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7話

「オイ、ちょっとツラ貸しな」

「ちょっとサク~! おたくの脳筋が転入生にちょっかいかけてるわよ!」

「ちょ、バカヤメロ!」


 密かにモモリスとエイラを警戒しつつ午前の授業を受けていたが、拍子抜けするほどに何事もなく昼休みになった。

 そのことを訝しみはしたが考えてもどうしようもないので、クラスメイトに囲まれていたモモリスとエイラに直接声をかけることにした。

 何を考えてこの学校に来たのか、頭の中でうだうだ考えるよりも聞き出した方が早い。

 だというのに、あろうことかクラスメイトに行く手を阻まれ、サクを呼ばれてしまう。


「てかさ鶴万、あんた朝もこの2人に絡もうとしてたけど何なの?」

「それは……!」


 モモリス達を囲んでいたクラスメイトの1人、バレー部の峯川に睨まれ詰問され、言葉に詰まる。


『入院してるときに殺されかけました。そもそも入院した理由もソイツらが原因です』


 って言っても多分信じてもらえねーよな……。


「あ、千亀(せんき)さんお久しぶり……と言うほどではないですね」


 しかし、救いの声は思ってもみない意外なところから上がった。


「私達も『お話し』(・・・・・)したかったんですよ! よければお昼ご一緒しませんか?」


 声を上げたのは桃髪桃目をした笑顔を浮かべる女子。

 クラスメイトに庇われていたはずのモモリス本人だった。


 ◇□◇


「……で、なんでお前らここに来やがった。いや、むしろどうやって来やがった?」

「その話はとりあえず食べ終わってからでいいですか、麺伸びちゃうんで」

「なに学食エンジョイしようとしてんの!?」


 現在、俺たちは学食の片隅で向かい合って座っていた。

 ちなみに、俺たちと言うのは俺、モモリス、エイラ、サクの4人だ。

 サクは俺がモモリス達に不埒を働かないようにと、お目付け役として強引にクラスメイト達が同行させた。

 クラスメイトからの信頼の無さに涙が出てくるね。もちろん悲しみのな。


「そうは言っても、食べるの初めてで楽しみにしていたんです。そりゃエンジョイしますよ!」

「ラーメンなんぞどこでも食えるだろうに」

「私たちの世界にはなかったんですよ! ……あぅ、でもこの()って使いにくいですね」


 モモリスはうまく箸が使えず、ラーメンをなかなか口に持っていけないでいる。


「確かに初めてだと使いづらいかもね、フォーク持ってきてあげるよ」

「ありがとうございます(はじめ)さん」

「いいよいいよ。あとボクのことはサクって呼んでよ、みんなそう呼んでるから」


 サクが席を立ち、フォークを取りに行く。

 先程から喋らないエイラは、マイペースに無表情のままパンをモソモソと食べている。


「……はぁ」


 今は話にならなそうだ。

 俺も仕方なく目の前の日替わり定食に手をつけた。


 ◇□◇


「あ~おいしかったです! 明日はミソラーメンを食べてみましょう!」


 醤油ラーメンを完食したモモリスが満足げな声を上げる。


「そりゃ良かったな、それじゃお話し(・・・)しようじゃないか」


 俺は食べていたカツ丼を掻き込むと、少しばかり力を込めた視線をモモリスに向ける。

 え、日替わり定食じゃなかったのかって? それだけで足りるかっての。


「そうですね……ですが、聞かれると面倒なので場所を移しませんか?」

「そのことなら心配ねーよ、ここに来た時から誰も近くに来れないようにしてる」

「え? ……ほ、ほんとだ」


 言われてから初めて、周囲に俺達以外は誰もいないことに気づいたようだ。


 俺が使ったのは鶴万流武闘術の初級技『爪張(つめばり)』。

 事前に数か所の地点へ気配を残しておくと、一定以上の実力を持たない人は本能的に危険を察知し、それより先に進めなくなる。さらに意識からもそこを外されてしまい、再度意識を向けることすら難しくなる。そうして空白領域を作り出す技だ。

 今回は俺が設置した以上、この学校内において実力で入ってこれる者など何人いることやら。


「そんなわけだから、ここでいいだろ?」

「えぇ、そういうことでしたら否はありません」


 ふむ、場所の移動を提案したから罠でも張ってるのかと思ったが、案外あっさりと引き下がったな。

 物分かりがよすぎて微妙な不気味さを感じる。


「さて、お前らに聞きたいことは2つだ」


 俺は本題を切り出す。


「1つは俺を殺したい本当の理由。2つ目はお前らが俺のいるこの学校に転入してきた理由だ」

「そうですね、それについてはまず――」


 モモリスはいったんそこで言葉を切り、俺の目をまっすぐ見つめてくる。

 その目からは狂人のような光も、欺者のような歪みも見えなかった。

 ただひたすらに真っ直ぐ澄んでいる。


「鶴万千亀さん――昨日は本当に申し訳ありませんでした。貴方の気を損なうつもりはなかったのです」


 モモリスはそう言うと、隣に座るエイラと共に頭を下げた。


「その上で質問に答えさせていただきますと、1つ目は信じてもらえないかもしれませんが、昨日言った通り千亀さんを異世界に招くためです。2つ目は千亀さんにこっちの世界に来てもらう説得のためですね。同じ学校に通った方が効果的と思いましたので」

「……俺はまた、馬鹿にされてるのか?」

「私も現実離れした話だとはわかってます! でも真実なんです、信じてください!」


 うーん、嘘を言っているようには見えないが、そう簡単に信じられる話でもない。


「じゃあセン、ボクが『狐看(きつねみ)』やるよ。それで真偽はわかるでしょ」


 俺が迷っていると、俺の隣で今まで黙っていたサクが口をはさんできた。


 鶴万流武闘術の上級技『狐看』。

 これは相手の胸――正確には心臓の真上――と相手のどちらか片方の手に自分の手を置き、鼓動や発汗、瞳孔や眼球の動きから相手の嘘を見破る技である。使用者にもよるが、下手なウソ発見器よりも正確だ。

 直接的な攻撃力はないが、その体勢からいくつかの上級技に派生できることや、高度な観察力が求められることから上級技の中で最初の方に習得する重要な技だ。

 確かに『狐看』を使えば言葉の真偽はわかるだろう。

 鶴万流武闘術を俺は何よりも信頼している。その技の結果なら、どんなに現実離れして信じがたいものでも信じよう。


 しかし、この『狐看』を俺が使ってこなかったのには理由がある。


「そんな便利な技があるのですか? ならもっと早くやっていただいても……」


 サクから『狐看』の説明を受けていたモモリスが不満げな声を上げる。


「流石にそれは無理だよモモリスさん。いくらセンが無神経で無遠慮だといっても、女の子の胸に(・・・・・)手を当てさせてくれなんて言えるわけないじゃない」


 ……今しがたサクが言ったのが、俺が『狐看』を使ってこなかった理由に他ならない。

 そりゃ健全な男子高校生としてそういうのに興味がないわけではないが、技に(かこつ)けてとか男らしく無いにもほどがある。

 だから俺自身でモモリスの言葉の真偽を確かめるという手段は使えなかったのだ。


 しかし! サクならば女同士、何の問題もない。

 俺もサクの実力は知っているし、信用しているのでその技の精度も折り紙付きだ。


「え? ……あぁ! そういうことですか! 見た目に似合わず紳士的なんですね!」

「ウッセー。サク、早いとこコイツらの妄想をどうにかしてくれ」

「はいはいっと、それじゃ失礼して……うわ、思ったより大きいね」


 サクはモモリスの胸の中央あたりに右手を置き、左手の掌をモモリスの右掌と重ねた。そうしてまっすぐにモモリスの瞳を覗き込んだ。

 女同士とは言っても何だか妙な色気がある光景だ。

 俺はそっと視線を無言のまま2人を見ているエイラの方に移した。 

 サクの言った「思ったより大きい」が何の大きさなのかということは、意識して考えないようにした。


「ゴホン。それじゃ今から質問をしていくよ、出来ればYESかNOで答えてくれるといいな。『あなたは異世界から来ましたか?』」

「YES」

「『あなたは神ですか?』」

「YES」

「『あなたは先程味噌ラーメンを食べましたか?』」

「NO」

「『あなたは鶴万千亀を殺そうとしましたか?』」

「YES」

「『それは魔法を使用してですか?』」

「魔法とはちょっと違いますが、そのようなものです」

「『あなたは鶴万千亀に恋愛感情を持っていますか?』」

「NO」

「なるほどなるほど、セン! 彼女は嘘を言ってないよ、予想外の問いに対しての反応も正常だしね」


 サクが手を放し、俺の方に向き直りながらそう報告してくる。


「おいおいマジかよ……」


 俺は額に手を当てる。

 異世界から来たとか神だとかが本当だとしたら……俺はどうすりゃいいんだよ。


 殴って解決できない問題は、本当に難しい。

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