魔王様を知ろう
「まあまあ、美味であった。」
あの後、一度、自分の店を閉め、店とは別の場所にある自宅にセレッサを招き、簡単に作った料理をセレッサに出した。
独り身が長いと割りと何でも出来るようになっていく。
俺もそれなりに独り身が長いため料理、洗濯、掃除など家事は一通りこなすことが出来る。
最初は少し戸惑いを見せたセレッサだったが、食卓の椅子に座り俺が勧むた食事を食べ、お茶を飲むと落ち着いた様子だった。
「さて、落ち着いたと思いますのでセレッサ様…」
「様などつけなくて良い。私たちはこれから夫婦になるのだから。」
セレッサはセレッサ様と言われるのが大変お気に召さないのか、拗ねたように吐き捨て口を尖らせ下を向く。
正直、髪と瞳の色、少々話し方が変わっている以外彼女は普通の女性と変わらない。魔王だと言われても正直わからない。
本当に魔王なのか、魔王だったら何故俺と結婚すると言い出したのか、謎な事は山ほどある。
「いくつか聞きたいことがありますがいいですか?」
「かまわない」
「本当に魔王ですか?」
「疑うのか?ならばこの地を火の海にしても良いし、そなたが望むなら再び世界を征服しても良いが?」
そう言いながらセレッサは右手を上げる。右手は魔法発動前の特有の黄金の光を放つ。
この世界では種族は関係なく魔法が使える。その種族毎、個人毎に体内にある魔力は違う。また放つ魔法の強さはその魔力によって違う。
魔法は発動前に特有の黄金の光を放つ。その光の強さ、輝きによって発動される魔法の威力を予想することが出来る。
―以前アーサーに教えてもらったことがあった。
その際、講義と共にアーサーの魔法を見せてもらった。強さとしては…まあ、小さな山が平地になるような…そんな頭のおかしい魔法だ。
セレッサの手の光は以前アーサーに見せてもらった魔法発動前の光の比ではないほど眩しく輝いていた。
―あ、俺はここで死ぬかも知れない。童貞くらいは捨てたかったな。
走馬灯が巡る。
しばしの沈黙の後、「冗談だ。」とセレッサは手を引っ込める。
セレッサが手を引くのと同時に嫌な汗がぶわっと頭やら顔やらから溢れ出す。
セレッサはクックックッと声を抑えて笑う。
どうやら凡人にはわからない魔王ジョークのようだ。
「まあ、疑うのも無理はない。正直、この小さな村にまで私は死んだと広まる程だ、疑われるのは仕方ないことだ。だがこれから共に暮らす夫に疑われるのは寂しいな…。」
「セレッサ…。その…疑って悪かった。」
セレッサの寂しげな声、うつむき悲し気に伏せられた瞳。
もしかしたら魔王が俺を騙そうと演技している可能性もある。けど…
「俺は信じるよ。」
騙されてもいいさ。こんな綺麗な人に騙されるんだ。男として本望さ。
「…ありがとう、ノア。」
「セレッサ」
「何だ?」
「もう1つ聞いていいか?」
「ああ。」
「何故、俺と結婚すると決めたんだ?」
セレッサの顔が強張る。
「なるべく夫に嘘、偽りなくいたい。しかし、“何故、ノアと結婚するか”と言う質問だけは答えられない。それ以外ならそなたが望むなら何でも答えよう。」
正直、一番聞きたかったことだった。嘘でもいいから“一目ボレ”とか、最悪本心でもいい“下僕にするため”とか“アーサーの目を欺くため”とか理由が欲しかった。
その理由を聞いて何になると言われればそれまでかも知れない。
でも…。
「そうか。」
「すまない。」
「ならスリーサイズとか聞いてもいいの?」
何となく空気が重く感じ、おちゃらけたような言い方でどうせ返答できないようなバカな質問をする。
まあ、魔王とは言え女性だ。そんな質問には答えないだろう…。
せいぜい、怒られるか秘密と返答されるのがオチだろう。しかしセレッサはいいよどむことなく「上から120…」と答えようとする。
「まっ、ちょっ、待って!」
「?何だ?知りたいのではないのか?」
セレッサは何を慌てているんだ、こいつ。と言った感じで不思議そうな顔をする。
結婚する理由は言えないのにスリーサイズはあっさり言おうとするとか…。
「普通、女性はスリーサイズとか体重を聞かれるのは嫌がるものじゃないの?」
「そう…なのか?」
―これから苦労するのが目に見えるようだ。
俺はがっくりと肩を落とした。