幼馴染の襲来
セレッサが来てから気が付けば、半月程の時が過ぎた。
セレッサと結婚しないと言う選択肢もあったのだが、何となく放っておけなくて彼女とは一緒にいる。
…と言うか彼女は魔王かどうかはさて置き、相当の箱入り娘だったようだ。
彼女は家事全般はもちろん子供が出来ることすらまともに出来ない。
最初、服が上手く脱げないから始り服が着られない、お風呂も入れないと…。
おそらく子供の方がきちんと出来る。
まあ…バスト120は伊達ではなくセレッサの着衣、脱衣などの補助の度“眼福、眼福”と思ったのは言うまでもない。
それにしてもセレッサは生活するには何も知らなすぎた。
そのため俺はしばらく店を休みにし、セレッサに付きっきりで生活に必要な最低限のことを教えていた。
最低限のことが出来るようにセレッサもなってきたからそろそろ店を開けないとな…と思っていた矢先の事だった。
「ノア!いつまで店を閉める気なの!?生きてるの!?」
自宅の扉がバァンと勢いよく開いた音がした。
声からするとおそらく幼馴染で近所の食事処の看板娘であるヴィオレ・ボルドーであろう。
彼女は結婚出来ない俺を憐れに思ってか世話を焼いてくれたり、俺なんかを気にかけてくれたりする。
おそらく独り身の俺があまりにも音信不通だから駆けつけてくれたのであろうが今は会いたくなかった。
「そんなに大きな声を出さなくても聞こえるさ。」
「あぁ、生きていたの?近所の人達も心配してたわよ。」
ヴィオレは安堵したようだった。
まあ、知り合いの死体の第一発見者にはなりたくないだろうな。
「それにしても生き甲斐のように休まずに働いてたノアが急に店を閉めるから私も心配だったんだから…。」
ヴィオレは何故か少し頬を染めて拗ねたような声を出す。
「心配かけてすまなかった。明日からはまた店を開けるさ。ささっ、安心したなら今日は帰りなよ、ヴィオレ。」
俺はそう言いながらヴィオレの背を押しながら玄関まで誘導する。
「何よ…私を帰そうとして何か隠してるの?」
「いやぁ…何も隠してないさ。」
…流石にあからさまにヴィオレを帰そうとしてしまった。これでは隠し事をしてますとバレバレではないか。
「あやしい…」
「あっあやしくなんなないよ?」
思わず声が上ずる。
「…。」
じっと俺を見るヴィオレ。もうどうごまかしていいか言いあぐねる俺。
沈黙が流れる。
「ノア!服が見当たらないぞ。」
その沈黙をぶった切ったのは裸のセレッサだった。
セレッサの存在を知らないヴィオレにとって見知らぬ裸の女性が俺の部屋から出てきた、そんな状況だった。
ヴィオレは目を丸くし、顔を真っ赤にして「こっこの変態!」と叫んで俺を力一杯殴る。
普段ならヴィオレの、女性のパンチなんて軽やかに躱せるのだが、動揺していたため顎に見事に当たった。
薄れゆく視界と意識の中で―ああ…部屋を出るときはきちんと服を着るように言ったはずなのに。と頓珍漢なことを考えていた。