B2
ふとあることにタケルは気が付いた
スマホの電波が2本立っていたのだ
「あの穴から電波を拾えるのか」
穴まで近づくと、電波が3本になる
「最後の頼みだ」
そういって、タケルは監督に電話を入れた
電話がつながった
「俺です」
「タケルか!大丈夫か、心配したぞ」
親方が慌てた様子で話しかけてくる
「お前、現場に取り残されたんだな どのあたりにいる?」
「今、B4階の機械駐車場にいます 何とか救援を」
「今地上でも大変なことになっているんだ、けが人が300人を超えている
地上の捜索で地下まで手が回ってない状況だ 自力で出れるならそうするしかない」
と言われた
そんなむちゃくちゃな
「もうヘッドライトの電池もありません」
「分かった、物資を送ってやる 今なら、現場に入って道具を上からひもでつるして下に送り込むことができるはずだ」
しばらくすると、親方ともうひとり、職場の仲間が来ていた
2人はタケルの姿を確認すると、上から道具類をひもにくくりつけて送ってきた
どうにかそれをキャッチし、具材を手に入れた
ロープに括り付けてあったのはバックで、中には、電池、ドリル、ロープ、図面そしてコンビニで買ったと思われるパンや飲み物が入っていた
「助かった」
そういって、まずパンを食べた
体力を消耗し、動けなくなっていたが、どうにかこれで気力が戻る
そして、ヘッドライトの電池を交換する
一気に視界が良好になる
「よし」
と気合を入れて、さっきの階段に戻った
ドリルを使い、さらに岩を小さくして、テコで岩をどかす
通路が確保された
階段で一気に地上へ、と階段を駆け上がった
しかし、柱が崩壊し地上のがれきがすべて落ちてきたため、B1から上に出ることは不可能になっていた
仕方なく、B2のフロアへ一旦出ることにした
この状況でどうやったら地上に上がれるのか
まったく予想がつかなかった
階段は使えない
バックに入っていた図面をのぞき込む
B2フロアは、主に、駐車場の用途のようだった
「そうか、スロープから上に行ける」
駐車場なら、必然地上から車が来るため、そこまで行ければ地上に上がることが可能であった
問題はそこまで行けるかどうかである
B2の通路は歩いてすすむのが困難なほど、がれきで埋もれている
「これは骨が折れるな」
しかし、タケルにはその道を進む以外なかった
完全に疲労がピークに達していた
道なき道を進み、もう足も動かない
ヘッドライトの明かりを頼りにはしていたが、何度も転び、何度もがれきの中につっこみそうになった
行く手を阻む、崩れ落ちた岩
行き止まりばかりである
広い通路は進めないため、仕方なくコアを経由して、進んでいく
だが、そこでも足場の鉄、木材の残骸で進むたびに体力を消耗していく
「もう、歩けない」
その場にタケルは座りこんでしまった
現在地は、南階段のふっしつと呼ばれるスペース
B4階の北側から、B2階の真ん中の通路を通って、何とかここまで来ていた
図面上は、そこから南の通路を出て、外側を回り、B2からB1にスロープで上がり、さらに外周を回れば地上に上がれるはずだった
がれきがなければ、10分もあれば行けるルートだったが、今の状況では数時間かかることが予想された
体力はもうない
そして、時間は12時を回ろうとしていた