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6話

ここら辺から学校舞台でハチャメチャになっていきます(予定)

「やぁいい朝だな! サク!」

「うわ~、見た目ボロボロなのにスッゴイ清々しい挨拶されちゃった」


 翌日HRギリギリに高校の教室へ飛び込んだ後、窓際の自分の席に着く。

 隣の席には既に幼馴染のサクが座っていたので朝の挨拶をしたら、変なものでも見るような目で見られた。なぜだ?

 あの後『師匠』と爺さんと真夜中まで煉獄組手(2人と1匹の無制限デスマッチ)をしてたおかげで、顔に青痣が出来ているし、着ている制服の下には湿布が貼られ包帯がまかれているが、そう大したことはないだろう。


「てか悪いな、今日寝坊して待ち合わせの時間に間に合わなくてよ。いや~焦った焦った」

「別にいいさ、時々あることだし。……それよりも、急いでいたからって窓から飛び込んで(・・・・・・・・)くるのは非常識が過ぎるよセン。前も言ったでしょ」

「なに、クラスのみんなも前みたいに騒いでないし平気平気」

「……嫌な慣れだよね、ホント」


 やれやれといった様子で肩をすくめるサク。

 まったく、3階(・・)の窓に飛び込んでくるくらいで驚く奴いないっての。

 クラスメイトが驚いたのだって最初の1回だけじゃないか。


「そういえば皆が噂していたんだけど、ウチの学年に今日は転入生が来るらしいよ」


 話題を逸らすかのようにサクがそんな情報を(もたら)してくる。


「こんな時期に? そりゃまた珍しい」

「新学期ならまだしも、あと1ヶ月で夏休みだもんね。でもどんな人か気になるな~」

「ウチの学年8クラスもあるんだし、このクラスに来るとは限らねーんだから気にするだけ時間の無駄だろ」


 高校なんてクラスが違えば殆ど関わらない奴の方が多いんだから。


「夢がないなぁセンは……もしかしたらその転入生ってすっごく強いかもよ? こんな時期の転入だし何か理由があったり「会いに行くぞ!」して……ってたとえ話なんだから落ち着いてよ。もうそろそろHR始まるんだから大人しくしてて!」


 その可能性を失念してた!

 もしかしたら強者なのかもしれないわけか、ちょっとテンション上がってきたぞ!

 思わず席から立ち上がった俺をサクが押しとどめてくる。


「セン、あんまり期待はしないでね。さっきのはあくまでたとえ話で、十中八九強い人なんて来ないんだから」

「わかってるわかってる!」

「ホントかな~」


 サクが疑いの目を向けてくるが、俺だってそれくらいわかってるっての。


 そんなことを考えていたら、教室前方の戸が開き中年の草臥れたおっちゃんが入ってきた。それとほぼ同時にチャイムが鳴り響く。

 入ってきた男はよれよれのジャージにサンダルという、まるで教師らしさの欠片もない人だが歴としたうちのクラス担任である。

 名前は……何だったか。本名は忘れた、みんな通称の『タキセン』としか呼んでないからだ。


「おはようさん。お、鶴万(つるま)なんで来てんだ? 入院してたんじゃなかったか」

「気合で治りました!」

「それにしては青痣や湿布が見えんだが」

「これは稽古の時のです!」

「ふーん、やっぱ鶴万んとこの人間はどっかおかしいな……あ、これは侮蔑じゃねーからな! いい意味でだぞ、いい意味で! だから教育委員会に垂れ込んだりするんじゃねーぞ!」


 タキセンが慌てたように弁明を口にする。

 今みたいに思ったことをすぐ口にしてしまうのがこの教師の良いところであり、悪いところでもあると思う。どちらにしても生徒から人気があるのは確かだ。


「おっと、脳筋なんぞに構ってる場合じゃねぇや。今日は色々と話すこと多いんだよ」

「タキセン、それがもしも俺のことだとしたら断固抗議する!」


 思わず立ち上がって抗議する。


「そうか、本当に脳味噌詰まってるなら休んでた分の補習を放課後にでもしてやろう。遠慮することはない」

「My brain is muscle(私の脳味噌は筋肉です)」

「だったら黙って座ってろ」


 クソ、放課後補習をチラつかせるなんてなんて卑怯な大人だ!


「さて、脳筋のせいで時間とられちまったがとりあえず重要連絡を1つ」


 その言葉にクラス中の視線がタキセンに集まる。

 十分自分に注目が集まったことを確認したのか、タキセンは一つ頷いて口を開く。


「……なんか、こんなに注目されると照れるな」



「「「いいから早く重要連絡とやらを言えよ!!」」」



 クラスメイトの声が重なる。

 タキセンが担任になってからすでに数か月。何度も同じようなことがあれば自ずとみんなの息も合うというものだ。


「わかったわかった、うるせー奴らだ。てなわけで、入ってくれや!」


 タキセンが教室の外、廊下に向かって声をかける。するとタキセンが入ってきたのと同じ戸が開いて教室内に2人の人物が入ってくる。

 クラスメイト達からは驚き、絶句した空気が伝わってくる。

 そりゃそうだろう、こんな人形のような美少女が2人も入ってきたのだから。

 2人はそのまま教壇に上がりタキセンに並ぶ。そこでようやく彼女たちが正面から見えるようになった。


 1人は金髪碧眼のモデル体型美少女。表情がピクリとも動かないクールガール。なぜか制服ではなくフリフリやリボンが、装飾過多ともいえるほどにつけられたゴスロリ服を着ていた。

 もう1人は桃髪桃目の美少女。もう1人とは正反対に小柄で、どちらかと言えばアイドルのような可愛らしさだ。天真爛漫といった雰囲気を全身から発している。こちらはきちんと学校指定のセーラー服を着ている。

 どこかで見たような2人組。具体的には昨日ぶりな顔ぶれだ。

 そんな2人に、クラスメイトは男女問わず目が釘付けとなっている。

 そして、それはこの俺も同様。


 ――当然ながらクラスメイトの様な色っぽい視線ではないわけだが。


「てなわけで美少女転入生を紹介「オイオイオイ! お前らなんでここにいるんだぁオイ!?」ってウッセーぞ脳筋! 隣の飼い主もちゃんと躾けとけ!」

「すいません滝沢先生! すぐ静かにさせるんで……でもボクは別に飼い主じゃないですからね!?」


 俺は席から立ち上がり声を上げるも、タキセンから注意を受け、隣のサクからは頭を押さえつけられて席に座らせられる。


「(何すんだサク! あれ昨日のアイツらだぞ!)」


 大声を出すとまた怒られるので、小声でサクに話しかける。

 ちなみにこの小声は『鶴万流武闘術』の初級技『空鶫(からつぐみ)』を使っているので、門下の者以外には聞こえない。反対に門下の者で『空鶫』を会得した者同士だと、普通の会話と同程度の内容を数分の一以下の時間で交わせる。なんでも戦場で迅速に、そして秘密裏に会話するための技らしい。


「(わかってるけど、今ここで騒いだところで悪目立ちするだけさ。それに、もしもここで戦闘になんてなったら、みんなが巻き込まれちゃうよ、ここは静観しておいた方がいい。接触する機会は後からいくらでもあるさ)」


 サクも『空鶫』を使って言葉を返してくる。そして、その言葉には説得力があった。

 ふむ。言われてみれば確かにここで刺激するのはまずい。

 昨日みたいに斬りかかられても俺とサクはケガしないだろうが、周りはどうなることか。

 何より、学校で喧嘩(と言えるかわからないが)したら停学や下手すれば退学だ。

 流石にそれはイヤすぎる、内申点とか割と気にするんだぞ俺。

 将来は道場で働くことになるかもしれないけど、大学とか行きたいし。

 てなわけで今は静観だ。COOLになるんだ、俺。


「ったく脳筋め邪魔しやがってからに。すまんな、あの脳筋野郎は無視して自己紹介してくれ」


 俺が心を落ち着けている間に、タキセンが壇上の2人にそう促した。

 てかこの教師は人のこと何回脳筋って言いやがる、マジで教育委員会にチクるぞ。

 そんな益体もないことを考えている内に金髪少女の方が一歩前に出る。


「田中エイラだ」


 一言。

 たった一言だけ言葉を発した。


「……」

「……」


 そのあとに続く言葉をクラスメイトはしばらく無言で待っていたが、何も言葉は出てこない。


「……終わりか?」

「……?」


 耐えきれずにタキセンが言葉をかけるも、エイラは無言で首を傾げるだけだ。


「あ~、それじゃ次」

「ハイハイ! 私は桃井栗栖(ももいくりす)って言います! みんな仲良くしてね!」


 テンション高く挨拶を行うモモリスに、タキセンは明らかにほっとした表情を浮かべる。

 無表情で口数少ない奴ってどう扱えばいいかわかりにくいもんな。

 だったら多少テンション高すぎでも、わかりやすくコミュニケーションをとれる方がいいだろう。

 それはタキセンだけじゃなくクラスメイトも同じだったのか、所々で「よろしく~!」とか「仲良くなりたーい!」とかって声が聞こえてくる。

 オイオイ騙されんな、ソイツの本性は人間なんか虫ケラとしか見てないぞ。


「つーわけで、この2人が今日からクラスメイトになっから仲良くするように。んで田中と桃井の席だが……あれ、空いてる席ねーな。なんで……あぁ、面倒だから後回しにして忘れてたわ」



 いい加減にしろよテキトー教師!



 というクラスメイトの心の声が聞こえてきた気がする。

 ちなみに俺も心の中で同じように声を上げていた。


「あー、でも今日は丁度よく肉体労働要員がいるからいいな」

「ちょっと待とうかタキセン! 脳筋呼ばわりはまだしも肉体労働要員はひどいんじゃねーの!?」

「なんだ、別にお前の名前出したわけじゃないだろ。だが丁度いい、お前その筋肉生かして空き教室から机2セット持ってこい」

「そんな!?」

「ん? 持ってこれないの? その筋肉は見掛け倒しか?」

「なっ!? それくらい出来らぁ!」

「よーし、言ったな。それじゃ持ってこい。1限目始まるから急げよ」

「ゲッ!」


 ぐっ、まんまと言質を取られてしまった。

 仕方なしに立ち上がり、早足で扉へと向かう。

 空き教室は割と近いから、走ったりしなくても間に合うはずだ。


「ん? なんでお前の靴は外履きなんだ?」


 ギクッ!

 やばい、窓から入ってきたから靴が外履きのままだった! 

 いつもはズボラなくせに妙なところで鋭さを見せやがる!


「さてはお前また窓から入ってきやがったな。机持ってくる時、ついでに靴も履き替えてこい」

「えっ? タキセン、ここから玄関まで結構遠いぜ?」

「だから?」


 その口調と慈悲の欠片もないまなざしが雄弁に語る、『遅れるのは許さん』と。



「チックショォォォ! やってやるよぉぉぉ!」



 俺は教室の戸を開け放ち、結構ガチな全力疾走を開始した。

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