B3へ
引き上げてくれたおっさんは、とび職の川上 という名前で、40手前くらいだが、かなりガタイはよかった
「ちょうど良かった、俺はこのフロアに閉じ込められてて、ひとりじゃどうすることもできなかったんだ」
そのおっさん曰く、B3への階段の途中で、でかい岩の塊があって先に進めないとのことだった
B4階は見るも無残な状況だった
本格的にコンクリで外壁を埋める工事の最中だったため、木材、鉄骨、鉄の棒が、そこら中に散乱していた
ほとんど行く場所が制限されていて、どうやら階段を使う以外に道は無い
「ここさえどけば、一気に上に行けるはずなんだがな」
とおっさんは言った
案内された階段は本設で、コンクリで固められていたため、崩れることはしなかったが、その奥から入ってきたがれきでふさがれてしまっていた
「鉄の棒か何かをテコにして、二人でどかしてみますか」
タケルはそういい、鉄の棒を現場から探してきた
通路をふさぐ岩の塊は、自分と同じくらいでかい
棒を差し込む
おっさんは岩の横に行って、岩を押す
「せーの」
タケルは棒を下に押し、おっさんは岩を賢明に押し続ける
しかし、岩はびくともしなかった
「このサイズじゃ、ちょっと無理ですね ドリルか何かで削って、小さくできれば」
「ドリルか、このフロア内にも、道具置き場は有るはずなんだがな」
だが、B4はB5と違い、小部屋はすべてがれきで埋もれていた
おそらくそこを資材置き場にしているはずだが、入ることはできなかった
「最悪、いったんB5に戻ってドリルを持ってくるって方法があります ただ、足場から貯水槽に渡らないといけないんですが、はしごを落としてしまって」
「はしごをかけてそっちまで来たってことか 俺はとびだぜ?ここに落ちてる材料があれば即席のはしごを作れる 俺が取ってきてやる」
といい、近場に落ちていた、ワイヤー、鉄の棒を組み合わせて、はしごを作った
かなり重そうだが、がっちりしている
「すごいですね」
「で、B5階だな?」
「そうです、B5階の南の方に進んでください そしたら足場から貯水槽まで行けます 隙間が3メーター程有るんですけど、そのはしごを使えばなんとか行けます
ただ、道が狭いんで、引っかかったらいけないですけど」
「まあ、やるしかないさ」
そう言っておっさんは高所作業車に乗り込んで、下に降りて行った
タケルはあることが気がかりだった
ここにくる途中で置いてきた監督のことだ
おそらくとびのおっさんは目撃しているに違いない
監督は生きているのだろうか
その時、おっさんが戻ってきた
ドリルを脇に抱えている
「取ってこれたんですね」
しかし、おっさんはこちらを向いてこういった
「お前、なんで黙ってた」
「・・・僕にはどうすることもできませんでした」
「はしごと、監督を見た お前は、見殺しにしたのか?」
やはり気づいていた
そして、監督は助からなかったのだ
「すいませんでした」
タケルは状況を説明し、監督を助けられなかったことを謝った
「くそったれ」
ただその一言だけを残し、階段のところに向かって行った
ひたすら黙々と作業を行い、どうにか岩を削りとり、小さくすることに成功した
そして、2人で岩をどかし、最後はテコを使って通路を確保することができた
ギリギリ一人はいれる程度の隙間がなんとかできた
そのまま階段を進もうとしたところで、突然おっさんがこう言った
「お前はダメだ」
そして、思いっきり階段から突き落とされた
「お前は人を一人見殺しにした 俺も同じことをお前にしてやる」
そういって、意識がもうろうとする中で、通路をぬけた反対側から、おっさんはもう一度岩でフタをしたのである
「なんでこんなことを・・・」
ゴゴゴンと、音がし、道がふさがれてしまった
時間はすでに9時を回っていた
さすがに疲労がたまり、動けなくなっていた
さらに、ヘッドライトの電池も切れ、スマホの明かりでかろうじて周りが見渡せる状況であった
「ドリルは持ってかれちまった」
唯一の手段もなくし、タケルは絶望に打ちひしがれていた