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偽物勇者の勇者物語  作者: おはる
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俺が勇者な訳ないだろう!!

朝食を食べ終えた俺はふと疑問に思う。

時計を確認すると今はまだ九時だ。

普段この村の人達は九時から仕事を始めるのだが、今日は俺が起きたときには、すでに何人かの人達は仕事を始めていた(八時三十分)。


仕事といっても職業は限られている。


『農業』 『村の門番』 『猟師』


基本はこの中から一つどの職につくか選ぶ。ちなみに仕事をするのは十五歳からだ。

なので、兄のように兵士になるという自分のやりたい職があれば、村を出て、王都まで行くしかない。


この村の人口は六十人程度

大人四十人 子供二十人


その子供の中で仕事をしているのは、俺ともう一人、ロブという俺と同じ年の男だけだ。


俺は十五歳になったとき農業をすると言った。

なぜなら一番楽な仕事だからだ。


村の門番は朝から晩までずっと門の前で立っていないといけない


猟師は一番ダメだ。

生き物を殺すのは心が痛むし、何より村の外に出なければいけない。

外に出るということは、魔物に遭遇することがある。

それだけは嫌だ。

戦うなんてことは俺はしたくない。


まったく、猟師をしている人の気がしれないね。


「ちょっと、なにボケーとしてるんだい!」


そんなことを考えていると、おばさんから声をかけられる。

少し驚いたが、今の疑問を思い出し、おばさんに聞いてみる。


「あの、何で皆もう仕事を始めているのですか?」


「あんた何言ってんだい!!もう忘れちまったのかい!?今日は王都から王様がいらっしゃるんだよ!!」


「は?」


自分でも間抜けだと思うような声を出してしまう。


俺には衝撃的すぎて意味が分からなかった。


王様が来る?どこに?ここに!!?


俺は動揺しすぎて思考停止していた。

そしてそれから数秒後俺は「ハッ!」と我に返り、必死に考える。


王様といえばこの国で一番偉い人だ。

そんなこと、俺が五歳の頃でも分かっていた。

そんな人がこんなオンボロな村に、何の用で?何の目的で?


「あれ?まさかあんた知らなかったのかい?」


今度はおばさんに質問をされ、俺は答える。


「えっと、多分今日初めて聞きました」


そう俺は答えたが、もしかして俺が忘れていたんじゃないかと思い、『多分』という言葉で保険をかけておく。


「それって、どれくらい前から知っていたんですか?」


一応不安なので、いつ頃から知っていたのか確認をとる。


「だいたい一か月前くらいだよ」


そう言われ俺は確信した、うん、やっぱり俺聞かされてないな。

いくら俺でも一か月前に聞いたことを完璧に忘れるということはない、ましてや王様が来るなんていう重大なことを。


「アハハ!!ごめんよ!私が伝え忘れてた」


そうおばさんは言い、顔の前で両手をあわせ謝ってくる。


なるほど、どうにもこの一か月間仕事が忙しかったのはそのせいか。

村の人達は今日王様をもてなすために、いつもより多く野菜を育て、いつもより多く動物を狩って来たのか。


「さぁ、もういいだろ!あんたもさっさと野菜収穫してきな!!」


そう言ったおばさんの口調は、いつもより焦っているようだった。

まさか、もうあまり時間がないのか?

そう思い、かなり不安になるが、俺も重い腰を持ち上げ、畑へと移動する。




――――――「ふー、終わった終わった!」


と俺は、やりきったようなセリフを吐いているが、俺が畑に行った頃にはもうすでにほとんど収穫は終わっており、俺は特になにもしていない。


許してくれ、俺は知らなかったんだ仕方がない。

と俺は一人心の中で言い訳を並べる。

そんなことを考えていると後ろから声をかけられる。


「おーい!そんなところでなにしてんだー!?」


そう言われ、声のするほうに振り返るとそこには身長は俺と同じくらいで、茶色の髪の毛の少年が俺に手を振っている。


この村で俺と唯一同い年の少年『ロブ』だ。


俺はこいつとなるべく関わりたくない。

悪い奴ではない、むしろ明るく、フレンドリーに話かけてくれるし、子供達(十歳以下)からも人気がある。

しかし、こいつは少し………いや、かなり悪戯好きで、昔から何度か遊んだりしているが、その時にこいつは何度も大人に悪戯をして俺まで説教を喰らった。

つまりこいつと一緒にいると俺にまで被害が及ぶ。

でもこいつは俺の唯一の友人で、話かけられると邪険にはできない。


「なにって、仕事だよ!そんなことよりお前はいいのか!?仕事ほっぽりだしてこんなところにきて、今日は王様が来るんだろ!!」


そう、ロブの仕事は門番だ。


「いいんだよ、どうせ王様はまだ来ないんだし!」


「そういうことじゃないと思うんだが…」


少し呆れたような口調でロブに言う。

そういえば俺は何時に王様が来るのか聞いてない。


「王様は何時に来るんだ?」


そう質問すると、そんなことも知らないのかというような顔をされた。


「午後一時くらいに来るってよ」


それでもしっかりと答えてくれるあたり、やっぱりこいつは良い奴だなと思う。

今はだいたい十一時くらいだろう、ということはあと二時間後か

村の準備はほとんど済んでおり、準備万端だ。


「なんだ…結構時間あるじゃないか、こんなことならいつも通り仕事してもよかったんじゃないか」


「バカだな~ユウジ、何のために朝早くから野菜収穫したり動物狩ってきたとおもってるんだ?」


そう言われ俺は少し考える、そして答えはすぐにわかった。

今この村は最大の問題がある。それは『料理』だ。

いくら村が綺麗でも料理が不味ければ全て台無しだ。


「だから時間を多くとるために朝早くから収穫や狩りをしたのか。」


「あぁ、そして料理はまだ出来ていないらしい」


「マジか……」


なるほど、ライムおばさんが焦っていた理由がわかった。

ライムおばさんはこの村で五本の指に入るくらい料理が上手い、だから今日の料理も任されたのだろう。

当然ライムおばさんだけではないだろうが、それでも王様に振る舞う料理なんて相当なプレッシャーだろう。


「料理出来なくてよかった」


つい思ったことが口に出てしまった。


「あぁ、俺も料理苦手でよかったよ」


そういえばこいつも料理が相当苦手だったな。

昔こいつの作ったスープを飲んだ時は意識が飛びそうになった。


「あれはもはや兵器だな」


そしてまたもや思ったことが口に出てしまった。


「お前も人のこと言えないだろ」


ロブに言い返されるが、お前程酷くはない………は

ず。


「さて、そろそろ俺も仕事に戻るか、またなユウジ」


「あぁ、またな」


そんな軽い挨拶をしてロブは門まで戻っていった。






――――ロブと別れてからだいたい一時間三十分程経った。

王様が来るまであと三十分、村の皆も落ち着きがなくソワソワしている。

料理もなんとか完成したようで、これで本当に準備万端だ。

実は俺も相当楽しみにしていた。王様とはどんな身なりをしているのだろうとか、どんな顔をしているのだろうとか、柄にもなくワクワクしていた。


ただ俺の中で少し疑問が浮かんだ。

王様は本当に来るのか?

もしかしたら誰かが流したデマじゃないのか?

そんなことを考えていると急に不安になってきた。

しかし、そんな不安は一気に晴れた。

高台に登り村の外を見ていた男が大声で言った。


「オイ、お前達王様が見えたぞ!!」


それを聞くと俺達は門を開けるとすぐにある広場に全員集まった。



それから十分後村の門が開き王様と王様の護衛である兵士達が村に入ってきた。


「これはこれは国王様わざわざこんな村に足を運んでいただき光栄です」


村長は失礼のないように挨拶をし、頭を下げる。

それに続き俺達も頭を下げる。


「フム、すまぬなこんなにも大勢連れてきてしまって」


王はそう言うが悪いという様子は微塵もない。

確かに大勢だ、パッと見るだけでも護衛の兵士は四十人程いる。

だが逆に俺は四十人しかいないのかと思う。

もっと大勢、それこそ百人くらいで来ると思っていた。

しかし、王様の姿を見ればそんなに必要ないことがわかった。

王様の背丈は村の大人達の背丈よりも高く、声にも衰えがない。

そして腰には剣が一本。

これだけ見てもこの王様は相当腕が立つのだろう。


「いえいえそんなことはございません。

それでは国王様早速ですがこの村の料理を振る舞います」


そう言うと村長は王様をこの村で一番大きい家に招き入れる。

おいおい大丈夫なのかと不安になる。いくらライムおばさん達の料理が美味しいといっても、それは俺達にとっては美味しいのであって、お城でいいものばかり食べている王様にとっては、たいして美味しくなく、むしろ不味いかもしれない。


しかし、王様に出された料理はこの村で作られたとは思えない程見た目も完璧だった。

こんなのをよく作ったなと思い、素直に賞賛する。

あとはこれで味さえよければ完璧だ。


「いただきます」


兵士が毒味を済ませて、王様は両手をあわせ、しっかりといただきますと言う。王様と言えば出された料理に文句を言いながら、行儀悪く食べると思っていたから、こういうところには好感が持てる。


「うまい!!」


王様がそう言うと村の皆はホッとしたように胸を撫で下ろす。


「これを作ったのはどなたかな?」


王様が言うとライムおばさんと他何人かが王様の前に立つ。


「本当に美味しいよ!これだけでもこの村に来た意味があったというものだ」


ライムおばさん達は明るい顔を浮かべ王様にお礼を言っている。

それを聞き俺は数時間前までの疑問を思い出した。王様何の目的でこの村に来たんだ?

ただ単に観光ということではないだろう。

そう考えていると、王様は皿の上にあった料理を全てたいらげ、一息つき俺達に言った。


「すまないが村長、村の者を全員集めてもらえるか?」


王様が言うと村長は俺達に広場に集まるよう言った。


「これで全員かな?」


「は、はい、大人から子供までこれで全員です」


広場に集まった俺達は少しざわざわとする。

いったい王様は何のために俺達を集めたのだろう。

もしかして王様に何か失礼なことをしてしまったのかと村の何人かは不安の表情を浮かべている。

俺も少し不安になったが俺は何もしていないし大丈夫だろう。


「そう不安な顔をするでない!ワシがお主らを集めたのは何も罰するためではない」


王様は俺達の表情から心を読んだように全員の不安をはらった。それを聞き俺達は一安心、なら何のために集めた?


すると一人の護衛が一番近くにいた村人の顔を覗いてきた。

何事かと思ったが、当然「やめろ」とは言えず、しばらくその村人は黙ったままだ。

そして数秒経つとその隣の村人の顔を覗きこんだ。

俺だけではなく村人全員意味が分からなかった。

そしてそのまま時間が過ぎていき、次は俺の番だ。

よくわからないが普通の顔をしておこう。

そう思っていると、やはり俺の顔も見てきた。

早く終わらせてくれ…と内心思っていた。

すると少しおかしいと思い始める。いままでの奴は二、三秒見たら次へいっていたのだが、俺だけ明らかに見ている時間が長い、すると兵士が野太い声を発する。


「君、少し前へ来てくれないか」


この声を聞く限りこの兵士は男だと思い、少し残念だ。いや、別に女性がよかったなんて微塵も思ってないから…

なら俺は男に十秒以上近距離で顔を見られていたのか。

いやいや、そんなことを考えている場合じゃない。

なぜ俺が、俺だけが声をかけられた?それに前へ来てくれだと!?


「あの、俺何かしましたか?」


内心かなりビビりながら兵士に聞いてみる。

俺は何もしてないはずだ、ずっと後ろで立っていただけだし。


「いいから来てくれ」


仕方なく頷き俺は前へ移動する。

まさか俺はこのまま首を斬られるのか?

いや、俺は絶対に無礼なことはしなかった!!………しなかったよな?いや、もしかしたら俺が気づいてなかっただけで本当は気づかぬうちに無礼をはたらいたのか?

考えれば考える程ネガティブな考えになってゆく。

そして俺は王様の前に立つ。

近くで見るとさらに迫力がある。


「もしや、この少年ではありませんか?」


兵士が王様に言う。それを聞いても俺は意味が分からないままだ。

すると今度は王様が俺の顔を数秒見てきた。

あぁ、俺はこれから殺されるのか、覚悟は出来てるさぁ殺せ。

すると王様は俺の顔を見たまま俺に言った。


「うむ、君で間違いない!!」


そう言うと王様は懐から一枚の紙を出した。

その紙と俺を交互に見て、王様の表情が明るくなってゆく。


「あの、いったいどういうことか教えてくれませんか?」


俺がこのまま訳の分からないまま話を進められたくないので、いい加減どういうことか聞きだす。


すると王様は俺の想像を遥かに越える衝撃的なことを言ってきた。


「単刀直入に言う。君はこの世界を魔王から救う勇者だ!!」


「え……………?」







「「「「「「ええーーー!!!!!!」」」」」


俺を含め村人全員が声を張り上げた。

俺が勇者?あり得ない!!どういうことだ、何かの冗談か!?

俺だけではなく村人全員がそう思った。


「驚くのも無理はない、誰もいきなり勇者などと言われ、素直に納得できる訳がない」


「そんなわけありません!!きっと何かの間違いです!!」


「それもそうだろうな、だがこれが証拠だ」


王様が言うと、さっきの紙を俺に見せてきた。


「これは我が国一番の預言者に預言してもらい、絵に写したものだ。そう、ここに描かれている人物はその預言者が預言した勇者の顔だ」


その紙見て俺は驚きを隠せない。

そこに描かれている人物は紛れもなく俺………………









ではなく、もう死んでしまった兄の顔だった。

そう、王様は兄と俺を間違えている!?


しかし、俺と兄を間違えるのは仕方がない。

なぜなら俺と兄は顔がかなり………いや、もうほぼ一緒だった。

俺が産まれた時はまだあまり似ていなかったが、俺が十四歳になった頃には、俺達を長く世話してくれていたライムおばさんですら、身長と髪型以外では全く見分けがつかなかった。


ということは、兄がいない今俺がこの紙に描かれた勇者だと皆思っているのか。


「これで分かっただろう?君はこの世界の魔王を倒せる唯一の希望なんだ!!」


俺が勇者になる?

いや、正確には兄がなるはずだった勇者に俺が代わりになるのか………?















ここまで読んでいただきありがとうございました。

まだまだ続くのでこれからもぜひ見てください。

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