8話
ちょっと体調崩して&展開に納得がいかなくて投稿遅れましたすみません
「いったん整理すると、お前らは異世界の神と天使で、俺はその世界を救う勇者候補。異世界には死なないといけないので、何とかして殺したいor死んでほしい。ここまではいいか?」
「はい、異世界移動の圧力に肉の体が耐えられないので。悪いとは思いますけど……」
「悪いと思ってるなら諦めてもらえると嬉しいんだが……」
「それは無理です!」
「ですよね~」
あのあと、エイラの方にも『狐看』を行い、真偽を確かめたが結果は同じだった。
信じ難いことだが本当にこの2人は異世界からやってきたらしい。
そして、色々とあったわけだが、最初に会った時からコイツラの目的が変わっていないことも確認した。
つまり俺の命。
「とりあえず、お前達には悪いけど俺は死んでやるわけにはいかない」
「それは……どうしてもですか?」
「どうしてもだな」
「……そう悪い話じゃないですよ、こっちの世界に来ていただければ最初からチート能力だってあげられますよ? 人生イージーモード確定です!」
「チート?」
なんだそりゃ。
「チートってのは所謂ゲームのデータを改竄して強くなることだよ。簡単に言えばズルだね。他にはズルした様に強いって意味でも使われるかな」
「へぇ、ゲームとかあんまやらないしよくわからん。でもズルは良くないと思うぞ」
「ち、違います! 今回のは後者のズルした様に強いってことです!」
隣のサクが説明してくれるが、具体的な想像はつかないので思ったことをそのまま口にする。
すると慌てたようにモモリスが否定した。
うーん、だけど――
「でも、それはアンタがくれるんだろ? 神様からズルしたようなほど強い力貰うって、まさにズルじゃないのか?」
それこそチートってやつじゃないか。何も間違ってないだろ?
「ズルした力で強くなっても、俺は嬉しくないなぁ。いや楽しくない、かな」
「そ、そうですか……今まではこの条件でみんな飛びついてきたのに」
小声で呟いても俺には聞こえてるんだ、悪いな。
多分聞こえてないと思っているだろうから、わざわざ指摘なんてしないけどさ。
心の中で呟けばいいのになんだって口に出すんだ。
空気振動が起こればどんなに小さくても誰かに聞かれる可能性が生まれるんだから、口に出さなければいいのに。
「で、ではハーレムとかどうでしょう? こっちの世界に来ていただければハーレムが作れますよ!」
「ハーレムゥ?」
「ハーレムっていうのは……」
「いや、流石にそれくらいは俺も知ってるっての」
サクが説明しようとしたのを止める。あんまり女子の口から聞きたいようなものでもなかったからだ。
「あー、なんでハーレム?」
「そりゃ男の人はみんな好きじゃないですか」
「そっちの世界ではそうなのかもしれないけど、こっちの世界じゃそんなことはねーよ!?」
男みんながハーレム好きって、どんだけ性欲の塊だと思ってんだ男を。
やっぱり世界が違うと常識とかも違うのかね。
「ハーレムって、血統を残すためのもんだろ? 日本で言う大奥みたいなもんじゃん、その仕組み自体を否定するつもりはないけど、この世界で生きてて必要とは思わないし、魅力も感じないな」
「いえいえ、そんなに難しく考えることはありませんよ。”綺麗な女の子に囲まれてハッピー!”でいいんですよ!」
「……それこそ俺には理解できない」
「何でですか!?」
思わず立ち上がって声を上げるモモリス。
そんなに驚くことか? 俺変なこと言ったかな?
「何でって、だってそれじゃ獣と変わらんだろ。堕落していくのが目に見えてる。欲望のままに動くことは『心』『身』『技』が鈍る。百害あって一利なしだ」
「で、ですけど……」
「そもそも、誰か1人に決められないのは優柔不断ってもんだろ。自分は愛されてるのに他の女にも手を出しますって言うのは筋が通らねえよ。女の人をバカにしすぎだと思うし、もしも奥さんが他の男に手を出しても責められねぇ。俺はそんな薄い関係は御免被る。たった1人でいいから、俺のことだけ見てくれる人を俺もずっと見ていたいと思うよ」
「……」
「ってなんで俺こんな小っ恥かしいこと言ってるんだっての、忘れてくれ」
「いやいやいや、忘れられないとも。うん。ボクは感動したよ! 『俺のことだけ見てくれる人を俺もずっと見ていたいと思うよ』か、いい言葉じゃないか! 流石、年齢=彼女いない歴のセンだよ! 意外とロマンチストだよねププッー!」
「笑いが堪えきれてないんだよ!」
隣でサクが口に手を当てて肩を震わし、テーブルをバシバシ叩いている。
クソッ、ガラにもないこと言うんじゃなかった。
気分を変えるように頭をガシガシと掻きつつ口を開く。
「とりあえず、そっちでハーレム作れるとか言われても全く興味はない」
「えぇ! なら、どうしたら異世界に来てくれるんですか!? 今までの勇者は『チート』と『ハーレム』あげるって言ったらホイホイ来てくれてたんですよ! 千亀さん頭大丈夫ですか!?」
「え、なに、俺喧嘩売られてるの? てか今までの勇者俗物すぎんだろ!」
「あ、もしかして千亀さん特殊な趣味の人なんですか!? だったら正直に言ってくださいよ、変にカッコつけたこと言わずに。わかりました、イケメンハーレムを作れるようにします!」
「ちっげーよ! この脳内どピンク!」
モモリスの頭にチョップを食らわして黙らせる。
「セン、今まで気づかないでゴメ……ププッ―!」
「ネタに乗るんなら最後までやり切れ! 途中で噴き出してんじゃねーぞ!」
意味深に肩に置かれたサクの手を振り払う。
「モキュ モキュ」
「お前はいつまでパン食ってんだ! それ何個目だよ!?」
「モグモグ……8個目だが?」
「別に正確な数知りたかったわけじゃねーんだよ!」
あぁ、もう頭が痛くなってくるぞ。
「あー! もういい俺は死ぬ気もないし、勇者にもならないからとっとと異世界とやらに帰れっての!」
「かーえーりーまーせーん! 穏便に済ませられないならもう実力行使しかありません、エイラ!」
「待ってくださいモモリス様(モキュ)まだ食べ終わって(モキュモキュ)ない(モキュモキュモキュ)です」
「喋るか食べるかどっちかにして!」
「(モキュモキュモキュモキュモキュ)」
「そっち!? そっち取っちゃうの!?」
漫才のような2人のやり取り。
コイツら本当に神なのか、と思わずにはいられない。
「漫才はいいんだよ! だが実力行使ってんなら覚悟しとけよ、この前みたいに周り巻き込むような真似したら容赦しねーぞ」
「え、そこって『俺の命を狙うんじゃねぇ!』とか言うところじゃありません!?」
驚愕、といった表情を浮かべるモモリス。
その顔を見返しながら答えてやる。
「お前達にも事情があるってのは聞いたし、交渉を断った立場からすりゃ、力尽くでってのを止めるわけにはいかねーだろ。だから”俺個人に対して”何かする分には俺は何も言わねーよ。黙ってやられるつもりもないけどな」
これは偽らざる本心だ。
やり方はどうであれ、コイツらにも譲れない何かがあるのなら、それを止める権利は俺にはない。そして、そういった『信念』とか『目的』とか持って動く奴を俺は嫌いになれない。
それに日常的に命を狙われる程度、いつもの日常に混じる僅かな刺激に過ぎないからな。
「え!? そんなこと言っちゃっていいんですか? 私達なりふり構わずに何回だって殺しに行きますよ?」
「別に。他の人に迷惑かけねーんなら何回でも来ればいい。来たって返り討ちにするだけだ。お前たちが諦めるまで付き合ってやるよ」
「……それじゃ例えばの話、他の人を巻き込むような事したらどんな目に合わせられるんですか?」
「そうだな、今度やったら2回目なわけだし気絶させて遠洋漁船にでも放り込む」
「それって数か月は帰ってこれませんよね!?」
「いい考えだろ?」
結構ハードワークらしいからな。船に乗り慣れてなければそれだけで辛いだろう。
俺にはそういった知り合いもいるし、結構現実的な対応策だ。
自称『水上最強』のアイツに頼めば、逃がすことなく面倒を見てくれることだろう。……暑苦しくなって帰ってくるのは避けられないと思うが。
「……わかりました、私達は千亀さん個人だけを狙えばいいんですね? 他に何かありますか?」
モモリスからの問いに首を横に振る・
「俺個人相手なら真正面からでも絡めてでも多対一でも何でも使ってきていいぞ。あぁ、死んでから勇者やりたくないとかも言わないから安心しろ。もしも殺せた時には、俺も諦めてそっちの世界で勇者でも何でもやってやるよ」
「言いましたね!? 言質取りましたよ!」
「へいへい、神に誓って約束してやるよ」
目の前の神に向かい、皮肉を込めてそう言ってやる。
「ぐぬぬ、これから殺そうとしてるって人に気遣われて、条件まで出されたってことが引っ掛かりますけど、私達の頑張り次第で千亀さんが勇者になってくれるなら妥協します」
「妥協ぅ?」
「これから命狙わせていただきますけど、どうぞよろしくお願いします!!」
勢いよく頭を下げてくるモモリス。
そこには神の威厳とかは何もなかった。
いや、コイツと出会ってから一度もそんなもの感じたことないけど。
「仕方ねーから付き合ってやるよ。……てなことで纏まったから、サクには悪いがこれから騒がしくなるかも――っていねぇ!」
モモリスの言葉に応えつつ、隣にいたサクに目を向ける。
が、既にそこには誰もいない。
それに気づくと同時にチャイムが鳴り始める。
慌てて腕時計を見ると、既に授業が始まる時刻を示していた。
「ヤベェー授業始まる! サクの奴、気づいて1人で先に行きやがったな!」
悪戯なんだろうが、わざわざ俺に気づかれないように気配消してまで行く周到さだ。
頭の中で「ププッー!」と笑うサクの顔がチラつく。
急いでトレイごと食器をもって席を立ち、カウンターに戻しにいく。
食器を戻すとともに「ごちそうさまでした!」と厨房に向かい声をかけると、「急いで戻りな~!」と笑い交じりの声が返ってきた。
その声に背中を押されるように俺は駆け出す。
まだチャイムは鳴り終わっていない。
鳴り終わるまでに教室に戻ればこちらの勝利だ。
後ろから「置いてかないでくださいぃ~!」と悲痛な声が聞こえた気がしたが、無視した。
敵に掛ける情けはないのだ、御免!
結局、授業には間に合ったが転入生を置いて戻ったということで、タキセンからお小言を貰うことになった。
サクの奴はそれを終始ニヤニヤと笑いながら見ていた。
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