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〔四十七話〕 闇の中の戦い

 一匹の獣を倒すために、自らの信念を貫くために、少年は剣を手にする。

 先手を取ったのは真紅たちの方だった。中央の真紅が初手を攻め、七夜が鞭を押さえ込み、天一が決める。示し合わせたわけでもないのにそれが最も有効な手段だと理解できる。


 真紅の素早さは敵の撹乱に向いている。初手で決着をつけられるのならそれでもいいが、今の聡司がそこまで弱いわけがない。七夜の槍は真紅や天一の日本刀よりリーチがあるため、今は鞭の軌道を防ぐのに適していると言える。そして天一は真紅のそれよりも高い精度の技術を持ち、真紅が失敗した方法を取ったとしても今度は成功に導いてくれることだろう。


 まだ加速途中の鞭、その懐に潜り込むべく真紅は加速する。頭上すれすれで回転する鞭を警戒しつつ不知火の切っ先を聡司に向け、駆け抜けるように突き刺そうと考えていた。


 だが聡司にも相手の出方を判断する能力は残っているようで、横に回転していた鞭をいきなり頭上に振りかぶり、力いっぱい地面へとたたきつけた。


 前方に向いていた勢いを何とか殺しながら、真紅は横に飛ぶ。地面を抉る一撃は芝を易々と吹き飛ばし、弾けた土を思わず片手で払ってしまった。



 その一瞬、聡司の姿を見失ってしまう。



「上だ、真紅!」



 天一の声に反応して、上を見ることなくさらに後退。直後鞭の一撃が真紅のいた場所を襲い、衝撃が空気を震わせる。


 距離をとってしまった真紅の代わりに七夜が距離を詰める。幸い回転が止まっており、七夜の腕力なら聡司の鞭を防ぐこともできるだろう。次の一手に備え体勢を整えながら真紅はその動きを注視していた。


 強引に突き入れるのではなく、牽制を混ぜた高速刺突。力任せな攻撃よりも、やはり七夜はこっちのほうが似合っている。本人もそれを自覚しているのだろうが、速さだけならば聡司の鞭は七夜のそれに遠く及ばない。


 さしもの聡司も七夜の槍は怖いのか、むやみに押そうとはせず交代しながら隙を突こうとしていた。体力まで無尽蔵のように素早い動きで槍の軌道から逃れている。


「天、左右から仕掛けるぞ」


 了承の合図を確認する必要もなく、真紅は聡司の左側へと駆け出した。本当に不思議なことだったが、示し合わせる必要すらなくほぼ同時に左右へと到着していた。


 二人の姿を確認して七夜の槍が一瞬止まる。反撃の隙だと判断した聡司が反撃に転じようとしたその出端こそが、二人の狙う瞬間。


 真紅は縦に、天一は横一文字に斬りつける。左右同時に繰り出される斬撃はさしもの聡司も戦慄を覚えたのか、鞭の柄を地に叩きつけ跳躍した。


 空中で無防備になったところへ七夜の投擲が迫る。素手で防ぐにはあまりにも威力がありすぎる。


 今度こそ、止めを刺した。その確信はだが、またしても打ち破られてしまった。


 七夜の投げた槍を聡司はその牙で挟み、何事もなかったように着地する。今にもうなり声を上げそうなその影はまさに獣と言うにふさわしい。


「……いやぁ、流石にこれは予想外だね」


 言葉こそ軽いものの七夜の声にはわずかな焦燥が顔を覗かせていた。


 噛み締めていた槍を手に取り、聡司は持ち主の方向へ投擲する。七夜の投擲よりも速い一閃は素手では止められないと判断して、真紅は七夜の前に躍り出て、その一撃を弾いた。


 宙を舞う蒼い槍。自らの槍を取り戻した七夜はありがと、と軽く礼を述べて構えをとる。


「猛獣相手にしてる気分だな。どうするよ、これ? 波状攻撃でも仕掛けてみるか? 案外怪我の一つくらいでおさまるかもしれないぞ」

「その程度で倒れてくれるなら、ほんと助かるんだけどね」


 二人の言葉を半ば流して聞きながら真紅は対抗策をひねり出そうと思考をめぐらせていた。


 脅威なのは並外れた身体能力と巨大な鞭の二つだ。速さは真紅や七夜のほうがはるかにあり、技術面においては天一に遠く及ばない。


 三対一であちらの独壇場になっている理由はやはり鞭のほうに問題があるのだろう。どうにかしてあれを止めることができれば勝機はある。


 しかし言うほど簡単なことではない。破壊力だけは異常にあり、位置取りを間違えてしまえば高嶺の屋敷を破壊されてしまう恐れもある。今の聡司の常態から見てもその可能性は低くない。必然的に真紅たちが取れる手段は限られてくる。


 鞭を少しの間だけでも使用不能にする方法。真紅の頭の中にふと、妙案が浮かんだ。成功する確率は低いが、やってみる価値はある。


「天、七夜」


 沈黙する聡司を警戒しつつ真紅は二人に作戦を説明する。


 戦闘中になんとも情けない構図だったが、二人は同じような笑みを浮かべていた。


「いいんじゃないか? 手を拱いているよりはましだろう」

「ま、作戦としては安直だけどな」


 二人の中途半端に辛口の発言に苦笑しつつも、真紅は日本刀を構えなおした。


 足を止めた聡司へまずは真紅が駆け出す。聡司の意識を少しでも自分に向けるために左右へ進路を何度も変え、撹乱する。上手く術中にはまった聡司は真紅だけに敵意を集中し鞭の直線が真紅に向けて放たれる。


 紙一重でそれを避け、鞭の横っ腹に刀を思い切り突き立てる。当然硬度の高い鞭に刺さることはなかったが、その一撃は鞭の軌道を大きく変化させ、先端のあたりから曲がり始める。この真紅の一撃こそ絶対に失敗してはいけない一撃。聡司の鞭を封じるための布石だった。


 天一の両手を足場にして七夜が高く跳躍する。建物五階ほどの高さまで跳んだとき、七夜は全身のバネをもって地上へ向けて投擲した。


 重力を味方につけた槍は鋼鉄の鞭でも防ぎきることはできず、鞭のちょうど中心に深く突き刺さった。


 それを確認して天一は勢いを失った鞭の下に潜り込み切り上げる。切り裂くことができるならそれでも良かったが、天一の力をもってしても切り裂くことはできなかった。


 完全に力を失った鞭を、天一は野球のバッターのごとく不知火を構え、振りぬく。最初とは真逆の力を受けた鞭は、七夜の鞭に巻きつくように回転し、槍を完全に覆うほど多く巻きついていた。


 天一のバッティング技術に舌を巻きつつも、真紅は武器を失った聡司に肉薄する。


 今度こそ、とった。再三の失敗を乗り越えて、今度こそ――




――瞬間、聡司の体が掻き消えた。




 驚愕するよりも速く、真紅の中から音が消えうせる。目視できない聡司の位置を把握し、その攻撃を回避すべく跳躍する。


 空中に逃げた真紅の背後に聡司の姿が浮かび上がる。


 七夜を倒した奥の手を使っても、聡司から逃れられない。空中に逃げたためさらに回避することもできず、簡単に言うと絶体絶命という状況に陥っていた。


 聡司の研ぎ澄まされた爪が鼻先に迫ったとき、真紅の視界が急にぶれた。同時に横腹を襲う衝撃は痛みを伴わず、誰かに優しく押しのけられたような感覚だった。


 その原因に気づいたとき、真紅は気づかぬうちに声を荒げていた。


「七夜!」


 着地した真紅の目に映ったのは真紅を庇って爪を受けた七夜の背中と、薄闇の中でもはっきりとわかる鮮血。真紅の代わりとなって傷を負った七夜は半分閉じた半眼を真紅へと向け、精一杯笑おうと努めていた。


 また、守られた――



――いったいいつまで俺は”守られる側”にいなければならないんだ?



 怒りと自己嫌悪と、わずかな焦燥が真紅の心を覆い尽くす。



――死なせない。絶対に。



 たとえ生き返ると知っていても、七夜を、仲間を守りたいと願っていた。



 右足が芝の地面にめり込むほど強く、踏み込む。どれだけ空中で動かれたとしてもかわされない攻撃を。全身の筋肉を総動員して、今度こそ聡司を止めてみせる。


「併せろ、天!」


 声をかける必要もなかったように、いつの間にか天一は聡司を挟んで反対側に位置取っていた。


 刺さっていた爪を腕ごと強引に引き抜き、七夜はその体を押しのける。背中越しに聡司の位置を確認して、天一より少し早く駆け出した。


 聡司が肉薄に気づき、両手を真紅へと突き出す。右手に握った鞘で防ぎ、左手の不知火で下段から大きく振りぬく。防御に使った鞘は破壊されたものの、それに見合う結果を得ることはできていた。


 不知火の白刃が聡司の右肩を捉えていた。勢いよく噴出す生暖かい鮮血を顔のいたるところに浴びながら、理性を失った顔に驚愕の色が浮かんだことを確認し、真紅は口元だけで笑って見せた。


「お前の負けだよ、烏丸」


 もう一人の存在に気づいて聡司は振り返る。間髪いれず逃げるように横へ跳んだが、天一の刃を逃れられるとは思えない。


 天一の刃が聡司の胴を通り、少し遅れて上半身と下半身がズレる。獣のような大きな咆哮を残して聡司は仰向けに倒れ、目に宿っていた奇妙な光が完全に消えていく。



 刀を納める鈍い金属音が、周囲の沈黙に染み入るように響き渡るのだった。


 今回は筆力のなさを痛感させられる一話でした。


 思ったように戦闘風景を書くことができない。これがやはり一番の問題でした。いろいろと、もっとこうしたらいい、こうすれば臨場感を出すことができる、ということが漠然と頭にあるのに描写が下手になっていく。ある意味では勉強になる一話だったといえなくもないですね。


 ではでは〜〜。

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