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〔十三話〕 仲間と共に

 壊したくない、日常。

 真紅にとってその告白は、自分自身を傷つけるのと同じほどの重大さを持っていた。


 錬を慕っていた叶の前で放つにはふさわしくない言葉だろう。それがわかっていても真紅は自分の罪を打ち明けずに会話を続けられそうになかった。


「……やっぱり、ね」


 しかし叶はさして面白くもなさそうに呟いて、机の上に放り投げた盗聴器を手に取り、滑らかなペン回しを始めた。


「そんなことだろうとは思ってたわ。あの人はたとえ三人相手でも死ぬことはない。悪くて腕一本もっていかれる程度で済むと思う。だからきっと何らかの形で、あなたが関与しているだろうとは思っていたの」

「……責めないのか?」

「責めないわよ。ムカついてはいたけどね。それも最初に一発殴らせてもらったから、なくなっちゃったし」


 指先から視線を逸らすことなく、叶は何かが吹っ切れたような、すっきりとした笑みを浮かべていた。


 確かに始めて叶と手合わせをしたとき、どうして叶が仕掛けてきたのか真紅には見当が付いていなかった。最初はナイトメアの一人として真紅を殺しに来たのかと思っていたが、ただの私怨だというのなら納得がいく。


 女の恨みは恐ろしいと空に聞いたことはあったが、顔も知らぬ人間に七年も恨みを抱けるものなのかと真紅はただ叶の恐ろしさを再確認した。


「……なぁに? その悟りきったような顔は?」

「い、いや……なんでもない」


 半眼を閉じて艶のある笑みを浮かべる叶に、背筋を冷たいものが走った。


 言うだけのことはあって、彼女の殺気は冷たく、気が小さい人間なら簡単に動けなくしてしまうのではないかと思えるほど、強烈な圧迫感を与えている。


「まぁ、その話は置いておいて。錬と戦っていたのが七夜だったとしたら、残りの二人はどこにいたのかしら?」

「残りの二人っていうのは、どんなやつらなんだ?」

「そうね、知っておいたほうがいいかもしれない。まずファーストナンバー・小柳こやなぎ あらた。あらたって呼ぶより、しんって呼ぶほうがしっくりくるんだけど、その話は置いておくわね。錬と同じ日本刀の使い手で、技術だけなら錬より上かもしれないわ。事実、錬以外のナイトメアに負けたところを見たことがない。そしてサードナンバー・美郷みさと 健三けんぞう。本当はセカンドを名乗ってもいいはずの実力だけど、自分の名前に合った三の数字がいいって三番に落ち着いているわ。彼と新は直接戦ったことがないの。だからどちらが上かわからないけれど、同じくらいの実力者が二人いると考えていいと思う」


 錬ほどではないというが、それでも今の真紅では歯が立たないかもしれない。正面から攻められるのではなく死角からいきなり仕掛けられた場合、勝つ可能性は限りなくゼロに近くなるだろう。



 本当に、問題は山積みだった。



「……っと、かなり脱線しちゃったわね。それじゃ本題に入りましょうか。今日あなたを呼んだのは、この盗聴器を設置する手伝いをお願いしようと思ったからよ」

「設置するって、本社にか!?」


 彼らの敵対する”企業”。


 その本社は真紅たちが住むこの町の二つ隣、かなりの大都市に作られている。幼少の頃、父親に連れられ入ったことがあるがかなりの敷地面積と高さを誇っているはずだ。


 所々に監視カメラも設置されているだろうと予測されるため、その行動は無謀といっても過言ではなかった。


 しかし叶は自慢げに鼻を鳴らし、ペン回しを止め、真紅にその盗聴器を向けた。


「そう。そこでこいつの出番ってわけ。こいつにはジャミング機能もつけてあるの。まぁ、簡易的なものだから数時間しかもたないんだけど、それがあれば企業の内部を動き回れるはずよ」

「……妙に活き活きしてるな」


 頭痛が、酷くなっていく。


 おそらく叶にとってハッカーとか精密器具を作ったりといった頭脳系の仕事が天職なのだろう。そうでなければ、子供のように無邪気な笑顔の説明が付かない。


 もっともその笑顔が真紅の頭痛を促進する結果につながっているのだが。


「ともかく、決行の際には手伝ってもらえるかしら、朝凪くん?」


 最後に教師の口調へと戻り、のほほんと、しかし拒否を許さない言葉を放つ叶。当然、真紅では彼女の要請を断れるはずもなく、ただ首を縦に振ることしかできはしなかった。


「よろしい。数日中には決行するつもりだから、それまでに社内の地図を用意するわ。最初から図面があればやりやすくもなるでしょうし。何か質問ある?」

「……どこでそういう技術を覚えたんだ?」

「ふふ……朝凪くん、秘密があったほうが女って魅力的だと思わない?」

「意味がわからん」


 収まることがない頭痛に苛まれ、真紅は席を立ち、ドアへと向かう。これ以上この場に留まる必要もないし、少し遅れたが授業に出席しようか。そんなことを考えていると、ふと好奇心が鎌首をもたげた。


「そういえば、ナイトメアを抜ける前のあんたの序列は、何番だったんだ?」


 叶は虚をつかれたように呆けたような表情を見せ、小さく頭を傾ける。



「九番」



 予想よりも、一つ上だった。



――――――



 教室に戻ると同時に終業の鐘が真紅の耳に響いた。


 また授業をサボってしまったと、どうにも申し訳ない気持ちが真紅の良心をチクチクと刺激している。

 優等生ではないはずなのに、と真紅は大きく首をひねる。


「ん? おぉ、朝凪くんか。また朝倉先生に呼び出されていたようだね」

「すいません。長引いてしまって」


 気にするなと大柄な教師はその体躯に似合った豪快な笑い声を上げ、職員室へと戻っていった。


 この学園は金持ちの子息が通う学園だと空は言っていた。だが今の教師を見る限りではそういった学園だとはわからないだろう。なんというか、似つかわしくなかった。

 もしかしたら叶だけではなく、この学園の教師には秘密を持った人間が多いのかもしれない。


 自然と浮かんでくる苦笑を引っ込めて、少しの休憩時間に活気づく教室へと戻る。数人の生徒が視線を向けているのにも構わずに、真紅は自分の席へと腰を下ろし、大きく息を吐き出した。



 叶の話を聞いて気が引き締まっているのがわかる。



 自分ではかなわない敵が、三人。その中には記憶の底にいつもあった蒼い槍の男も含まれているという。



「――氷室 七夜、か」



 何か、何か引っかかるものを感じていた。


 何かを忘れている。とても、本当に重要な何かを。それがいったいなんだったのか、喉元まで出てきているのに、あと一歩足りない。不快感が真紅の思考を鈍らせていた。


「誰だそれ?」

「っ! そ、空!?」


 正面から見つめている四つの瞳に、気づくことが出来なかった。


 意識がはっきりして、目の前にいる二人へと非難の言葉を向ける。


「考え事をしてる人間を見つめてるっていうのは、悪趣味なんじゃないのか?」


 目の前には空と愛美。二人とも何がそんなに楽しいのか、心の底から面白そうにニヤニヤと頬を緩めている。


「いやぁ、なまじいい顔立ちしてるから見てて飽きないんだよね。なぁ愛美?」

「うん。窓際でたそがれる美少年。キャー! いい! 絵になる!」

「変なことを言うな。あと、何か無理にキャラ作りすぎだぞ、愛美」


 せっかく少し収まった頭痛が、戻ってきそうだった。


 心労、というにはあまりにも軽すぎるが、環境の変化も重なって、いつの間にかとても大きなものに変わっていたのかもしれない。

 元々の考えすぎる性格も頭痛を促進するのに十分な影響を与えていた。


「さて、冗談は置いといて。早く帰ろう! 今日はちょっと良い所によるんだから」

「え? いや、まだ一コマ残ってるんじゃ……」


 神凪学園の授業は一日六限構成で行われている。まだ今日は五つしか授業を行っていないため、最後の一つが残っているはずだった。


「さっき朝倉先生が来たじゃない。今日は臨時職員会議が入ったから六限なし、帰宅! って」


 思考の海に沈んでいる間に、どれだけの時間が過ぎていたのか。


 見ると確かにクラスの半数以上が帰宅し、残りも帰宅の準備を始めているところだった。



 叶が来たことにも気づかないほど、油断していたのか。



 自分の不甲斐なさを再確認して、溜め息がこぼれた。


「ほら、落ち込んでないで行くぞ、真紅。今日はゲストさんもお招きしてるんだからな」

「……ゲスト?」


 空は真紅の隣を親指で差した。つられて真紅は緩慢な動きでそちらへと視線を向ける。



 そこには必要以上に身を縮め、顔を真っ赤に染めている京の姿があった。



 なんとなく久々だなぁという感覚なのですが、別にサボっていたわけじゃないですよ。いや、ほんとに。

 こんにちは、広瀬です。


 叶の九番という序列、微妙ですね。いっそのこと十番にしてやればよかったかもしれませんが、これはこれなりに理由があります。(たぶん)


 学園編はもう少し短めに切り上げるつもりだったんですが、どうにも終わりそうにありません。一部だけで三十話くらい軽く超えてしまうかも……。





 ……いや、長いって良いことだよね?


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