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〔六十一話〕 平穏の中で

 少年の新しい日常。

 それは緩やかに、穏やかに流れてゆく。

 叶まで学園を休んでしまったわけだが、結果としてそれは成功したといっても良かった。


 作戦参謀を康、叶、七夜の三人に強化したことで防衛策の問題点や、味方の戦力分析などが予想以上に強固なものに変わっている。


 叶曰く『あの馬鹿いつの間にあんなこと言えるようになったのよ』とのことだが、七夜のことをどれだけ過小評価していたのか、もしくは戦闘以外何もできないと考えていたのか、ともかくいい方向に誤算があったため、真紅にはやることがなくなってしまったのだった。


 余った時間を高嶺家が用意した一室で過ごそうと、指定された扉を開いて中に入る。大きなベッドと机だけが置かれた質素な部屋。趣味が多いわけではないので丁度いいのだが、少しだけ寂しいとは思う。


 真紅は新しく手に入った刀を鞘から抜き放ち、その波のような刀身へと目を向けていた。


 引き込まれるような魅力。どこか狂気を孕んでいる、美しい曲線。そもそもは刀なんてどれでも同じだと思っていた真紅だが、この刀だけはどこか違う印象を持っている。



――俺専用の、刀。



 その一言だけで胸が高ぶる。握り締めるだけで体が震える。何かの禁断症状でも出ているのかと考えたが別にそんなものは真紅にない。しいていうならばおそらく、失っていた家族を取り戻したような感覚に近いのだろう。



――喜んでいるのか、俺は。



 自分の感情を理解したとき、真紅の唇にはうっすらと笑みが浮かんでいた。


「真紅、ちょっといいかな?」

「……ん?」


 扉からちょこっと頭を出したのは、この家の家主である少女だった。少し遠慮がちなその声と表情からはどうにも育ちのよさが抜けない。いや、育ちがいいこと自体は別にかまわないことなのだが、その少々引っ込み思案な性格は少なからず直すべきだろうと真紅は考えている。


 刀を納め、ゆっくりと京へと歩み寄る。


「どうしたんだ、京? そんなおどおどしてないで、お前の家なんだからしゃきっとしろよ」

「は、はい……わかっては、いるんだけどね」


 たはは、と小さな苦笑を浮かべながら京はそっと声をかけた。


「あの……さっきの、愛美ちゃんのことなんだけど……」


 愛美がキレたことは京にとっては予想外のことだったらしい。彼女と付き合いが深くなればなるほど、あの怒りようは想像できなかったのだろう。だが真紅は彼女の行動を当然のように受け入れていた。


 何一つ説明しなかったことには真紅なりの理由があった。


 愛美や空を戦力がいとして考えていたわけでは決してない。むしろあの二人にしかできないことを考えて、今回のことは説明しないようにと決めたのだ。当然そうすることで愛美と空の反感を買うことは承知していたし、ああやって行動に移されたことも想定していた。予想外だったのは、空が何一つ文句を言わなかったことだろうか。


 あいつなら何か、阿呆みたいにテンションを上げてでも何かを言うだろうと思っていた。


「ん、大丈夫。お前が思ってるみたいに、気が思い状況にはならないはずだよ」

「えっと……どうしてって、訊いてもいい?」


 意識して笑顔を浮かべ、真紅はその小さな頭にそっと手を乗せる。


「あいつが、そんな些細なことを引きずるタイプじゃないからだ」

「え?」


 少し大きめの声を上げて真紅は京だけではなく、もう一人の、廊下の角から服の袖だけが見えている相手に聞こえるようにその言葉を放った。びくんと反射的に反応した袖を見る限りではその人物は真紅が想像した相手で、言いたかったこともおそらく間接的に伝わっているのだろう。聞き耳を立てるというか、代わりに誰かを使うなんてらしくないとは思うのだが、そこはさっきのやり取りも考えれば仕方がないのかもしれない。


 ともかく、真紅は小さく溜め息をついて京の頭に置いた手を優しく左右に動かした。


「ふ、ふあぁぁ!?」

「ん? どした、変な声を出して?」

「や、だ……だって、だって!」


 顔を真っ赤にして抵抗の意思を示す京に真紅はただ首をかしげる。かまわず右手をわしゃわしゃと動かすと、京はなにやら気持ちのよさそうな、恍惚とした表情を浮かべて口をだらしなく開いていた。


 なんだか、面白くなってきた。緩急をつけるように手を動かすと時にはじれったそうに目を細めたり、時には嬉しそうに目を閉じたりして、目で反応を示してくれる。嗜虐心をくすぐるというのはおそらく彼女のような存在、反応を示しているのではないだろうか。


「――何やってんのよ、この変態が!」

「へ? うっ……!」


 行為に夢中になっていたからか、彼女の接近に気づけなかったのは真紅の落ち度だ。飛び込むように腹部を捉えた彼女の右足は真紅の呼吸を止めるには十分な威力を持っていて、数歩後退すると共に膝をついて空気を求める。目の前が霞むほどの、おそらくは放った本人すら理解できないであろう攻撃は聡司との戦いよりもよほど凶悪だろう。


「な……何するんだよ、愛美」

「こっちの台詞よ! 京ちゃんのかわいぃ頭に何てことしてくれてんのよあんたは!」


 仁王立ちで京を守るように立ちふさがるその姿は一言で表すなら騎士。お姫様を守らんとする確固たる意思と、邪な心のまったくない澄んだ信念。彼女を表す言葉としてはこれ以上の言葉が存在するとは思えない。


 しかし今は自分の安全のほうが大切だと、真紅はさらに数歩後退する。


「変なことはしていないだろうが」

「そんなわけないでしょ! こんな……頬を上気させた美少女! これ見たら明らかに、あんたが何かやったとしか思えないでしょう!?」

「何もしてないって。そこで見てただろう、お前」

「なっ……! あんた、知ってたの!?」


 墓穴を掘ったと理解しても時既に遅し、眼前で両手の拳から音を鳴らしているその姿は男よりも漢らしくて、真紅はどうやって退路を確保しようかと気づかれないように後方へと視線を送った。



 壁。壁しか、ない。



 なぜにこんな、端っこに部屋を用意されていたのか。荘介の小さな悪戯心と真紅の運のなさがこんな状況を引き起こしているのではないかと考えて、せめて刀を手にしていれば逃げられたかななんて悠長なことを考え始めていた。


「し〜ん〜く〜! 観念しなさい!」

「……逃げるが勝ち、だな!」


 こんなところで臨戦態勢になるのは自分でもおかしいと思いながら、真紅は自分の脳みそに指示を送る。瞬間、京や愛美の動きが緩慢なものに変わっていき、世界から音が消えていく。彼女たちの横をゆっくりと潜り抜けると、すぐに緊張を解いて頭痛が生じる前に元に戻っていく。


「え?」

「な、何ですか?」


 真紅がいきなり消えたことに驚いた二人の声。当然といえば当然の反応。けれどそれに何か言葉を残してやることもできずに、真紅は勢いよく駆け出していた。


「あ! ちょっと待ちなさい! 真紅!」

 気づいた愛美が駆け出す気配と怒りのオーラを背中に浴びながらも真紅はいそいそと庭へと向かう。


 まったく今日は厄日だな、と小さな小さな溜め息を残して。



―――――



 もの凄い勢いで逃げていく真紅とそれを追いかける愛美の背中を半ば呆然と眺めていた京は、我に返って小さく笑みを漏らしていた。


 学園と今の真紅たち、何が違うわけでもない。けれどどこか、立ち位置とでも言うのだろうか、そういったものの違いから京の目には今までとは違った存在に見えた。


 今までは遠い存在で、憧れにも似た感情を抱いていた相手。その人たちがこうして自分の家で馬鹿みたいに騒いでいる。どう解釈するかは人それぞれだろうが、京にとっては嬉しいことである。


 友達が家にいる。それだけでも彼女にとっては未知の体験なのだから。


 開け放たれたままの真紅の部屋に目を向けると、そこには興味深いものが存在していた。好奇心から室内に入り、その漆黒に鞘に手を伸ばす。



 重い。



 女の細腕、しかも育ちが育ちだけに京の腕にはズシリと重たくて、いったい何なのかという好奇心が加速していく。


 十字型の鍔をそっと撫でて、柄に手を伸ばす。手触りのいいそれを握り締めてから、京は数瞬の躊躇いの後、一思いに引き抜いた。


 波のような美しい軌跡を描いて、うっすらと伸びていく線。刀身の美しさに目を奪われて、京はそれが刀であるということを理解できずにいた。


「……綺麗」


 思いがけず口をついた言葉は京の本音。その育ちと違い、芸術なんてものは専門外の彼女だが美しいと思わせる。


「取り扱いには気をつけるべきじゃないかな」

「っ! て……天一さん!?」


 扉に片手をかけて意地の悪い笑顔を浮かべた少年、朝倉 天一。いきなり現れたその少年に、京はただ驚いて相手を確認することしかできなかった。


「へぇ……それが真紅の新しい刀か。どれどれ……」


 ゆっくりと歩み寄った天一は京の手からそっと刀を奪い取り、その刀身をしげしげと眺め回す。


 彼のことはまだよくわからない。


 真紅たちほど交流があるわけでもないし、元々人見知りである京にとってはどうにも正面からぶつかりづらい相手である。彼のほうは別にそうでもないらしく、他の全員と同じような態度で京に接してくれる。彼なりの気遣いで、京もそれに乗っかればいいものを、どこか遠慮してしまう自分を京は心の中で叱っていた。


「……参ったね、こりゃ」

「あの……どう、したんですか?」


 片手で額を引っかき、困惑したような表情を浮かべる天一。短い付き合いである京はもちろん見たことがない表情で、思わずそんな言葉をかける。


「いいや、ちょっと真紅に言わなきゃいけないことができたなぁっと思ってさ」

「え?」


 なんでもないよと首を振って、天一は刀を納める。そのままひょいとベッドの上へそれを放り投げ、小さく欠伸をもらした。


「それより京ちゃん。人の部屋に勝手に入るのは、感心しないかなぁ」

「え、えと……ごめんなさい……?」

「ははは! 冗談だよ、冗談。ほら、行こうぜ。そろそろ真紅を助けてやらないと」


 笑いながら歩いていく彼の背中を眺めながら京は一つだけ理解した。


 この人、最初から見てたんだなぁ、と。



 え〜〜……気づけば十二月ですね!




 いや、放置してたわけじゃないんですよ? 頑張ってたんですよ?

 という言い訳はそろそろ厳しくなってきたんじゃないかと思う今日この頃。


 やっとこさ更新にこぎつけたわけですが、まぁ気づけば二週間近く。やぁ……そろそろ皆のキャラクターを忘れてきた頃でした。ふぅ危ない危ない。


 とりあえず真紅の新しい刀や新しい生活。そんなものを描ければと思い書いた回ですが、いかがでしたでしょうか。


 まぁ内容忘れ始めたのは私だけではないだろうと思います。そして今後とも、更新が遅れるだろうと思いますのでますます何もわからなくなるでしょう。




 やばい、壊れ始めてる。



 こんなそろそろ廃人になりかけている作者が描く物語ですが、どうか見捨てないでいただけると幸いです。



 ではでは〜〜。

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