水を飲もう
「リム、さっき、「魔力溜まりの世界へようこそ」っていってたけど。ここは俺がもといた世界とは違うのか?」
(妖精がいる時点で、ファンタジー異世界のような気もするけど。)
『それでは説明しましょう。』
リムはこちらを向いてウィンクした。
「誰に向かって話してるんだ?!」
『え?、読者の皆さんですよ。私はこのお話の説明役ですからね。』
「・・・・・・・」
『では、気をとりなおして・・・あたしは顕現する前の意識だけの体で見ていました。
なにもない空間に突然、魔粒子、光る玉が大量に現れて、その中から徹さんが出てきたんです。
魔粒子はこの世界だけでなく、他の世界にも存在しますが、何故か多く集まるとこの世界に自然と転移してくるんです。
だからこの世界は魔力溜まりの世界と呼ばれているんですが、徹さんは、その転移に巻き込まれてしまったんでしょう。
魔粒子は妖精以外の種族には普通見えないはずなんですけど・・・徹さんには見えているようですね?、』
「それじゃあ俺は、元いた世界でたまたま魔粒子が見えるようになって、
面白半分にかき集めてしまったためにこの世界に来てしまったのか。・・・はぁ、なにやってんだろ、俺。」
『見えるだけじゃなく、それを広範囲に集めることまでできてしまうなんて、徹さんってスゴイです。』
「元の世界に戻る方法って・・・・ある?」
『ないです。』
リムは、にっこり笑ってキッパリ言った。
徹は頭を抱えて蹲った。
「そうかぁ、ないかぁ、じゃ、この世界で生きていかなくちゃなんないのかぁ。」
しばらくたって、立ち直り、顔を上げる。
「・・・リム、この世界に俺以外にも人間っているよね?」
『はい、この世界には徹さんのような裸猿族だけじゃなくて、いろんな種類の人間がいますよ。』
(裸猿って、まぁ、たしかに普通の人間は毛のない猿か。)
「この近くに人間の住んでる集落ってある?」
『ここから一番近い集落は、10日くらい歩いたところにそこそこ大きな街がありますね。』
「・・・・10日・・・・じゃ、そこに向かうとしても、当面の水や食料を確保しないといけないか。」
あたりを見回すと、再び魔粒子が多く飛び交うようになっていた。
「魔粒子って言うくらいだから、これを使って魔法が使えるのか?、水とか出せる?」
『だせますよ、ほら。』
リムは、左の手のひらを上に向ける。
手のひらが光りだした。するとその上に米粒ほどの水の玉が出現した。
リムの体のサイズ的にはそれでも拳ほどの大きさだ。
「おぉ!?、さすが異世界。俺にも出せるかな?」
『外を飛び交う魔粒子を直接操作できれば徹さんでも、できると思いますよ。
こちらの世界の人間は自然に体内にとりこまれた魔粒子を操作して魔法を行使します。
今の私は体自体が魔粒子なので、より簡単にできる訳ですね。
ちなみに、この世界の生物は魔粒子が体内にあるのが普通で、意識することなく生命活動の補助に使っています。
だから、体内の魔粒子を全て失うとまともに体を動かせなくなるんですよ。』
リムは徹の体の周りを飛び回りながら、じっくり見て回った。
『やはり、徹さんは、魔粒子の非常に希薄な世界から来たようで、体内にはまったく魔粒子がないですね。
外気にある魔粒子が体に入り込もうとしてもはじき返しているみたい。』
ちょこんと徹の左肩の上に座る。
『左手の上に魔粒子が集まるように念じてみて。私を顕現させた時のように思い切り集めなくていいですよ。
ほんの少しでいいからね。』
徹がリムに言われた通りに左の手のひらを上に向けて念じると、そこに魔粒子が5つほど集まってきた。
『その魔粒子を自分の体の一部だと思って、
空気中にある水分を凝縮して固定するようにイメージして。』
集まった魔粒子が明滅した後、その中心に、バレーボールくらいの大きさの水の玉が出現した。
「おぉ!、できたぁ!!、魔法すげぇ、」
水の玉に直接口をつけて吸い込んで一気に飲み干す。かなりのどが渇いていたようだ。
「うまい!、これで水の心配はなくなったな。」