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〔三十七話〕 真実への一歩

 自分の知らないところで何かがある。漠然とわかっていたとしても、今の少年には知るすべがない。

 康が持ってきたのは一枚のプリント用紙。真新しいことから見ても、数分前にプリントしたものだろうと想像がつく。


 しかしそこに羅列されている人物には、思い当たるものがほとんど無い。


「なんだ、これ?」


 当然の質問に、康は満面の笑みを浮かべて答える。


「この学園に金銭的な援助をしている人物、理事に名を連ねている人物、設立に関わった人物のリストだ」

「そんなものをどうやって仕入れてきた?」

「手薄になった職員室に潜入するのも手だったんだけど、PC室のパソコンを拝借してハッキングをかけた。学園のデータベースって言うのは、思った以上に防壁が薄くてね」


 あっけらかんと言ってのけるがその内容は易々と聞き逃せる代物ではなかった。


「……叶、お前の十八番が取られたぞ」

「えぇ!? 私の長所ってそこだけなの?」


 大袈裟に落胆して見せてはいるが、さして傷ついた様子は見られない。もともと戦闘、または暗殺に特化しているナイトメアの一人。そういった分野以外で貶されたところでさして問題はないのだろう。


 真紅にとってはそんなことはどうでもいいことだった。


 問題は、そこに列挙されている人物の中に、何人かだけ見覚えがあるということ。


「高嶺 荘介。それに……朝凪、白羽?」


 かつての理事の中にあった二つの名前。京の父親と、死んだはずの父、白羽。


 もっとも理事として在籍していたのは死ぬ数年前までとなっているが、自分の父がこの神凪学園の理事だったことに少なからず驚いている。


 そしてもっとも驚いたのは創設時の、理事長。



――神坂 黒陽。



 なぜ、祖父の名がここに連なっているのか。


 そもそも真紅が引き取られるまで、祖父が何をやっている人なのか知りうるすべはなかった。否、知ろうとしなかった。



『お前のお爺ちゃんはな、すっごい人なんだ』



 何がどうすごいのか、父は何一つ教えようとはしなかった。出会って、剣や戦い方を教わっているうちにそれが祖父の凄さなのだと認識してしまっていた面もある。


 だが、それが誤認だったということはないだろうか。父が言っていた凄さは、こういった人の上に立つ素質だったのではないだろうか。


 今になって祖父のことが気になる自分に気づいた。


 あの祖父なら大丈夫、どこかで元気にしているという自己暗示は果たして正しいのだろうか。もしかしたら祖父はもう――


「どうかしたのか、真紅?」

「……いや、なんでもない」


 平静を装って、真紅は手にしていた紙を返す。持ち主の手に戻ったそれはしかし、横から割り込んできた科学教師の手によって掴まれ、持ち主の手から離れていく。


「……これ、ほとんどがあの”企業”の幹部ね。高嶺、朝凪双方の名前もあるし、ほぼ間違いないでしょ」

「へぇ、見ただけでわかるんですか。流石ですね」

「……元々気づいていたから、というのも含まれているんだけどね。もっとも私たちを創りだしたあの男まで、ここの理事をしていたとは思わなかったけれど」


 どこか遠くを見るような叶の瞳。だがその奥底には計り知れないほどの憎悪の炎が息づいている。


 ナイトメアとして生を受けた叶は、決して幸せではなかったのだろう。ただ創られただけならば辛い思いもしなかったのかもしれない。でも彼女は欠陥品として、組織内でも弱い立場にいた。そんな思いをさせた元凶に恨みを抱くなというほうが、無理な話だろう。


「まぁ、もう死んじゃった人間だから問題はないのかもね」

「もう、死んでいるのか?」

「ええ。私ともう一人が脱走したとき、もう一人のほうが殺したわ」


 前々から気になっていたことだが、この機会に聞いてしまってもいいだろう。


 真紅は意を決し、その問いをぶつけた。


「なぁ、叶。前から気になっていたんだが、お前と一緒に脱走したそいつは、どうなったんだ?」


 叶の情報網、ハッキング能力を駆使すれば大抵の情報は手に入れることができるだろう。彼女がそのもう一人についての情報を仕入れようとしなかった、などということはないだろう。ナイトメアの中でも彼女には仲間意識が強いことは、錬の一軒でわかっている。


 一つ間をおいて、叶はそっと言葉を吐いた。


「……捕まったわ。私たちが脱獄した、二年後に」

「……そう、か。すまない」

「なんで謝るのよ。あいつが弱かったのがいけないの。ただ、それだけのことよ」


 そうはいうものの、叶の表情にはどこか無理があるようだった。


「なら、そいつは今……」

「殺されちゃったんじゃない? 組織内での裏切りは異例。計画の主導者を殺したとあっては、それも逃れられないんじゃないかしら」


 声が震えている。言葉にすることで、その事実を受け入れようとするように。


 それだけに彼女がどれだけその仲間を気にかけていたのか、わかる。


「そいつは、何て言うやつだったんだ?」


 苦しめるとわかっていても、それが彼女の決別ならば最後まで付き合ってやらねばならない。


 叶は目を閉じ、けれどすぐに答えを返した。


「烏丸……烏丸 聡司よ」


 その名を口にしたとき、一筋の光が彼女の閉じられた瞳からこぼれ、頬を伝った。



――――――



 いつのことだっただろうか。朽ちることもなく、限界まで痛めつけられ、彼が理性を失ったのは。


 一見すると普通の人間。少し偏った趣味を持っているだけの、青年のように見えるだろう。


 事実、彼は企業の人間にナイトメアの幹部と認識され、上位十一人しか許されないナンバーを得ることができている。


 だがそれは彼が本当に狂っているときの、力が認められているからだ。


「あんたは、俺たちよりよっぽど強いはずだった。力はともかく心の強さは、もしかしたら錬さんよりも上だったかもしれないのに」


 ガラスの向こう側で、死んだように貼り付けにされている男へと七夜は独り言のように言葉を投げかける。


 聞こえていないことは承知しているし、そもそも聞こえていたところで、彼がまともな反応を示してくれるはずがないことも知っている。


 六年ほど前の脱走は、七夜の記憶にも新しい。その際に脱出したのは叶と聡司。ナイトメアの中でも錬や七夜と親しい位置にいた。


 だから、だったのかもしれない。


 錬が、不敗と言われていた不動のゼロ・ナンバーが死んだことに焦った組織の人間が六年前、ナイトメアの強化と称して叶をモルモットのように扱おうとした。


 その情報を入手した聡司と、叶の世話役だった男。二人が企てた脱出作戦によって叶は自由を得た。


 代わりに世話役だった男は死に、数年後、七夜を含めた上位ナイトメアを複数投入した捕縛作戦によって、聡司は少ない自由を奪われた。


 いくら拷問されても叶の行方は知らないといい続けた聡司は、数年間の拷問の後、理性を失った。


 優しかったかつての面影はなく、下位のナイトメアが失敗するごとに拷問を行い、その記憶を抽出して様々なものを得ている。


 歪みきった感情と、抑制不可能な行為。元々強力な力を持っていた聡司が理性を完全に失ったとき、その力は二番を背負う七夜でも抑えることが難しくなる。


「……悲鳴を上げることも死ぬこともできず、十字架に貼り付けられた君に救いはないのかもしれない。でも君の信念が、叶を守っている。誇っていいよ」


 かつての彼ならばそれだけで満面の笑みを見せ、死地に赴くこともいとわなかっただろう。しかしもう、明朗快活な彼の表情は見ることができない。


 捕縛作戦に、七夜は参加していない。錬たちと親交があったことは組織の内部に知られていたため、彼には自粛という命令が下されていた。手心を加えては困ると判断されたのか、共謀して七夜にまで逃げられては困ると判断したのかはわからない。もし七夜が参戦していたとしたら、確かに聡司の味方についただろう。



 錬を死なせてしまったという、罪の意識から。



「すまないな。変な話をしてしまった。もう時間がないから、少し勇み足になっているのかもしれない」


 真紅との約束を果たすため、残された時間は今日を含めて三日のみ。その間に残っている問題を解決していかなければいけない。


 真紅と戦った後、自分がどうなるのかわからないから。


「はは……我ながら滑稽だ。錬の真似事でもしようというのか、俺は」


 七年前、錬が白羽暗殺を命じられたときも、彼はいろいろなところに細工をしたり、仲間たちと最後の会話を楽しんでいた。


 ともすれば今の七夜は、かつての錬と同じ道を歩こうとしているのかもしれない。



 信じた人のために、信じたものを信じぬくために、死ぬ覚悟。



 七夜は自分の口元に浮かんだ笑みに気づかぬまま、聡司を監視する部屋から一歩踏み出すのだった。


 うわぁ、やっぱり間に合わなかった。昨日中には更新しようと思ってたのになぁ……。


 さてちょっとずつ疑問が浮き彫りになり、七夜の行動も活発化してきました。

 うん、なんかファンタジーっぽい。



 ごめんなさい、調子に乗りました。


 もう少しファンタジーっぽく、を心がけておりますので……えと、がんばります。


 ではでは〜。

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