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〔二十二話〕 闇の中の遭遇〜蒼き騎士〜

 蒼い、槍。

 漆黒の中でも浮き上がるその凶器は、少年の狂気を駆り立てる。

 嫌な予感は的中していた。


 さっきの声の主が気になって戻ってきてみれば、ちょうど窮地に陥っていた。半ば反射的に体が動いてしまったものの、助けたことに後悔はなく、目の前の敵に遭遇したことにも後悔はなかった。


 むしろ肩透かしを食らっていたのだ。せっかく企業に潜入したものを、誰一人として敵が現れない。それでは自分の力がどこまで通用するものなのかわからない。


 巨大な丸太を叩きつけられたような衝撃を刀の上から感じつつ、真紅は刀を一閃し、その敵を後方へと突き飛ばした。


「お前……どうして」

「なんとなく、だ」


 本当にただの勘だった。


 こっちに向かえばさっきの相手がいる。あっちに向かえば戦える。


 その感覚が真紅の足をこの場所まで連れてきたのだ。


「くく……きゃははははは! また、また獲物がきたぁ!」

「……何だあれ?」

「いきなりああなったんだ。最初はまともなやつだった」


 苦しそうに息を吐いているのは少年だった。声の質からそんな気はしていたが、体格などを見て確信した。顔は暗闇のせいで見えない。


「動けるか?」

「もちろん……ったく、右手がいったかもしれないな」


 そう愚痴りながら転がってる日本刀を左手で拾い上げ、少年は真紅と肩を並べるように構えた。


 何一つ打ち合わせをしたわけでも、それどころかまともな知り合いですらない。だというのにここまで息の合った動きが出来るとは、真紅だけではなく少年もまた驚きだったのではないだろか。


 二本の刃を向けられても、目の前のナイトメアは奇妙な笑い声を上げながら、短い鞭を片手で振り回している。その姿からは中級のナイトメア程度ではないかという印象を与えられるが、さっきの衝撃はその程度のものと言い切ることが出来る衝撃ではなかった。



 おそらくは、叶が言っていた十一人の中の一人だろう。



 耳元の機器のスイッチをオンにして、声を投げる。


「おい、ナイトメアの中で鞭を使うやつって、いるか?」


 声を投げるものの、応える声はない。


 おかしいなと首をかしげながらも、目の前の男から放たれる攻撃を二人同時に回避し、真紅は敵の左へ、少年は右へと移動した。


 とりあえずは倒すしかない。刀を正眼に構え、真紅は相手の武器に注意を向けた。


「仕留めるなら、ここで……」


 ここで上級兵を倒しておけば今後の戦いに少しの余裕が生まれるだろう。戦力を削ぐ面ではこの上ないチャンスともいえる。



『……しん……にげ……! そこ……なな……!』



 スイッチを入れたままだった機器から、声が漏れ出す。


 それが注意を促すものだと気づくよりも早く、現れたその敵に真紅の瞳は完全に奪われていた。


「……き、さま……!」


 闇の中でも浮き上がってくるような蒼穹の槍。刃が水のように透明で、装飾が施された美麗の槍はかつて――



――かつて、錬を殺した男のもの。



 鞭の男をかばうように現れたその敵は、少年の方向へは目もくれず、じっと真紅の方向へと殺気を向けている。


 真紅は鞭の男など目もくれず、その槍へ向かって突進した。


「なっ! おい!」

「そっちは任せた!」


 少年の動揺したような声を背中に浴びながら、真紅は刀を鞘に納めながらその男へ向かって駆けてゆく。


 相手の槍、その間合いに入るか入らないかというギリギリの場所まで駆けると、真紅はそこで急停止をかけ、刀の柄に手を添える。


 右足を少し前に出し、左手で鞘をしっかりと押さえ、体制を低く保つ。



 決めるのなら、一瞬で。



 さらに一歩、前に踏み出した真紅の鼻先に、槍の鋭い矛先が迫る。しかしそれを紙一重でかわし、刀を力いっぱい引き抜いた。


 一陣の風を纏った刃は蒼の槍と衝突する。互いにその衝撃に押し返され、数歩後退し、しかしそれでも体勢だけは崩すことなく敵の得物を注視していた。


「……久しぶり、と言うべきなのかな?」

「お前なんかと……会った覚えはないんだがな」


 そんな見え透いた嘘に騙される相手ではないだろうが、それでも真紅はそうやって嘘をつくしかなかった。


 どれだけ怒っていたとしても、真紅個人を特定されるわけにはいかない。幸いにも暗闇のおかげで真紅の顔も、相手の顔も見ることは出来なかった。


 それすら理解しているのか、槍を携えた男は鼻で笑い、頭上で槍を一閃した。


 風圧にやられたのか、周りの闇からガラスが割れたような音が響き渡る。


「……これで盗聴器のような無粋なものは無くなった。改めて、久しぶりだな、朝凪 真紅」

「……氷室……七夜」


 刀をもう一度納め、腰を落とす。切っ先が鞘先端に当たる直前の場所で止め、自身が持つ最大の力を手と足の指先に集中させる。


「覚えていた……いや、名乗ってはいないはずだから誰かに聞いたか。まぁ誰から聞いたかなんて無粋なことは聞かない。あの時の子供がこんなに成長しているなんてね。俺も年をとったなぁ」

「……長々と話をするつもりは無いんだがな」

「まぁまぁ、そう慌てるなって。こっちは久しぶりに槍を握るんだ。少しくらい感覚を取り戻す時間をくれたっていいだろ?」


 久しぶりだと七夜は言うが、真紅の攻勢をしのいだ正確な槍捌きと身のこなしは鈍っている人間の動きではなかった。それがナイトメアの特徴なのだと言われればそこまでなのだが、真紅は警戒心を強めつつ、七夜の言葉に耳を傾けた。


「ここであったがなんとやら、ってやつだな。七年前の借りを返させてもらうよ」

「借りがあるのはこっちのほうだ。錬さんの仇、とらせてもらう」


 真紅の言葉にしかし、七夜は動揺したような声を上げた。


「へぇ……既に取った仇を、もう一度取ろうって言うのかい? いや、そうか……君は忘れているんだね。大切なことを」

「なにを……言って……」

「はは……わからないならそれでいい。今の俺たちには戦うことしか出来ないだろう?」


 その言葉を皮切りに、七夜の攻勢が始まった。


 漆黒の中を駆ける三本の筋。それが槍の軌道だと脳が気づくよりも早く、その中の二本を鞘と刀身で受け止め、最初から当たる気配が無かった一本を放置する。しかし二本を防いだ直後、最後の一本が急速に軌道を変え、真紅の鼻先に迫る。体をひねり、鞘を落としながら何とか避けたものの、さらに迫りくる槍の一閃に、たまらず後方へと退いた。


 確かに槍の動きは見ることが出来る。しかし見ることと防ぐことでは難易度が違いすぎた。



 攻勢に回る隙すら、見当たらない。



 セカンドナンバー、氷室 七夜。数秒間対峙していただけなのに、真紅は気づかぬうちに肩で息をするほどの消耗を余儀なくされていた。


「やるね、今のを凌ぎきるなんて」

「はぁ……はぁ……この、なんて速さだよ」

「でも君の力はその程度じゃないだろ?」


 さっきから真紅の理解できないことを七夜は言う。



 借りがある? その程度じゃない?



 そんなものありはしない。これが真紅の実力だ。



 そう、自分の心に言い聞かせる。



――そうだ、言い聞かせている。



 それが真実なのだ。真紅の知るこの”記憶”だけが、真実なのだ。


「はは……滑稽だね、朝凪。真実から目を背けるのか?」

「さっきからごちゃごちゃと、五月蝿いんだよ」


 刀を正眼に構えなおし、七夜の槍だけに注意を向ける。丁寧に手入れされているであろうそのダイヤ形の矛先は、闇の中で奇妙な光を放っている。


 それは真紅の刀も同じことで、何に反射しているわけでもないのにうっすらとした光を放っていた。


「確かに、おしゃべりが過ぎたな」


 槍と刀ならばリーチの差で槍のほうが有利。さらにあの速さで槍を放たれては対抗のしようが無い。ならば――



――ならば逆転のチャンスは、一瞬だけ。



 七夜の槍が地面すれすれまで低くなる。足元から突き上げるような攻撃か、さっきのように途中から変化する攻撃か。どちらにせよ、真紅が狙うのはただ一瞬だけ。


 蒼い槍が、駆ける。


 突き上げるように向かってくる牙。闇の中で、直視することも難しいその攻撃を、真紅はしかし、待っていた。


 槍が真紅の瞳を抉る、その瞬間。真紅は半身を引き、七夜に体の左側面を向けるようにその攻撃を回避、同時に左足をねじ込み、七夜の胴体に鋭い蹴りを見舞った。


 細く息を吐いて体制を崩す七夜に、なおも追撃を加えようとする。刀を片手で振り上げ、七夜の頭蓋を両断する勢いで落とす。しかし一瞬遅く、七夜は転がるように真紅の間合いから逃れ、立ち上がると同時に後退した。


「……なかなか、だね。でもどうやら時間切れかな」


 七夜の声を待っていたのか、真紅の後ろで獣の咆哮のような、太い叫び声が上がった。瞬時にその場を退くと、太い鞭を尻尾のように引きずりながら、もう一人のナイトメアが七夜の前に疾走する。


 味方のはずだ。そう思っていたのだが、その激しすぎる疾走は七夜の前で止まれるような生易しいものではなかった。


「悪いが、決着はまた次の機会に。今はこいつを静めなければならないからね」


 七夜の槍が獣の牙とぶつかった。その勢いに押され、七夜の気配が闇の奥底へと消えていく。


「また戦おうね。はははは……」


 闇の中に消えていった意味のわからない笑い声。半ば呆然としながらも真紅は刀を納め、すっかり忘れていたもう一人の侵入者へと駆け寄った。


「おい。大丈夫か?」

「……なんとかな。本物のライオン相手にしたほうがよっぽどましだった気がするが」


 日本刀を納めた少年は、片膝をついて荒い息を整えていたが、すぐに立ち上がり真紅に背を向けた。


「そろそろここを脱出する。俺はあっちに準備してあるけど、お前は?」

「ああ。こっちも脱出経路は確保してある」

「そうか。それじゃあ、今度こそお別れだ。またいつか会える日を、楽しみにしてる」


 相当消耗していたと思っていたが、なかなかに余裕があるようだ。


 真紅は少年に背を向け、安全に脱出するため走り出す。



 今はただ、全てのことを忘れ、走るだけだった。



 やばい……なんかもう全てがやばい。


 一週間近く放置していたような気がしますが、ご了承ください。テストが近いんです、ホント……。


 まぁテストのことは置いておいて、真紅対七夜。闇の中っていう状況から武器の色なんかわかんねぇだろ、と思うかもしれませんが、仕様です。


 長々と駄文を書き綴っても仕方が無いので今回はこの辺で。次回更新はたぶんテストが明けてからになると思います。まぁ早まるかもしれませんが。それでは、また。

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