
・・・しまった、『テクテクリーフ君』はうちの歩く植物と外見は瓜二つである。零奈が見間違えるのも無理はない。
「なんだと、テメェ。これは、俺が苦労して手に入れた発売前の新商品だぞ! つーか、おまえ誰だよ!」
事情が把握出来ていない零奈の勘違いにイシュカは怒りを露骨に表した。
「私? 零奈・A・サン、ピチピチの六才よ。あなたなんかにテメェ呼ばわれされる覚えはないわ」
売り言葉に買い言葉。喧嘩は売られたら買うという性格している零奈。一度キレたら手に負えないイシュカ・・・
二人の間に火花が飛び散っているのが見える。
「零奈、これはうちの研究所の新製品なんです」
さりげなく二人の間に割って入った沙久矢はこっそりと零奈に耳打ちする。
「あ、なるほど・・・」
それだけで零奈は状況を理解すると、一度は表に出していた怒りを収めてくれたようだ。
「それに、おまえ六才だって? 普通学校は七才からだぞ。何で通ってんだよ」
「うるさいわねー。別に七才じゃないと通ってはいけないという規定はないわ!」
・・・と思ったのだが零奈はすぐに火が点くタイプだ。敵とみなした相手には容赦が無い。
それに零奈の言う通り、学校は七才になれば義務として通わなければならないが、それ以前に通ってはいけない、という法律はない。それ以前に七才になる前に通わせる親もほとんどいないが・・・
この世界の学校は七歳になったら通わせ、十五あるうちの六までの学年をクリアすることが義務付けられている。
六学年をクリアすれば卒業でも進学でも自由に選べる。
そして、通常のスピードであれば一年で一学年クリアできるようになっているが、能力の足りない者は留年。知識と力がある者は逆に半年ごとの進級審査でスキップすることも出来る。