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特許系エッセイシリーズ

公序良俗違反のため不掲載とする。

まるで戦時中のような文言であるが、現代においてもソレは見ることが出来る。

どこで見ることができるかというと特許の公開公報である。


つい最近放送されたTVの影響により、特許にて妙な依頼が続出しているためあえてここでその件について触れてみることにした。


まず上記の文言は一体何かというと「発明の名称や明細書その他の内部における単語ならびに用語などが上記違反に触れているため、非公開とされた際に記載される代替となる文章」である。


どういう場合に上記文言に指し換わるかというと、基本的には卑猥な表現や政治的、宗教的な意図をもった内容を発明の名称にや明細書、請求項に記載することであるが、これら以外にも上記の記載にされることがある。


それは「企業名、商標」といった類の存在である。

ようは自己の思想を伝えたり、宣伝といったものを発明の名称に対して使えないわけだ。


これを聞いてJ-platで検索してみると案外「キャタピラ」などといった存在が普通に発明の名称に使われた状態で登録特許として存在していたりするので「は?何言ってんだコイツ」と思うかもしれないが、


基本的にこれらはアウトなのだ。(審査官が見過ごしているだけで、後にその商標を所有する企業がクレームを出し、訂正公報が発行された例がある。実際に昨年テトラポッドで訂正公報が出た)


まず、なろう読者はあまり知らないだろうが発明の名称というのは基本的になろうやライトノベルの題名に近い存在が多い。

○○と○○を混合させて出来る○○なる製造法とか、○○の○○的制御方法とか、そんな感じだ。


そこにおいては上記の思想や宣伝以外にも用いてはならない文章がいくつかあって、例えば「より容易となる」とか「より簡便な」といった今後さらに新たな発明が生まれるかもしれないにも関わらず、その発明があたかも優位性を持つかのような表現は用いることが出来ない。


今回の問題はある意味でそれに近い存在であるが、今、日常の業務において筆者の頭を悩ませているのはこれだ。


「○○式~」である。

この○○には人名が入る。


例とすると「山田式中華鍋」などが著名だし、実際に原因となったTVで紹介された存在だ。


何が頭を悩ませているかと言うと、「がっちりマンデーを見ました! ○○式~で出願してください!」という依頼が急増したわけだ。


がっちりマンデー。

筆者は見ていないが、どうも様々な中小企業などがどういった手法によって利益を得ているか紹介する番組らしい。


そこでどうも「○○式~でガッチリ」というものを見た企業が「これで出願してくれ!」と何も考えずに依頼しにきている様子である。


この場を借りてハッキリ言うが、「○○式~は商標登録されて日常に使われている商品名であって特許登録時に使われたものではない!」


何度説得しても、「通るかもしれない」などと、あまりに言うことを聞かない依頼者のため、私は本当に出願してどうなったかをそのクライアントに見せたわけだが、そこに並んでいる文字こそ「公序良俗違反のため不掲載とする。」であった。


しかも、その案件は明細書内にも大量に「○○式~」を用いたため、その部分が全て「公序良俗違反のため不掲載とする。~は~によって~」とかいう意味不明な文章構成になっており、これを補正、訂正して「きちんと特許化できるのか?」怪しいレベルになっていた。


特許で重要なのは請求項、つまりクレームと呼ばれる特許請求の範囲であるが、ここにも「公序良俗違反のため不掲載とする、○○の発明」なんて書かれてるともはや何を請求しているかわからなくなる。


これだとほぼ間違いなくそれを理由とした拒絶理由通知(拒絶査定ではない)が届くのだが、そういった内容を3時間以上に渡って説明しても納得しないために最終的に相手が他の所へ行くといってキャンセルしてしまった。


が、キャンセルした先の数件で門前払いされ、再び戻ってきて結局引き受けることになり、大幅な内容の書き換えが生じ、その分を請求したために本来以上に費用がかかった出願となり、どう考えても出願人の負担が増えただけで代理人としても何1つ嬉しくない状態となったのだ。


にも関わらず他にも同様の依頼が殺到し、正直言って困惑しているが、番組内でそういった「解説」をしてくれないと、ガッチリどころか企業は負担増でガッツリメーデーになりかねない。


私が常日頃こういったTVで思うのは、視聴者を誘引するならば正確無比な情報を提供しろということだ。


経営者は「その方が響きが良くて儲かる」などと聞いたら、この不景気の時代、少しでも儲かるように努力するだろう。


それが間違った方向性への努力だとしても、情報を知らなければ「社員のためになる」と思ってやってしまう。


結果的に「出願費用が通常の2倍かかった」なんてことになって初めて経営者達は「番組の話に一部誤認するような内容があった」と気づく。


その道の人間であればわかるが、知らない人間は本当に出願してそのまま「公序良俗違反のため不掲載とする。」という文言によって押しつぶされ、しかもそういう状態の出願は審査請求をしてもまともな取り扱いのされない存在となり、最終的に意味の無い損益ばかり生む案件となる。


なぜ損益を生むかというと、特許は「登録」されなくとも公開されるからだ。

公開された技術は既知のものとして扱われ、以降それをそのまま出願することは出来ない一方、他の企業は自由に利用することが出来る。


ライセンス料請求は「登録」された状態の存在でなければ権利主張は出来ない。


だから公開される前に登録がほぼ不可能な状況になると、「分割出願」や「取下」といった形で公開されないように調整するわけだ。(公開前に取下すると、ほぼ同一案件で内容を調整して再出願可能だが、これは先願主義の日本においてはある意味でリスクの1つ)


あえて「拒絶査定」を1年4月前(1年6月に公開される一方、その前にデータが登録され、取下しても公開される月日であり、業界内ではこれを「公開準備段階」と呼ぶ)に確定してしまい、非公開となるよう調節させる方向性もある。


(ただし、上記の場合、特許庁側のミスによって公開される事があり、基本的には取下を確定してしまうほうがリスクは少ないが、出願取下書も基本的にかなりの費用が請求されるために企業によってはこのリスクを理解していても出願費用が嵩むからと取下書提出を依頼しない者たちもいる)


だが一旦交換されてしまえば「公序良俗違反のため不掲載とする。」という内容が並んでいても、スペシャリストであればその内容を読解することは可能だ。


そうなると非常に重要な技術を無償公開し、しかもそれらについて利益享受すら不可能な状況となるわけで、私たちみたいなゼネラリストの立場は「いかに企業に利益を与えうるか」「いかに技術者が望む技術保護体制にできるか」を日々考えて活動している。


そんな状況で彼らを惑わすようなモノを平然と公共放送で流すのはやめてもらいたいな。


こういった場合、企業は結局「自己責任」という言葉の下、泣き寝入りするしかない。

本来、そういった企業を支える立場の者があたかも企業に対して弱者を省みずに金銭を要求する加害者のようになってしまう。


そういった状況を回避するために経営者達にも知識をつけて欲しい一方で、ちゃんと調べろテレビ局と叫びたくなる筆者であった。


ちなみに余談だが、明細書内に「登録商標」が用語という形で無断使用されている場合、その件が通告された上であえてそのままの内容で公開されることがある。


これらは特記事項という形で「商標が使われている」という記載が公報内に記載された上での行為なのだが、別段これは商標権利者に許可を取った上で行った行為ではないので注意が必要だ。


ようは自社のものが他社の発明の中の名称や明細書などに勝手に使われたのに特記事項によって済まされる場合があるということだ。


良く見るのが「キャタピラ」もしくは「カタピラ」だが、これは特殊自動車免許にも「カタピラ限定」とかいう文言があったりするから仕方ないのかもしれない。

キャタピラ、貴様は一般に浸透しすぎたのだ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 ナイロンとかケブラーも不味いでしたっけ。 [気になる点] クライアントの依頼の経緯を読んで、すでに販売中で公知公用でないのかな?と心配になりました。 落ちるまで販促資料に…
[一言] 21世紀なので商標が一般名詞になった事例として「キャタピラ」をつかっていますが、30年前なら「ウォークマン」や「セスナ」も事例として入ってくるでしょうね。 ところで質問ですが、パワーショベ…
[良い点] 面白かったです。 [気になる点] 弁理士ってなんぞや、と調べてみたら、試験が超難しいじゃないですか。 スゲーです。
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