プロローグ
―世界は闇に包まれていた。
過去最悪の魔王ベルデが恐怖で支配し、人々の目には希望の光が消えていた。
しかし伝説のアーサー王の子孫であるアーサー・リヒト・ペンドラゴンが魔王を倒し世界に再び光が差した。
…と言うのが現在巷を賑わせている勇者物語の一節である。
その勇者物語が掲載されている情報誌を見ながら俺、ノア・ファルムスは長年の友人であるアーサーが遠い存在になったなと少しだけ寂しく思っていた。
俺はしがない村の薬師である。
自分の仕事にはプライドを持っているし、やりがいも感じている。
ただ少しだけ男として、アーサーに憧れ、嫉妬など複雑な思いを感じざるを得なかった。
―いいな…。アーサーは英雄、女は選び放題か。
下卑た考えだが、心底羨ましい。
この世界では男性も女性も結婚が早く、平均して15~20歳が適齢期と言われている。
俺は5年も適齢から過ぎ、正直、結婚を焦っていた。
親戚や両親、祖父母から結婚をせっつかれるわ、客のおばちゃん達からは『いい歳した男が独り身なんて!!』と見合い話を持ってこられたりする。
その見合いも上手くいけばいいのだが、何故か断られる。
見合いも何度か失敗すると見合い自体来ることがなくなった。
―女性に縁遠すぎて泣けてくる。
もやもやと情報誌を握りしめ唸っていたらカランカランと店の扉につけていた鐘がなった。
客だろう。
「いらっしゃい」
「よぉ、ノア。元気だったか?」
「アーサー!!」
そこには先ほど情報誌に載っていた友人で巷で噂の勇者、アーサー・リヒト・ペンドラゴンがいた。
「勇者様がこんなしがない店に何の用だよ。」
俺は先程、アーサーに対して感じていたモヤモヤを隠すように悪態をつく。
「俺達、友達だろ?会いに来たら駄目なのか?」
「そんな訳ないだろ。」
俺とアーサーは目を合わせお互いに笑った。
「久しぶりだな。今じゃ話題の人物じゃねーか。」
「別に大したことはしてないさ。」
「謙遜はよせよ、俺達の仲だろう?」
「いや本当さ。実は今、噂されている話は大体が嘘、誇張だ。」
「は?」
俺はすっとんきょうな声を出し、目を見開きアーサーを見た。
アーサーは少しだけ気まずそうに頭を掻き「入っておいで」と扉に向かって声をかけた。
再びカランカランと扉の鐘の音が響き、マントを羽織った人物が俺の店に入ってきた。
入ってきた人物は男性とも女性ともわからなかった。顔はマントのフードで覆い隠されていて身長は大体俺より少しだけ小さいくらいだった。
腰には中々値が張りそうな剣が鞘に収まっている。
―誰だ?
「実はノアに折り入って頼みがある。」