3話 隣の席のイシュカ君
「おい、何こそこそしてんだよ。そんなことよりこれ見たいだろう?」
見せびらかしたくて仕方がないのか、大きな鞄をひざの上に抱えて我々の「見せて!」という言葉を待ってる。
「別にいいよ、興味ないもん」
「本当は見たいんだろう・・・しょうがないな、特別に見せてやるよ」
断ってもイシュカはお構いなしに話してくる。これは自分がただ見せたい、自慢したいだけなのだろう。
本当に嬉しそうに人の話を聞かず鞄を開ける様子を見て、ついため息がでてしまう。
「別にいいって言ってるのに・・・」
けれどもイシュカの耳にはもう私の言葉なんかか届いていない。
「綺晶、こういう奴には何を言っても無駄ですよ」
沙久矢は私の肩に手をついて、諭してきた。
「じゃーーん! これは来月発売される『テクテクリーフ君』だ!」
イシュカが鞄から取り出したのはうちにあるペットと見た目が瓜二つだった。それと目が合い、言葉を失う。
「驚きで声もでないようだな、ハッハッハッハ!」
確かに驚いているが、きっとイシュカが考えている事とは全く別の事であろう・・・
「ねぇ、沙久矢これもしかして・・・」
有頂天になっているイシュカには聞こえない声量で尋ねる。
「・・・そうです。私のサポートしている研究所の新製品です。企画書とあなたへのプレゼントの資料が入違っていたようで・・・気づいたら商品化企画が進んでました。もちろんあなたにプレゼントしたものとは性能は段違いです」
よく見るとところどころ違うみたいだが、知らない人が見たら間違えてもおかしくないレベルではある。
「見た目だけでも変えようとしたのですが、結果この形が一番適したものになりまして。申し訳ありません」
世の中の経済が潤う訳だし、当然私の子とは別の子になるのだからそこまで深く頭を下げなくても・・・
「謝るようなことじゃ。ちょっとびっくりしたけど、あれかわいいしね。売れると思うよ」
慰めるように笑みを向けると、沙久矢は顔を上げたが表情は晴れない。
「・・・おい、聞いているのか?」
ふいにイシュカに呼び止められ、沙久矢との会話を打ち切る。
「あっ、ごめん。聞いてなかった」
イシュカの言動パターンを考えるとおそらく、『テクテクリーフ君』について語っていたのだろう。
ちょうどその時、バスは次の停留場に着いて幼い少女が乗ってきた。